5月28日に更新されたHey!Say!JUMP・山田涼介の公式ブログが、ジャニーズファンに大きな衝撃を与えた。
同日付のジャニーズ公式携帯サイト・Johnny’s webの個人ブログ「だーやまの連載」にて、主演映画『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』(5月20日公開)の公開御礼舞台挨拶で、自身の近くにいたスタッフが「ファンの方に暴力を振るわれてるのを見ました」と明かしたのだ。
山田は「僕の身の回りのお仕事をしている方が怪我をしたら僕のせいだと自分は思ってしまいます。僕がいなければこんな事にはならなかった訳ですから」などとつづり、「一部のマナー悪い方。(中略)僕が僕でなくなってしまいます。警告です」と訴えた。
ジャニーズのみならず、“過激ファン”の存在に頭を悩ませるアイドルは多い。こうした現状は、アイドルたちの心にどのような影響を与えてしまうのだろうか? 今回、実際に芸能人のカウンセリングを行っている明海大学准教授の臨床心理士・藤井靖氏に話を聞いた。
Hey!Say!JUMP・山田涼介は「コップの水があふれた」状態
――今回、山田さんが書いたブログについて、率直にどう感じましたか?
臨床心理士・藤井靖氏(以下、藤井) 大きく2つありました。まず一つは、「コップの水があふれたんだろうな」ということ。今まで同様のことが何度もあって、かなりフラストレーションが溜まっていたところで、ファンによるスタッフへの暴力を目の当たりにして、コップの水があふれてしまった……と。それで「警告です」という強い言葉を使って、ブログで発信したのではないかと思いました。
もう一つは、やっぱり山田くんの精神状態が心配になりましたね。普段から思っていることであっても、それをオフィシャルのブログで吐き出すっていうのは、結構大きな決断じゃないですか。僕は普段、アイドルのカウンセリングも行っているのですが、こういう発信をしてしまうときって、共通点があるんです。
――それは、一体どんな共通点ですか?
藤井 仕事が忙しかったり、何か大きなプレッシャーがかかるようなことがあったりして、精神的に追い込まれているという点です。山田くんは最近、役作りのためにダイエットをしたり、逆に増量したり、体重の増減が激しかったじゃないですか。体重を減らすとなると、一般的には食事制限をしていることが多いので、そもそも精神状態のベースが悪くなりやすいですよね。
これでさらに仕事が増えて、忙しさが解消しないと、精神的にはどんどん悪い方向に行ってしまう。だから、今吐き出さざるを得なかったんだろうなと思います。そんな山田くんの状況を、ジャニーズ事務所なり身近なマネジャーさんなり近しい人が、ちゃんと「心理的リスクだ」と捉えて、対応できるかが大事。というのも、僕は「アイドルも一般の労働者」として考えなきゃいけないと常日頃から思っているんです。
――アイドルも、働きすぎはよくないということですか?
藤井 アイドルをカウンセリングすると、「精神が危機的な状況に置かれる2つの要素」というのがわかります。その一つが、やっぱり「長時間労働」なんです。俳優業は特に、長時間労働の最たる例なので、やはり単純に山田くんが心配になりますよね。
もう一つは、「自分の裁量がない仕事をし続けること」でしょうか。加えて、僕が普段よく感じるのは、「仕事のペースとタイミング」も、ストレスに関連しているということ。「仕事が入るペースは適切か」また「今やりたいか仕事かどうか」という点が本人の希望に合っていないと、長く影響を残すストレスになりかねません。
――先ほど、「暴力を目の当たりにして、コップの水があふれた」といった話がありましたが、暴力的な出来事を目撃してしまうと、精神にどんな影響があるのでしょうか?
藤井 日常的に経験するストレスやショックの中でも、最上位の衝撃になると思いますね。しかも、暴力を受けたのが自分ではなくて、自分の身近な、大事な人だったときには、より一層感情が揺るがされるような経験になるのは間違いないです。
また、山田くんはおそらく、何も悪いことをしてないスタッフさんに対して、なぜ手を挙げて危害を加えるのかということが、論理的に解釈できなかったのでは。こういう場合、人は思考停止してしまうんです。今回のブログを見ると、山田くんは「自分が存在してるからこそ、そういうことが起こってしまった」と考えて、無理やり「暴力の理由」を理解したのであろうことがわかります。
――なぜそれが起こっているのかわからないので、自分のせいにして理解しようとする……といった感じですか?
藤井 そうですね。客観的に考えたら、「山田くんがいるから、ファンがスタッフに暴力を振るう」なんて論理は、おかしいじゃないですか? しかし彼としては、そうやって理解せざるを得なかったのでしょう。
――人前に立つ人だからというか、「アイドル・山田涼介だから」自分が悪かったという気持ちになってしまうんでしょうか?
藤井 そうだと思います。いくら過激であっても、ファンを否定できないという前提があるのでは。応援の仕方はともかく、どんなファンでも「自分を応援してくれている」ことに間違いはない。自分はいつも多くのファンに支えられているんだという意識がありますから、ファンを否定することは、すなわちアイドル・山田涼介を否定することにもなるわけです。
――普通に応援してるファンからしたら、「暴力を振るうファンはファンじゃない」と感じそうですが、アイドル側はそうもいかないんですね。
藤井 アイドルも人間だから、「ファンの人にはこうあってほしい」みたいな理想は、誰だって持っている。だけど、それは当然思い通りにいかないし、そもそも、アイドルがファンに求められることでもない。
自分が望んだタイプとは違う人も、ファンとして受け入れないと仕事が成り立たないことは、アイドルの皆さんも頭ではわかってるんです。だからこそ、理想と現実のギャップみたいなところで、常に迷って葛藤してしまうアイドルがいるんだと思います。
――アイドルが抱く葛藤は、ほかにどんなものがありますか?
