今回は趣向を変えて、ノンフィクションの書籍をご紹介したい。6人のAV女優・男優へのインタビュー記事をまとめた『AV女優の家族』(寺井宏樹・著/ 光文社)である。
読者自身のきょうだい、母親、親戚、親族のなかに「AV女優」が存在したら、いったいその職業をどう捉えるだろうか。
かつては偏見の対象であったAV女優という職業は、現在では「セクシータレント」という肩書を持つようになり、地上波テレビ番組にタレントとして活動するまでに成長している。
深夜番組では、セクシータレントを大半としたアイドルユニットも結成され、「芸能界への第一歩」として垣根が低くなっているが、世の中に裸を晒し、性を売り、ネット上に一生残ってしまう稼業である。
そんな危うい職業に足を踏み入れた彼ら、彼女たちは、どのような形で「身バレ」したのか、そして、身バレした後は、家族とどのように関わっているのか……さまざまな立場の女優・男優たちが赤裸々に語っている。
「芸能界に入りたい」という想いからAV女優になる女性は多い。本作で取材されている優月ここなもその一人だ。
裕福な家庭で育った優月は、小学生の頃に両親が離婚してから家庭環境が一転し、貧乏になる。祖父母と姉、そして優月の4人の家計を母親が一人で支えていた。本作の取材では当時の貧困の様子を淡々と語っている。
そんななか、声優になることを夢見ていた優月は、偶然知り合ったプロデューサーと名乗る男から声をかけられ、細々と声の「仕事」もしていた。しかし、その男に捨てられて居場所がなくなり、歌舞伎町でスカウトされてから風俗の仕事を始め、ホストクラブにハマるようになる。心身ともに疲弊した頃、出会った仕事が「AV」であった――。
「自分で稼いで人に頼らず生きていけるようになった」
笑顔の写真とともに、優月はそう語っている。幼い頃から貧困を体験し、うつの祖母と母親とともに暮らしながらも必死に「生きよう」とした優月。彼女の明るい笑顔の裏に潜む壮絶な過去を想像すると、拍手を送れずにはいられない。そして、裸一貫になって逞しく生きる彼女を、誰が責めることができるだろうか。
コロナ禍の影響により、じわじわとストレスが私たちを覆い、生きにくい世の中になっている。本作は、どのような状況下においても「生きる」強さと逞しさを備えた人々のリアルが語られている。日々生きることに疲れたと感じる方へのエールとなる一作である。
(いしいのりえ)