羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。
<今週の有名人>
「松居一代です」小林麻耶
國光吟氏YouTubeチャンネル「吟 Akira」(3月21日)
最近はやっている暴露系YouTuberを真似たのだろうか。タレント・小林麻耶が元夫の國光吟氏のYouTubeチャンネル「吟 Akira」にて、「秘密の暴露」を始めた。
2020年に『グッとラック!』(TBS系)のコメンテーターを降板、所属事務所にマネジメント契約を解除されてから、テレビでほぼ見かけなくなった麻耶。どうしても多くの人に訴えたいことがあるのかもしれないが、「暴露すること」で窮地に立たされるのは、麻耶自身ではないかと思う。
3月21日に公開された動画「小林麻耶暴露」での発言によると、麻耶と國光氏は昨年の4月に離婚したそうだ。しかし、元夫である國光氏と、17年に亡くなった麻耶の妹・小林麻央さんの夫であり、歌舞伎俳優・市川海老蔵からの「公表しなくていい」という意見に従い、発表を控えていたという。
しかし海老蔵は昨年10月29日、自身のオフィシャルブログに「おかえり」というタイトルで、麻耶の離婚を示唆したうえ、久しぶりに甥や姪と会ったかのような印象を与える文章をつづった(麻耶いわく、子どもたちと交流が途絶えていたことはなかったそうだ)。麻耶は歌舞伎関係者に聞いた話として、海老蔵がこのブログを書いた理由は、自分のオンナ遊びをカムフラージュするためだと暴露。許可なくプライベートを「売られた」と感じ、麻耶はショックを受けたと語った。
離婚こそしたものの、麻耶は國光氏と親しくしていた。一方で、海老蔵のブログを見た週刊誌記者が麻耶を追いかけ、國光氏とのツーショット写真を紙面に掲載。それを見た海老蔵ファンから「海老蔵さんの気持ちをなぜこんなに踏みにじるんですか?」「恥ずかしくないんですか?」「あなたなんていなくなればいい」などと、バッシングされたらしい。
自分は悪いことをしていないのに、悪者と決めつけられたことに納得がいかなかったのだろう。麻耶は海老蔵の「真の姿」を暴露し始める。
海老蔵は亡くなった妻・麻央さんの病室にやってきたものの、その場に5秒もいなかったこと。さらに、「ものすごく苦しくて、本当に大変なときに競馬新聞を病室で開き、競馬を見ながら楽しんでいましたよね、私と母と父の前で」「とてもいい施術をしてくれる先生方を見つけては、ご自分が先にその時間を取り、長い間施術を受け、妹はいつも後回しでした」「妹が亡くなった日に、海老蔵さんは父に向ってこう言いました。『こんなに高いマンション、借りたばっかりなのに!』って。父は絶句していました」「妹からも相談を受けていました。『苦しいよ、苦しいよ、死にたいよ、離婚したいよ』って」。
麻耶にとってはキツい仕打ちだったのだろうし、暴露したくなる気持ちはわからないでもない。しかし、これは「闘病・介護あるある」「結婚生活あるある」と言えるようにも思えた。
私も経験があるが、家族だからといって、全員が病人の気持ちに寄り添えるとは限らず、むしろ「この人、何しに来たんだろう?」と言いたくなる身内はいる。このような例は私の周りに限ったことではないようで、ある外科医から聞いた話だと、妻の入院中に「おまえが入院しているから大変だ」と嫌味を言う夫や、70代の母親が入院した際、娘は仕事と子育てをしながらせっせとお見舞いに来るのに、独身の息子は全く顔を見せないこともあるそうだ。
また、麻央さんが離婚したいと思っていたという話も、意外性はなかった。というのは、結婚していて離婚が一度も頭をよぎらない人のほうが稀だろうし、麻央さんの場合、嫁ぎ先は梨園だ。複雑なしきたりや人間関係の中で疲れ果て、離婚したいと思い、信頼する姉につい気持ちを漏らしたとて不思議ではない。
