日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。6月27日の放送は「はぐれ者とはぐれ猫 ~小さな命を救う男の闘い~」。
あらすじ
名古屋で猫の保護活動を行う「花の木シェルター」を運営する阪田泰志36歳。髪型はソフトモヒカン、革ジャンとジーンズを細身の体で着こなし見た目はロックミュージシャンのようで、「猫の保護活動をしている人」と聞くと思い浮かぶタイプとはずいぶん雰囲気が異なる。
阪田は自身を活動家と呼び、ボランティアではないと明言する。日本ではボランティアに「タダ働き」という言葉のニュアンスがしているから嫌い、と話す。阪田のもとには月に20件以上の保護依頼が入るそうだが、里親が見つかるまでの養育費として月1.5万円を受け取っているという。タダでないことに怒る依頼者もいるそうだが、阪田は「今まで(保護活動を)やってこられた方たちの中に「自腹を切る美学」があるんですよ。僕にはそんな美学はないので」と話す。それでも猫の餌代だけで40万円かかる経営は火の車で、電気を止められることもあり、1000万以上の借金をかかえているという。
阪田のもとにはさまざまな依頼が寄せられる。ネズミ捕りシートが体中に張りついてしまい衰弱した子猫を助けてほしいという依頼、覚せい剤所持で逮捕、服役することになり、その間猫を預かってほしいという依頼、多頭飼育が崩壊した家では、一軒家にまともに餌も与えられない猫が33匹暮らしており、床が見えないほど糞が堆積していた。
応対していた当事者である一家の50代の母親はおとなしい感じの女性だったのだが、ぼんやりと弱々しく、エネルギーのない印象だった。多頭飼育をする人は繰り返すと阪田は母親を諭す。猫たちは、避妊手術の上、一部を元の家庭で育て、大部分の猫を阪田のシェルターで引き取ることになる。
番組の最後は覚醒剤所持で服役していた女性が出所し阪田の元を訪ね、服役中も猫の様子を写真で送ってくれたことに礼を伝えていた。なお、コロナ禍のステイホームの影響もあってか、猫の引き取り手は増えているとのこと。
番組内で、猫と暮らしたいという70代の女性が登場した。保護猫の譲渡を検討していたが、さまざまな団体から高齢者であるため看取りが難しいと断られた中、花の木シェルターから成猫を引き取り、これから共に暮らすという。
「高齢の飼い主に譲渡はできない」という多くの団体が、何を心配し、何を懸念しているかはとてもよくわかる。飼い主の突然死、認知症など不安要素だらけともいえる。阪田はいざというときは責任を持つ、ということで譲渡をしていた。阪田の方法はリスクもあるし、賛否両論はあると思う。ただ、阪田の手段は猫の殺処分ゼロ、を目指すにおいて一つの希望にも思えた。
何より「高齢者の飼い主」と「成猫」の相性を思う。これは「飼い主側の余生の期間の問題から、成猫の方がいい」が非常に大きいが、それ以外に成猫は運動量が少なく落ち着いているというのもある。かつて猫を飼っていたが、子猫のころは何事にも興味津々で、そこがたまらなく可愛いのだが、エネルギーの塊のような子猫を高齢者が飼うのは大変だろう。さらに、やはり猫を引き取りたい人を見れば「子猫から飼いたい」という人が全体から見れば多いはずであり「高齢の飼い主」と「成猫なら引き取れる」という組み合わせには可能性を感じた。
『ザ・ノンフィクション』では動物愛護をテーマにした回が多く、過去にも多頭飼育が崩壊した家が放送されていた。
そういった飼い主(飼えていないのだから、個人的にはこういう人を飼い主と呼びたくないが)には共通して、地域、社会、家族とのつながりを感じさせない、生きづらそうな雰囲気を感じる。「地域のちょっと変わり者」の成れの果て、といったように筆者には見える。変わり者になってしまった本人にも、それまでの境遇に気の毒な部分もあるのだろうが、だからといって立場の弱い動物を巻き込む状況には、まったく同情できない。
以前、動物愛護活動をしている人に取材をした際、「ネズミ算というが、猫もネズミ並みに増える、猫算だ」と聞いた。1年放置するだけで倍以上に広がるということだ。
一般的な、不文律として大勢の人が当たり前だと思うモラル、道理が通じない人でも動物を飼えてしまうという現実がある以上、「この家はヤバい」と気づいたら一刻も早く役所などに通報することが、今取れる最善策なのかもしれない。
しかし、通報は「自分が罪なき動物たちの殺処分の引き金を引くのかもしれない」というためらいはあるだろう。だがそこで周辺住民も見て見ぬふりをすれば、動物はますます増えていく。本当に難しい問題だと思う。
奈良県出身で、北海道で大学生活を送った阪田が、今名古屋で活動をしているのは名古屋が政令指定都市の中で当時、猫の殺処分が一番多かったからだという。番組内では名古屋市の10年前の殺処分数はおよそ3,000匹で、2019年は66匹と伝えられていた。
なお、東京都の動物愛護センターのホームページを見ると、令和元年の都内で殺処分された動物は660匹だったが、これが10年前の平成22年度は4,045匹、20年前の平成13年度は1万5,625匹まで増えていく。掲載されている中では一番古い41年前の昭和55年度は6万2,815匹だったため、令和元年と比較すると100倍近い殺処分があったことがわかる。今は殺処分ゼロを目標に掲げる自治体も多い。
「国の偉大さと道徳的発展は、その国における動物の扱い方でわかる」とは、ガンジーの言葉だ(ガンジーでない説もある)。この点において社会は進歩していると思うし、昔は経済的には豊かだったのだろうが、動物を殺して成り立つ社会に比べれば、今のほうがずっといい。
今、このような機運が醸成されるまで、過去からの大勢の人たちの尽力があったのだろうと思いを馳せた。花の木シェルターのホームページでは寄付、ボランティア募集のページもある。私も今回の原稿料の一部を寄付した。
来週の『ザ・ノンフィクション』は『ボクがなりたいもの~芸人になる。と上京した娘~』。お笑い芸人になると上京した幸世は「男になりたい自分」をネタに舞台に上がるがまったくウケず収入もない。幸世に仕送りを続ける親も堪忍袋の緒が切れて……。