家庭を持っている女性が、家庭の外で恋愛を楽しむ――いわゆる“婚外恋愛”。その渦中にいる女性たちは、なぜか絶対に“不倫”という言葉を使わない。仰々しく “婚外恋愛”と言わなくても、別に“不倫”でいいんじゃないか? しかしそこには、相手との間柄をどうしても“恋愛”だと思いたい、彼女たちの強い願望があるのだろう。
約2年にわたる新型コロナウイルスの影響を受け、リモートワークが広く普及したことから、オフィスでの婚外恋愛を楽しんでいたカップルは場所を失った。一方で、リモートワークを逆手に取り、愛を深めていたカップルも少なくない。
「先月まん延防止が解除されてから、うちの会社も少しずつオフィスに人が戻ってきています。これまでの天国が一転して地獄ですよ……」
亜希さんはそう言って肩を落とした。まだ30代前半の亜希さんだが、結婚も婚外恋愛歴も長い。
「夫と結婚したのが早すぎたんです。新卒で就職してまもなく、おばあちゃんが病気になってしまって、入院して。お見舞いに行った時に『亜希の花嫁姿を見るまでは死なないから大丈夫だよ』なんて言ってくれて……早く見せないと! って、めちゃくちゃ慌てたんですよね。両親が共働きだったので、おばあちゃんに育てられたようなものでした。ものすごくおばあちゃん子だったんです」
就職してから半年ほどたった頃、新卒指導に当たった先輩と交際を始め、結婚した。
「6歳年上の彼は優しかったし、趣味も合うんですよ。最初は社内のテニスサークルで仲良くなりましたが、ロードバイクが趣味というところもぴったりウマがあって、今でもよく2人で箱根まで行ったりしますよ。夫はほかにも釣りが大好きです。私だけに依存しないで仲間と勝手に楽しんでくれるところも好感が持てました。手がかからないし、明るくて友達も多い。収入も大体想像つくし、こんな良い人なかなか見つからないなと思って」
ご主人と結婚したタイミングで亜希さんは退職し、数カ月の専業主婦生活をするも、すぐに別の会社で働くことになった。
「専業主婦生活の間しばらくは、ひとりでロードで遠征したりしてたんですけど、すぐ飽きちゃったんですよ。働くことが好きだし、せっかく大学まで行かせてもらって、社会人になるスキルを得たんだから、20代のうちからもっと吸収しておかないと将来困ると思って。夫も当時から将来は独立して起業するつもりでいましたから、私がスキルアップすることには大賛成してくれました」
それから数年スパンで転職を繰り返し、亜希さんはめきめきと成長をしていった。また、それぞれの転職先での婚外恋愛も欠かしたことがないそうだ。
「恋愛ではないですよ、ただちょっと『ああ、今回はちょっと遊びすぎちゃったな』ってくらいで。ほとんどワンナイトか、持って数カ月。私がいる業界は士気が高くて、話していても面白い人が多いから、飲みにいくと大抵ちょっかい出し合っちゃいます。でも私が一番好きなのは夫なので大切にしていますよ。エッチもいまだに定期的にしてます」
現在の職場では基本的に全員リモートワークのため、オフィスは開いているものの、ほとんど人がいないそうだ。
「クライアントと打ち合わせと称して、会議室でいちゃいちゃするのが大好きだったんですよ……まあでも、潮時ですかね。夫も起業に向けて始動するみたいなので、そろそろ夫一筋になります。おばあちゃんも、今では普通に生活できるようになったので、ひ孫を見せてあげたいですしね」
いくつかの寄り道を経て成長した亜希さん。「遊びすぎ」を謳歌し、卒業できるところまで堪能できたのはコロナの唯一の恩恵だろうか。
(文・イラスト/いしいのりえ)