羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。
<今週の有名人>
「この人にもご両親がいるんだな」小泉孝太郎
『上田と女が吠える夜 2時間SP』(4月6日放送、日本テレビ系)
4月6日放送の『上田と女が吠える夜 2時間SP』(日本テレビ系)に、小泉孝太郎が出演した。同番組は、オアシズ・大久保佳代子ら女性出演者が「デリカシーのないヤツ」「トレンド疲れ」などのテーマに沿って、“吠える”トークを展開する。こういう番組のゲストは“吠える”タイプの正反対、「まあまあ、それくらい、いいじゃない」といった温和なタイプのゲストがいると、バランスが取りやすいだろう。高祖父、祖父も政治家で、総理大臣を父親に持ち、物腰がやわらかい孝太郎は、ステレオタイプな見方をすれば「温厚なおぼっちゃん」なわけで、番組のゲストには適任だったと思う。
「最近ちょっとイライラしたこと」というテーマで、孝太郎は、ゴルフをやっている時に遭遇するカラスにイラつくと明かした。「(カラスから)うまく距離が離れた時にやってきて、まだ食べていないカレーパンとコンソメスープ、それ持っていかれたときはイライラしましたね」と話し、司会のくりぃむしちゅー・上田晋也に「意外と小せぇことでイライラしていた」とツッコまれていた。
また、若槻千夏が「エスカレーター降りてすぐに止まる人」にイライラすると話すと、孝太郎は「わかります」とした上で「すごい大きな交差点で、タクシー止める方(と一緒)ですよね」と共感していたから、比較的イライラしやすい側の人間なのかもしれない。
しかし孝太郎は、イライラしても文字通り「水に流す」ことを心がけており、スポーツクラブに行き大浴場の水風呂に入るなどして、気持ちを切り替えるそうだ。
また、仕事の現場でイライラした話でスタジオが盛り上がっていた際、上田は「こういう時ってどうしますか?」と質問。孝太郎は「彼にもご両親がいるんだな」と思うことで、イライラをもたらした相手を許すことにしていると話していた。「僕と同じように、みんな両親に育てられたんだなと思うと(イライラが)スっとさめていく」という。
イライラをもたらした相手を怒ったり憎んだりすると、その人を慈しみ育ててきた両親が悲しむ。そう思うと、イライラしていられない……という意味なのか。私にはちょっと意味がわからなかったが、自分なりのアンガーマネジメント法を持つのは、メンタルヘルスを損ねないために有効だろう。
一方で、孝太郎に提案したいことがある。もとからイライラしなくなるために、自分を振り返ってみてはどうだろう、ということだ。
孝太郎は2013年、『恋のから騒ぎ』(日本テレビ系)にゲスト出演したことがある。明石家さんまが司会で、マツコ・デラックスやIKKO、KABA.ちゃんら、番組内で“おネエ軍団”として登場したメンバーが、テーマに沿ってトークを展開していた。そんな中、孝太郎が脈絡もなく、自身の出身地である横須賀名物「ポテチパン」の話を始めたのだ。「なんであの人、勝手に話変えてるの?」「うちらなら怒られるけど、あの人はいいんだ」というふうに、おネエ軍団がまぜっ返し、さんまも苦笑いしていた。
さんまはいろいろな番組で、バラエティは戦場、お笑いは団体競技、芸人にアイコンタクトを取って、緻密に笑いを作り上げていくと言っている。孝太郎のように勝手な話をされては、さんまの描く方向からずれてしまうわけで、イラッとしたかもしれない。共演者にしても、とっておきのエピソードを用意してきたかもしれないのに、突然話を変えられては披露のしようがなく、同じくイラッとしていそうだ。
このように、本人に悪気はなくても、相手をイライラとさせてしまうことはある。悪意を持ってわざとイライラさせているなら話は別だが、ある程度は「お互いさま」と思うことで、イラッとすることが減り、自分のメンタルヘルスも損ねず、人間関係も円滑になるのではないだろうか。
しかし同時に、「お互いさま」は一種の「あきらめ」ともいえるので、社会的地位がある人や、理想が高い人ほど受け入れにくい考えかもしれない。
16年発売の「女性自身」(光文社)で、孝太郎は一緒に暮らす女性への要望を明かしていた。「柔軟剤は季節で替えてほしい」「女性が台所に立っているときは、リビングで待っていたい。そのときにお酒のつまみになるものを一品先に出してもらえたら最高」「『こうしてほしい』と言ったときに、拒否せずに食らいついてきてほしい」そうで、なかなか要求が多く、求める女性の理想が高いことがわかる。
相手に「こうしてほしい」と思うほど、かなえられなかったときにイライラするだろう。こうやって考えると、イライラは相手の粗相によってもたらされることもあるが、自分の要求過多ではないか考えてみる余地も必要だと思うのだ。
そうはいっても、有力政治家の家庭に育ち、人気俳優となった孝太郎に、そういう内省ができるかはわからない。「この人にもご両親がいるんだな」と考えて「水に流す」のがアンガーマネジメントのコツなら、孝太郎の恋人や、彼を支える仕事関係者は、何かあったときに「この人の親は、総理大臣だしな」と考えて、「あきらめる」しかないという話にもなる。
特殊な家庭環境を持つ孝太郎がやるべきアンガーマネジメントは、相手の「あきらめ」で自分のイライラが収まった可能性を想像しながら、「お互いさま」と思うことではないだろうか。
孝太郎が活躍するために周囲のサポートは不可欠。どうか周囲をイライラさせずに、仲良くしていただきたいものである。