日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。2月6日の放送は「おせっかい男とワケありな人々~あなたのお家 探します~」。
あらすじ
アフロの髪形におしゃれなパーカーと、古着屋店員のような見た目の高橋大輔は「おせっかい不動産」の代表だ。おせっかい不動産には店舗も看板もない。神戸市長田区にある介護付きシェアハウスの、高齢者たちがたたずむ大広間の一角でパソコンを立ち上げ仕事をしている。
このシェアハウスを運営する首藤が高橋と意気投合し、「自分たちの理想の不動産屋をつくろう」と持ち掛けたという。首藤はかつて自分におせっかいをしてくれたおばちゃんと高橋がかぶると話す。おせっかい不動産は、ほかの不動産会社なら断ってしまうような「割に合わない」仕事も引き受ける。
火事で家を焼け出されてしまった、生活保護で暮らしていた身よりのない福永には新居を探すだけでなく、中古ながら状態のいいテレビや冷蔵庫、さらには家具から包丁まで家財道具一式を調達して引き渡していた。
病気でほぼ目が見えない一人暮らしの美津子は、当初おせっかい不動産で家を探すも予算の折り合いがつかず公団に入ることになり、高橋の顧客ではなくなったのだが、一度会った縁と、高橋は引っ越しまで手伝う。また、91歳の身寄りのない女性が亡くなった際は、遺品の整理も手伝っていた。
採算度外視のおせっかい仕事もためらいなく引き受ける一方で、高橋はもともと大手不動産会社の営業マンだった経歴を生かし、数百万円の契約もこなす。
そんなおせっかい不動産に新人女性、岡崎が加入した。岡崎は今も大阪・西成で日雇い労働者の生活支援を行うNPOで働いており、そもそも首藤の介護施設の手伝いを希望していたが、おせっかい不動産に配属される。当初、おせっかいはありがた迷惑だと思われるのでは、と岡崎は戸惑いを番組スタッフに口にしていた。
次なるおせっかい不動産の顧客、79歳の橋迫はがんが見つかり、それまで住んでいた風呂なし、水場も共同の2畳の部屋より、もっと環境のいい部屋のほうが良いだろうとソーシャルワーカー経由で依頼が入る。
この家探しにおいて、ケアマネージャー、ヘルパー、訪問看護が集い、岡崎は「(その中に不動産会社である)おせっかい不動産がいていいんだっていうのはすごくしっくりきました」と腑に落ちた様子で話しており、その後、橋迫をひとり訪ね、生活の様子ごく自然に尋ねる岡崎の姿も放送されていた。
高橋の本職は不動産業なのだが、おせっかい不動産の採算度外視の仕事を見ていると、これはもう福祉の領域に見える。『ザ・ノンフィクション』では今回に限らず、福祉、社会問題と向き合っている人たちを多く伝えており、今回の高橋でいいな、と思ったのが、数万円するパーカーを着て、髪形もアフロヘアーと金がかかるファッションを決めていたところだ。
ファッションが好きで、自分のスタイルにこだわりがあるのだろう。「おせっかい不動産」の仕事と「金のかかる個人的な趣味を両立させている」ところが実にいいと思った。
福祉はどうしても「豊かさ」とのリンクが弱い。というか、そもそも、社会が「豊かさ」を目指す中で「ひずみ」が生まれてしまい、そのひずみによって最低限の社会生活が困難になった人をなんとかしようとするのが福祉なのだと思う。
そのため、どうしても福祉は「金」と縁遠くなりがちなのだろうが、あらゆる面で余裕がない中、手弁当で人の幸福のために身を削る人というのは、見ていて切なくなるものがある。そんな中で、高橋のファッションへのこだわりや、妻子の待つ家に午後6時には帰るという姿は見ていて安心した。社会を思う気持ちと、自分の楽しみやプライベートを両立させようとする姿に、今の時代の良さを思った。
高橋は大手不動産会社での経験を生かし、おせっかい以外の不動産業務もこなしていて、番組内は札束が映るような高額案件もあった。福祉や社会問題を生業にしようと志す人は、採算は二の次になりがちな傾向もあるように思うが、それ自体がお金を生み出しにくいからこそ、「金」のことがむしろとても大切なのだと思う。
番組では、突然亡くなってしまった女性の遺品整理に取り組む様子も伝えられていた。一人暮らしの91歳の女性で、部屋は物が多めだが片付けられており、作りかけの刺繍は虎の全身模様という気合の入ったものだった。高齢ながら、一人生活をきちっと、また、楽しみをもって営んでいたのであろう様子が部屋からしのばれた。
しかし突然死によって、サイフの置き場所は? 保険証は? という部屋の大捜索が始まる。一人暮らしの場合、家を引き払う必要があるわけで、本人が亡くなったあとも人手や、それに伴い金がいる。
どうしても生きていると「死んだ後」についてはついふたをしてしまいがちだが、あらためて自分が死んだあと数日は続く「死後の仕事」の備えについて考えてしまった。
次回の『ザ・ノンフィクション』は「もう限界かもしれません ~コロナと父娘のラーメン屋~」。「もう限界かもしれません」から始まる張り紙が物議を醸し、話題となった1軒のラーメン店がある。埼玉県を中心に居酒屋、キャバクラを展開する飲食店グループを経営する社長とその娘の苦難について。