6月10日にジャニーズ事務所がリリースした無料アプリ「Johnny’s Ticket(ジャニーズチケット)」が、ジャニーズファンの間で猛批判を浴びている。コンサートやイベントの入場時に使うチケット表示アプリだが、利用規約や注意事項の内容について「あり得ない」「見直しを求める」との声が続出。実際にアプリを使用するコンサートの開催はまだ先にもかかわらず、App Storeの同アプリのレビューは星1つの評価が並び、平均1.3(6月24日時点)という有様となっている。
批判の矛先となっている利用規約について、山岸純法律事務所の山岸純弁護士と適格消費者被害防止ネットワーク東海(以下、Cネット東海)に見解を聞いた。
ジャニーズチケットの利用規約、山岸純弁護士「問題とならない」
アプリ「ジャニーズチケット」の利用規約第14条は、下記の通り規定されている。
【利用規約】第14条(免責)
通信回線の混雑またはシステム上の不慮の事故等により、チケット通知が大幅に遅れ、または不可能となったとしても、当社はこれによりユーザーまたは第三者に生じた損害に対し一切責任を負いません。
つまり、チケット購入者の手元にチケットが送られなかったとしても、ジャニーズ事務所は責任を取らないという意味だ。ジャニーズファンからは、「先に代金を支払っている。チケット通知が大幅に遅れたり通知が不可能になったなら、返金対応も視野に入れてほしい」などの怒りの声が続出。
アプリのレビュー評価が1.3の理由もここに起因しているが、山岸弁護士によると「法的な問題はない」とのこと。
「『通信回線の混雑またはシステム上の不慮の事故等』、これらは法律上、『不可抗力』と呼ばれていて、この『不可抗力』の場合に誰がこの損を負担するかについては、事業者側が決めることができます。したがって、規約で『ユーザーが損を負う』としても、実は、問題とはならないのです」
ほかに、アプリの公式サイトに記載された「よくある質問」への回答も、ファンから疑問視する意見が見られる。
【よくある質問】同行者登録について
お申込時に登録した同行者を変更することはできません
これは、公演前に同行者を変えてはいけないということだが、「急病で行けなくなった時はどうすれば?」との声が聞かれる。山岸弁護士は「要するに転売防止ですね。このような状態を巻き起こした転売ヤーの責任と言うしかありません」と話す。
では、チケットの保証や同行者変更不可について改善される見込みはないのだろうか?
「もっとも、『消費者契約法』という消費者にとって優しい法律があり、『事業者は責任を負わないとする条項』や『消費者の利益を一方的に害する条項』を無効と判断していますので、この法律を盾に争えば、何とかなるかもしれません」
そこで、消費者契約法に詳しいCネット東海に見解を聞いた。Cネット東海は、2016年にジャニーズファミリークラブの規約の改定を働きかけ、実際に結果を出したことで、ジャニーズファンからの信頼も厚い。
まず、利用規約の第14条(免責)について、Cネット東海の理事で検討委員長の伊藤陽児弁護士は「消費者契約法からみて14条が無効だと言える可能性がある」と話す。ポイントは、「ジャニーズ側に過失があるケースを含んでいるか」だという。
「条項にある『通信回線の混雑』というのは、ジャニーズ側に責任はないケース。ソフトバンクの通信障害など、そういったものですね。一方、『システム上の不慮の事故等』は、アプリに想定を超える通信があってキャパオーバーとなった場合が考えられ、これはアプリ側の問題(ジャニーズの過失)になります。
しかし、『不慮の事故』の“不慮”が、ジャニーズ側に過失がない、避けられないような事態を想定しているかもしれません。ただ、『事故“等”』と広い意味の解釈を持たせているので、ジャニーズに過失がある場合も含めて、『損害に対し一切責任を負いません』というふうにも読める。その場合だと消費者契約法から見て『無効』だと言えます」
ジャニーズの真意が読めない言い回しになっているようだが、そもそもジャニーズ側の過失の有無にかかわらず、「コンサートの入場時、アプリにチケットが表示されず入場できなかった場合、民法では、ジャニーズ側に支払い済みチケット代金の返還義務が発生する。それなのに返還しないということであれば、消費者契約法で『無効』となりえます」と言う。
なお、14条がファンの混乱を呼んでいることについて、伊藤弁護士はこう話す。
「消費者契約法3条に、消費者にわかりやすく明確な条項になるようにする努力義務が定められています。ユーザーが混乱をしているのなら、また意図と異なる解釈がされているなら、どのような場合に適用される条項なのか、わかりやすい表現にしたほうがいいでしょう」
また同行者登録の変更不可については、山岸弁護士と同じく法的には全く問題がないという。チケットの申し込み時点で提示される条件となるため、ジャニーズ側に落ち度はないようだ。
「ただ、ファンサービスのあり方として不満だというのは非常に理解はできます。例えば、ファンクラブに入ってる人同士なら変更可能といった融通を利かすとか。しかし、それにより手間やコストがかかるようなら、チケット代金が上がってしまうということもあるかもしれません」
この「ジャニーズチケット」アプリの“本番”初日は、7月23日。この日に行われるコンサートの入場時にアプリを起動し、チケットを表示する流れだ。通信障害やシステム上の不慮の事故等がないことを願いたい。