羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。
<今週の有名人>
「うちら最強だよね」吉住
『上田と女が吠える夜』(日本テレビ系、6月15日)
私と同世代の40代後半の友人が、会社の後輩から「マッチングアプリで知り合った人と結婚する」と報告されて、とても驚いたと言っていた。まぁ、確かに我々が若かった頃、マッチングアプリはなかったので驚くのも無理はないが、今後、ますますアプリ婚は増えていくのではないかと思っている。
時代が変われば、テクノロジーが変わり、人の行動や考え方も変わるのは当たり前のことだろう。しかし、6月15日放送の『上田と女が吠える夜』(日本テレビ系)を見ていたら、結婚をめぐっては、「今も昔も変わらないこと」もあるのではないかと思わされた。
同放送は、「1人が好きな女SP」として、ゲスト陣が「常に群れたがるヤツ」の事例を挙げていた。芸人・吉住は、「『うちら』っていう団体意識の強い人」を苦手とし、その理由を「学生時代とかはまだいいと思うんですよ。でも25歳とか超えて『うちら』って言い続けている人って、各々の人生のことをどう思っているんだろう」「『うちら最強だよね』って言っている人を見ると、『いつまで最強でいられるんだろう?』って」と語り、さらに、こうした人たちの特徴について、「でもそういう人に限って、誰かが結婚すると一気に(友情が)崩れる。こんな脆いものはないだろうと思って」と指摘。スタジオからは「あー」と賛同する声が上がっていた。
かつて結婚によって、女友達との関係性に分断が起きるという経験をしたことがある人は、確かに多いのではないだろうか。なぜそのようなことが起きるかというと、結婚がテレビの世界で「女性の価値を測るもの」として扱われてきたからだ。
2004年頃の『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)では、「格付けし合う女たち」という企画が頻繁に行われていた。街行く男性に、ゲストの女性タレントたちを選択肢にした「付き合うにはいいけど、結婚したくないオンナ」といったアンケートを取り、そのランキングを当人たちに当てさせるという内容だった。
詳しいアンケートの内容は忘れてしまったが、同企画で「結婚したくない」とみなされた女性タレントはがっかりし、一方で、「結婚したい」ほうに“選ばれた”女性タレントは大喜びしていた。テレビはショーなので、彼女たちもわざと大きいリアクションを取っていた可能性も否めないが、こういう番組を見ていると、特に若い視聴者は「オトコに選ばれたほうが勝ち」「結婚できないオンナは負け」と刷り込まれてしまうだろう。
そうなると、友人の結婚が、単なるカップルの決断とは思えず、「自分が負けた」ように思えてくるはず。それが、友情にヒビが入るきっかけとなってしまうのではないだろうか。
しかし、今年6月に発表された2022年版「男女共同参画白書」によると、婚姻歴のない30代の独身者は、男女とも4人に1人が「結婚願望がなし」と回答するなど、結婚離れが進んでいることがわかった。
結婚が、女性の価値や勝ち負けを決めるものでなくなったと言える今、それでも、吉住の話すように「誰かが結婚すると一気に(友情が)崩れる」ことがあるのかと、驚いたのだ。ただ、以前とは原因が異なり、例えば、自分の人生がうまくいっていないタイミングで、友達が結婚したため、その落差にショックを受けて疎遠になる……といった話だろうとも思う。
それでも、仲が良かった女友達と、結婚ぐらいで関係性が壊れるというのは、本当に悲しいことだ。こういう時、「女の友情はハムより薄い」とか「女の友情なんてない」とか言われることに、モヤモヤする人も少なからずいると思うが、結婚を機に女友達と疎遠になるのは、「女の友情」がどうという話ではなく、人それぞれの持つ「気質」の違いによって起こる現象ではないか。
世の女性を大きく2つに分けると、「気分で生きる人」と「気持ちで生きる人」がいると思う。「気分で生きる人」は「今の気分」を何よりも重んじる。なので、友達といて盛り上がると「うちら最強だよね」などと率直に口にする。気分に基づいての発言だから、その先のことは考えていないし、自分の言ったことや相手の話も忘れがちで、将来に対するはっきりしたビジョンも持っていないことが多いように感じる。
それに対し、「気持ちで生きる人」というのは、「自分の気持ち」また「相手の気持ち」を重んじる。「気分で生きる人」より、発言にはある程度の責任を持ち、相手の話もよく覚えている。約束をしたら、それを守ろうと努力する印象がある。
なので、「気持ちで生きる人」から見れば、「気分で生きる人」は、言うことがコロコロ変わるように感じられるし、「気分で生きる人」から見れば、「気持ちで生きる人」は、細かいことをよく覚えている、もしくは気にしすぎと思えるだろう。
前述のように、自分の人生がうまくいっていないタイミングで、友達が結婚して落差を感じた場合、「気分で生きる人」は「今の気分」を重んじるので、ショックを隠せない。一方の「気持ちで生きる人」は、「その友達と仲良くしたい」という自分の気持ち、また相手の気持ちも重んじるので、そこはぐっとがまんして祝福する。
要するに、「気分で生きる人」が友達の結婚にショックを隠せないこと、また「気持ちで生きる人」がその態度を理解できないことで、結果的に、友人関係が壊れてしまうのではないだろうか。
加えて、「気分で生きる人」は「今の気分」を優先するので、友達を失ったこともそれほど気にしない一方、「気持ちで生きる人」は「あんなに仲が良かったのに、なぜ」「自分が悪かったのではないか」「友情とはなんだろう」と考え込み、自分を責める傾向があると思う。そうすると、一度壊れた友人関係の修復は困難になってしまうだろう。
吉住は『上田と女が吠える夜』で、「『うちら』っていう団体意識の強い人」に関して、「25歳とか超えて~」と年齢に言及していた。「気分で生きる人」も「気持ちで生きる人」も、学生時代は概ね、同じような進学ルートを辿る。しかし、社会に出ると、生き方は千差万別である。新卒として入社した会社にずっといる人もいれば、転職する人もいる。結婚する人もいれば、しない人もいる。結婚したいのになかなかうまくいかない人もいれば、結婚願望がそれほどあったわけでもないのに結婚した人もいるだろう。
社会に出た25歳以降は、「どんな人生を歩むか」を自分で決めなくてはいけない時期に差し掛かり、思い通りにいかないことが増えてくると、本来の気質の違いが際立ってくるのではないか。
同番組で、「1人が好き」「極度の人見知り」と明かした吉住だが、学生時代は美容院に友達がついて来てくれたり(人見知りの吉住に代わって、友人が美容師さんとやりとりしてくれるそうだ)、仕事で大御所タレント・明石家さんまに会う時は、友人が励ましてくれるなど、心を許した人とはかなり親密な関係性を築いていることがわかる。「気分で生きる人」「気持ちで生きる人」のどちらかに当てはまるとしたら、「気持ちで生きる人」と言えるだろう。
彼女が独特の世界観を確立することができたのは、自分だけでなく、相手の気持ちを重視するという気質が、優れた観察眼を養い、それが芸に生かされたからなのではないか。
しかし、こういう人は、先述のように友人関係が壊れた際に自分を責めるなどして、精神的に疲れやすい傾向もある。たとえそんな事態に直面しても「気質が違っただけ」と捉え、しかし一方で、人間関係を大事にしながら、ますますご活躍いただきたいものだ。