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阿佐ヶ谷姉妹は、今のテレビが求める条件をすべて満たす……「キラキラ」「攻撃性」のない笑いが求められるワケ

羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。

<今週の有名人>
「好きなご挨拶ベスト3」阿佐ヶ谷姉妹 
『久保みねヒャダ こじらせナイト』(3月18日放送、フジテレビ系)

 3月23日放送『あちこちオードリー』(テレビ東京)に出演した磯山さやかが、自身の芸能生活22年に浮き沈みがなったことの理由として、キラキラした芸能人がよく出没する西麻布や六本木には行かず、そもそも、芸能人同士で飲み歩かなかったことを挙げていた。「(一緒に)飲んでいた人が、のちに逮捕されちゃう」ことがなかったので、芸能活動が阻害されなかったという。

 確かに、コンプライアンスを遵守する今のテレビでは、本人ではなく、友人が警察のお世話になることも好ましくないだろう。2021年1月発売の「週刊文春」(文藝春秋)が“ゆきぽよ”こと木村有希の自宅で知人男性がコカインを使用し、ゆきぽよ宅は強制捜査を受けたと報じた。ゆきぽよ本人が薬物を使用したわけではないが、この報道の影響があったのか、テレビで見る回数はめっきり減ったように感じる。個人的には、タレント本人が法律違反をしていないのなら、そこまで目くじらを立てる必要はないと思うが、それではスポンサーは納得しないのかもしれない。

 テレビはずっと“キラキラした人”が注目を集めるもので、大衆はそれに憧れ、彼らを真似てきた。しかし、磯山の話を聞くと、今のテレビは西麻布や六本木に行かないような、「キラキラしない人」が向いている場となりつつあるのではないだろうか。

 また、テレビの見せ方も変わりつつあると感じる。3月11日放送『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日系)で、「病院で受付の前に立ってから診察券を探す人、改札のギリギリで残金不足で通過できない人、レジで金額が出てからお財布を出す人など、準備不足の人を許せますか?」という視聴者からの質問に、有吉弘行とマツコ・デラックスが答えていた。かつては、タレント側が「こういう人は許せない!」と怒り出し、お茶の間がそれに賛同したものだったが、同番組は「視聴者の許せない人」を紹介し、出演者に共感させていたのだ。

 こうした変化と、ネットでの書き込みが過激化していることは無関係ではないだろう。名前の売れたタレントが「こういう人は許せない!」と一般人のことを批判すると、視聴者の中には「上から物を言われた」と感じて、そのタレントに誹謗中傷めいた意見を書きこむ可能性がいないとは言えないし、番組自体が炎上する可能性もある。それを避けるために、制作者は視聴者の投稿に共感をさせるなど、番組を「攻撃性のない内容」にするしかないのではないだろうか。

 「キラキラしない人」であり、「攻撃性のない内容」に対応でき、かつタレントとしての知名度と、オリジナルな面白さを持っている。この条件をすべて満たす芸能人は今、阿佐ヶ谷姉妹しかいないのではないかと思う。

 3月18日深夜放送『久保みねヒャダ こじらせナイト』(フジテレビ系)に出演した阿佐ヶ谷姉妹は、「好きなご挨拶ベスト3」というテーマを持ち込み、トークを展開した。この「好きな○○ベスト3」は阿佐ヶ谷姉妹の定番ネタだが、どギツい笑いに慣れてしまった人には、インパクトが足りないかもしれない。 
 
 阿佐ヶ谷姉妹が挙げた1位は、渡辺が「ありがとうございます」、木村が「いってきます」で、これも刺激があるとは言い難い。だが、こういうネタは誰も傷つけないし、好きなものを語っていると、自然と平和な空気が漂う。大爆笑を取るタイプではないが、これくらいの攻撃性のなさが、今のテレビには合っているように思った。

 阿佐ヶ谷姉妹の渡辺江里子と木村美穂は、血のつながった姉妹ではない。2018年開催の『女芸人No.1決定戦 THE W』(日本テレビ系)で優勝し、売れっ子の仲間入りを果たした2人だが、『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』(幻冬舎)によると、2人はそれまで六畳一間で同居生活を送っており、プライバシーがないことで小競り合いを起こすこともあったという。

 晴れて売れっ子になり、別々に住むことにするが、2人はキラキラした港区を目指さない。もともと住んでいたアパートの隣の部屋が空いたことから、そこに引っ越し、お隣さんとなった。

 ひと昔前の価値感なら、40代の独身女性が2人で住んでいると、「さみしい女たち」と言われたかもしれない。しかし、芸能人の不倫報道が頻発していることでもわかる通り、結婚したからといって、愛のある生活を送れるとは限らない。それに、近年「毒親」「きょうだいリスク」という言葉が出てきたことからも、血のつながった家族でも適切な関係が築けないことがあると、我々は知ってしまった。

 それなら、夫婦でなくても、血がつながっていなくても、気の合う人と隣に住み、心の通った会話をし(夫婦や家族であっても、表面的な会話しかできないことはある)、自分の好きな仕事をして、経済的な独立を果たす阿佐ヶ谷姉妹のような暮らしというのは、現代の理想の形の一つではないか。阿佐ヶ谷姉妹はお笑い芸人として視聴者に求められるだけでなく、大衆の憧れになりつつあるのだろう。

 阿佐ヶ谷姉妹が日常的なフツウの話をして、ふふっと笑う。キラキラも大爆笑もない代わりに、人を傷つけることもなく、攻撃性もない。だから、飽きることもなく、延々と見ていられる。今の視聴者が求めているのは、そんなフツウの笑いなのかもしれない。

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