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『ザ・ノンフィクション』タニマチや太客、人脈で生きる歌手「27歳 流しの歌姫 ~夢のステージに立ちたくて~」

日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。5月29日の放送は「27歳 流しの歌姫 ~夢のステージに立ちたくて~」。

あらすじ

 流しの歌手、27歳のかとうあいは日本中のスナックやクラブなどに飛び込み営業を行う生活を7年続けている。4万軒に飛び込みをして1万軒に断られたと明るく話す。

 そんなあいの夢は日本武道館での単独ライブだ。大阪の音楽専門学校に通っていたため当初の夢は大阪城ホールだったが、老若男女が知っている日本武道館に変更したとのこと。

 夢の実現のため、あいは流しを通じ人脈を構築していく。銀座の会員制ラウンジのママはあいの夢実現に向けた決起集会を開き、高級シャンパンは80本ほどはけたという。また、経営者たちの支援も得て、18社があいの夢をサポートしている。

 あいは並外れたバイタリティを見せる一方で、抜けている面もある。飲食のバイトもクビになり音楽しか続かなかったと話すが、本業である音楽も専門学校時代に路上で歌うことに夢中になってしまい、授業がおろそかになって今も楽譜が読めないという。

 高音域の歌唱も苦手で、番組内でチョイスしていたカラオケ曲も「栄光の架橋」(ゆず)「Srory」(AI)など、比較的音域狭めでローテンポのバラード調の曲が多く、小岩での流しでも「壊れかけのRadio」(徳永英明)を入れようとしたところ、店からもっと盛り上がる曲を、とリクエストされていた。また、あいはギターなど楽器を弾くわけでもなく、オリジナル曲も乏しい。

 夢の会場だった日本武道館についても調べが甘かったようで、当初、業者を通じ4000万円弱で2022年12月12日に開催ができるとあいは思っていたようだが、実は会場を押さえてなかったことが後から判明。業者とあいが電話で話す様子が番組で放送されていたが、あいの言葉を業者は「うん、うん」と返しており、子ども扱いしているようにも見えた。

 傷心のあいは島根の実家に一時帰省するも、母親からオリジナル曲がないこと、(人を集めるには)代表曲が世に認められる必要があること、生で歌を聞きたいと思える人物であることを発信する必要があること、魅力があるから世に出られること、一方、チップ生活で7年過ごすのは憧れるというより変な人だと思われる、と正論を説かれる。

 母親は番組スタッフに対し、「(あいは)甘いなと思います。(略)周りのことを考えずに自分がやりたいからどうだから、それで突っ走る感じ。とにかくお金があれば何でもできると思っている。お金だけじゃない部分もあるじゃないですか。そういう部分が(あいには)見えない」と案じる。

 結局、武道館の手配は別の業者に頼んだものの、実績がないとダメだと断られてしまった。しかし、あいは諦めておらず、雇われママとなり金策を進める一方で、武道館規模(1万人)の会場でのライブを行い、実績を積むことで武道館を目指すと話す。

 武道館のために流し生活を7年続けて1000万円貯めたこともすごいが、流しの活動を通じ、そこで「社長さん」たちというタニマチになってくれる太客との人脈を築いたことはさらにすごい。あいの「武道館」という夢は現実味に欠けるが、一方で「どんな小さな箱でもいいからまず単独ライブをしたいんです」では、社長さんたちも「じゃあ自分でやれば」となってしまうだろう。武道館だからこそタニマチがつくのだ。

 歌手志望で、YouTubeやTikTokで自分の歌動画をいくつも上げている人を大勢見かける。一方で、これは「やろうと思えば、誰でも、いつでも、すぐに、お金をかけずに、家でもできる」手軽なことだ。だから大勢がしていることであり、その中で頭角を現すのはとても難易度が高い。並外れた個性や魅力や歌唱力が求められ、デビューどころか、1いいね、1チャンネル登録をもらうのですら楽ではないだろう。

 一方で、「タニマチを見つける」という努力をしている歌手志願者となると、その数は激減するだろう。そもそも、歌手志望者はオーディションやコンテストを通じた事務所所属を目標にする人が多いと思われ、自費出版のような「自費武道館」は思いもよらない選択だ。「実現可能性」を別にして考えれば、あいの目のつけどころはユニークだ。

 大勢の歌手志願者が「人気を取らねば」と思う中で、あいは「人脈」に目を付けている。「人気」は結局のところ人頼りだが、「人脈」は自分の努力次第でなんとか増やすことができる。そして、人脈づくりはあいの長所であるめげなさ、物怖じのしなさ、人懐っこさが活用できる領域に思える。

 武道館に向け努力はしているし、「人脈」を狙うのもいい目の付け所だと思うが、その他のあいの「努力の方向性」においては、問題が山積しているように見えた。 

 そもそも、武道館は結婚式場のように金があれば借りられる会場ではないのでは、と思うし、代表曲もないのにとも思うが、そうした「そもそも」の部分は、あいの母親が言い尽くしている。現実味の欠けるあいに、この冷静な母親がいてよかった。

 なお、日本武道館のホームページを見てみたが、「会場をご利用になられたい方へ」といった項目・ページはやはり見つからなかった(見つかれば、あいも苦労しないだろう)。日本武道館の問い合わせ窓口として「武道振興事業」はあるが、「コンサート、興行向け」と思われるものがない。そもそも、「武道」館であり、アーティストの聖地と化しているものの、その名の通り武道のためにつくられた硬派な会場なのだ。

 一方で、あいが当初想定していた大阪城ホールや、また関東圏で大型コンサートが開かれるときの会場の一つ、幕張メッセは「主催者向け」ページが存在する。1万人規模会場で公演を行い、武道館に向けての実績をつくると話していたあいは、この違いをどう思っているのだろうか。

 次週の『ザ・ノンフィクション』は「うちにおいでよ ~居候たちの家~」。都内で暮らす森川家は、夫婦、子ども3人以外に「居候」がいる。居候たちはなぜ居候をし、森川家はなぜ居候を招き入れるのか?

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