• 木. 7月 31st, 2025

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『ザ・ノンフィクション』火事でゆっくりと失ったもの「火事と夫婦と生きがいと ~高円寺『薔薇亭』の1年~」

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。4月3日の放送は「火事と夫婦と生きがいと ~高円寺『薔薇亭』の1年~」。

あらすじ

 2020年の年末、東京、高円寺で50年愛され続けた洋食店「薔薇(ローズ)亭」が全焼した。薔薇亭は80歳のマスター、正氏が作る大盛りの料理と、お客さんを我が子のようにもてなす帽子がトレードマークのママ、78歳の千種が切り盛りしていた。

 夫婦は営業再開に向けて動き出すものの、人気の街、高円寺は家賃の高騰もあり、店の跡地で営業を再開する場合、家賃が倍以上になってしまうと聞かされる。ほかの物件を探すも、揚げ物など油を多く使う飲食店は匂いの問題から取り扱いが少なく、物件探しは難航。さらにマスターは肩の調子も悪く、夫婦は店の再開を断念する。

 マスターはもともと趣味だった油絵、ママは書道を始めるなど新たな生きがいを探すが、突如始まった夫婦二人だけの生活は互いにいら立つことも多いようだ。マスターはママを避けて一人で食事をとり、ママは薔薇亭の常連客に慰められたり愚痴を聞いてもらったりもしていたが、夫婦ともに沈んだ日々が続く。

 そのような中、薔薇亭の常連客有志がママの誕生日会を企画し、マスター、ママを招待する。常連客の一人は自分の娘にもマスターの料理を食べさせたいと話し、手紙を渡す客もいた。そんな客たちの思いにマスターは礼を伝え、ママはその様子に驚いていた。

 番組の最後、マスターは肉じゃがやとんかつを手慣れた様子で作り、ママと2人で食卓を囲んでいた。2人はまた店舗を探しているという。

『ザ・ノンフィクション』過失のない火事で家賃が倍に?

 番組内では火事の詳細な原因については触れられず、「もらい火」とだけナレーションで語られた。火災において薔薇亭に過失はないようだが、夫婦が跡地で営業を再開しようとしたところ、家賃が倍以上で諦めざるを得なかったという。

 借主の落ち度ではない火災にもかかわらず、貸主は家賃を上げていいことに驚いた。「住まい」ではなく「事務所や店舗」の賃貸契約は、このようにシビアなのもしれない。

 『ザ・ノンフィクション』で過去に新宿歌舞伎町の薬局をテーマにした回があったが、貸主の都合で借主である店主が出ていかなくてはならなくなり、次の物件を急いで探す様子が伝えられていた。

 また、私自身も働いていた会社の事務所が、貸主側の突然ともいえる都合で、入居から数年で引っ越しを余儀なくされた経験がある。

 薔薇亭の夫婦にしてみれば、半世紀を歩んだ店を失っただけでなく、再開のめども立たない悲惨な状況だ。

 薔薇亭の跡地は、2020年年末の火災から1年たった21年の年末時点で、新しい建物の土台ができている状態だった。

 その1年の間、薔薇亭の焼け跡は立ち入り禁止のフェンスに囲まれたまま放置の状態が長く続き、その後、重機が入り解体され瓦礫になり、更地になり、更地となった土から草が生え……と、そのゆっくりとした喪失を見に来る夫婦の背中は切なかった。

 高円寺は庶民的で親しみやすい雰囲気とは裏腹に、新宿へのアクセスの良さや中央線ブランドもあり、家賃の面ではむしろ「お高い」街と言っていい。高円寺から離れたら家賃は安くなりそうだが、50年高円寺で店をやってきて、街になじみが深い老夫婦に、同地を離れろというのは酷だ。

 夫婦ともに高齢で、希望を失うのも無理もない状況にも思えるが、番組の最後ではぎくしゃくしていた家庭生活を立て直し、物件を探すなど二人の前向きさ、タフさを感じさせるものだった。報われてほしい。

 次週は「泣かないで アコーディオン ~シングルマザーの大道芸人~」。大道芸人のあんざいのりえは芸歴23年のベテランで、アコーディオン一つで息子を育てるシングルマザーでもある。しかしコロナがのりえ親子の暮らしにも直撃し……。

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