歌舞伎界きっての名門・市川家の跡取りとして、子どもの頃から大人に囲まれ、お世話され続けて育っただろう海老蔵。妻を愛しているからといって、闘病中にいきなり違う性質の人間になると私は思わない。海老蔵が妻を支える夫として不向きであったとしても、「いい夫ではなかった」とは言い切れないし、麻央さんが「離婚したい」と言ったとしても、それは「愛のない結婚生活」「夫婦不仲だった」ということではないだろう。
“真実”を伝えれば、世間の人は見る目を変えて、自分の味方をしてくれると麻耶は思ったのかもしれない。しかし、暴露というのは、インパクト次第で真実だと信じてもらえるか否かが決まる勝負でもあると、個人的に思っている。たとえば、海老蔵が麻央さんの闘病中に不倫していたなど、明らかに倫理に背くことを確たる証拠と共に白日の下に晒せば、世間は驚くだろうし、真実だと信じてもらえそうだ。
そう考えると、麻耶が今回YouTube上で明かした話だけでは「よくあること」で済まされてしまい、かえって麻耶のほうが「海老蔵に固執している」と悪印象を持たれてしまうのではないか。
暴露動画には年齢制限があったものの、その内容がネットニュースになれば、海老蔵のお子さんたちも簡単に目にすることができる。麻耶にそんなつもりはなくても、お子さんたちを傷つけることになってしまい、親族から疎まれてしまうかもしれない。今回の暴露で海老蔵に与えたダメージと、麻耶が背負うリスクを比べると、後者のほうが大きくはないだろうか。
麻耶は動画の冒頭で「松居一代です」とボケて見せた。17年、俳優・船越英一郎と離婚をめぐって揉めていた女優・松居一代は、マスコミが船越の所属する大手事務所に忖度して、「真実(船越の不倫)」が報じられないと思い、YouTubeを立ち上げる。そこで、船越のセカンドバッグにバイアグラが入っていたことなどを「不倫の証拠」と語った。その暴露スタイルを真似るという意味で、麻耶は「松居一代です」という“ギャグ”を言ったのかもしれないが、一代を甘く見てはいけない。
“松居劇場”が連日繰り広げられる中、一代は「日刊スポーツ」の取材に対し、「タレント生命なんて気にしていません。もうテレビに出ることはないでしょう。日本にいるつもりもありません」と答えている。これは、一代はもうテレビに出られなくなる、タレントとして活動できなくなることを覚悟の上で、船越が所属する大手事務所にケンカを売るような暴露をしたと見ることもできるだろう。
実際、一代は船越の名誉を棄損したとして、民事で船越の所属事務所から、刑事で船越本人から訴えられた。しかし、所属事務所とは金銭支払いなしで和解が成立、刑事事件のほうでも不起訴となった。日本にいるつもりはないという言葉通り、現在、一代はアメリカに渡り、投資家として活躍している。不安定に見えて実はものすごく緻密で計画的というか、有言実行というか、自分のやりたいことは全部やるのが一代らしさだと思う。
それに対し、麻耶はどうか。暴露動画を出す前、22年3月18日のブログで「これから私はまたテレビに出たいと思っています」と書いていたし、「何も悪いことをしていないので今までお世話になってきたテレビ局の方は私のことを信じていただけたら幸いです」と結んでいる。確かに法律違反をしたわけではないのだから、テレビに出る資格は十分ある。
しかし、暴露というのは、法律違反とは違った意味で嫌がられるのではないだろうか。「暴露する人」という“実績”を自分で作ってしまったため、ちょっとした行き違いや誤解を「いじめられた」「だまされた」と一方的に暴露される可能性を考えたら、テレビ関係者に敬遠されることは想像に難くない。「テレビに出たい」と言いながら、その可能性が遠のく行動を取る麻耶に、一代のような計画性はあるのだろうか。
一方で、麻耶は数秘術のオンライン講座を開設するなど、スピリチュアルカウンセラーとしての活動を発表している。しばらくはその活動に専念して、占い師としての実績を作ったらどうだろうか。占いというのは固定ファンのいるジャンルなので、「当たる」と評判になれば、テレビのほうから「お願いします、出てください」とオファーが来るはずだ。
久しぶりに麻耶を見たが、少しやせたように感じる。まず体を大事にして、大きな決断はその後にしてほしいと思わずにいられない。