藤井 「アイドルとしての在り方」みたいな話にもつながるんですけど、カウンセリングにいらっしゃるアイドルが共通して言うのは、「自分が成長できてる感じがしない」ということ。周りから求められることをこなして、日々の仕事が終わっていく。忙しく過ごして、充実してるようにも感じるんだけど、自分がステップアップしてる実感が持てないっていうのは、多くのアイドルが口にしますね。「成長しないと将来の仕事や自分の居場所はない」とも感じているのだと思います。
――つい最近、大人気K-POPグループ・BTSのメンバーが、同じようなことを言っていました。アイドルには「成長できる時間がない」と……。
藤井 客観的に見たら、いろんな作品に出たり、人気がどんどん上がったりして、日々成長しているように感じますよね。でも、そういう外形的な事実って、周りが思うほどアイドル本人には響いてないんですよ。「求められることに応じる」のと、「自分がやりたい方向に進む」のは時に真逆というか、違う仕事の仕方だと思うんです。
一般の社会人は、自分が成長できないと感じたり、正当な評価を受けられなかったりしたら、「仕事辞めようかな」って考えますよね。しかし、アイドルというか芸能人は、「商品」としての側面もある特殊な立場ですし、「辞めよう」と思っても簡単に辞められない。そういった事情は、ファンならよくわかると思います。
――先ほど「自分が成長できてる感じがしない」ことがアイドルたちの葛藤につながるとおっしゃっていましたが、ジャニーズに関して言うと、ファンはもともと、彼らの「未熟さをかわいがる」ような部分があると感じています。
藤井 自分はスキルアップしたいと思っているにもかかわらず、ある種の「未熟さ」が芸能人としてその人の魅力になっているとしたら、それは心理学で言う「自己実現できない」状態。つまり、理想の自分と現実の自分が重なっていかないわけです。
これは仕事への向き合い方として一番よくないというか、いずれ「もう辞めたい」という気持ちが強くなってしまいます。ひどい場合だと「消えてしまいたいな」って思うようになる人もいますね。
――Hey!Say!JUMPは全員が10代の時にデビューしているのもあって、ファンのみならず、世間もその頃のイメージが強いんじゃないかなと思います。ちなみに、アイドルがデビューするのにちょうどいい年齢って、どのくらいなんですか?
藤井 理論上は22歳。個人差はありますけど、アイデンティティが確立される年齢は、22歳前後とされているからです。一般的に、大学を出て就職するタイミングが、アイドルにとってもデビューにちょうどいい年齢だと思われます。
でも、アイドルで22歳っていうと、もう“ベテラン”じゃないですか。だから、このくらいの年齢で辞めていく人もいるけど、僕は「これからなのになあ~」って思いながら見てるんです。
逆に、10代でデビューというのは、かなり本人に無理をさせていると思います。内面では自分というものがまだ定まっていない中で、「魅せる自分」を作っていかなきゃいけないですからね。
「未熟さをかわいがる」ことも、日本のアイドル文化の特徴だと思うので、それはそれでいいんです。一方で、成熟した人の魅力を受け入れていくような文化風土にもなっていくと、アイドルが活動する環境はもっと良くなるんじゃないですかね。ファンの捉え方だけでなく、芸能事務所も考え方を変えてほしいと思います。
――事務所の話で言うと、どうしてもタレントのケアが行き届いてない印象です。タレント側が自ら心の不調を発信して、ようやく事の重大さに気付く状況のように感じます。
藤井 芸能事務所ではいまだに「厳しい環境の中で生き残れる人こそ才能がある人」という考え方がありますね。臨床心理士である私からすれば、大きな勘違いをしてるなと思うんですが。これは芸能界とか事務所だけでなく、日本社会の現状だともいえるでしょう。
あとは、事務所が大きければ大きいほど、所属タレント一人ひとりに目が行かなくなって、放置状態になってしまうのも問題。ただ、ジャニーズの場合は、ジャニー喜多川前社長が亡くなってから、退所する人が増えましたよね? 僕はこれ、いい傾向だなと思ったんです。
――それは、どういった理由でしょうか?
藤井 事務所を辞めて別の道を歩みたいと思ったタレントでも、例えば契約の問題で辞められない状態に陥って、精神的に追い込まれていく人も結構います。だから、これまでのような活動はできなくても、退所して自分らしくいられる道を選べるなら、そのほうがアイドルの精神的にはいいです。
山田くんの発信自体は心配ですが、事務所が「ジャニーズなんだから、どんなファンにも感謝しなさい」などと言わず、山田くんの発言を認めてくれたことも、ジャニーズが変わった証拠なのだと感じます。それに、その人が普段見せていなかった部分を見せたからといって、急に人気が落ちてファンが離れるってことも、ほとんどないでしょう。
――確かに、山田さんを心配する声はあっても、「そんなこと書くな」と注意するような人は、ほとんど見かけませんでした。
藤井 やはり根本的な話として、アイドルのメンタル安定を考えたとき、事務所が本人の人間性や本来の個性を尊重し、そしてファンもそれを受け入れて応援するという状態が重要だと思います。あと、事務所には「精神的な孤独の解消」をお願いしたいです。
マネジャーやグループのメンバーよりも、仕事とは関係ない人がアイドルを支えることが大事。頼れる人がいるかどうか、事務所がしっかり見てあげてほしいと思います。
――アイドルのカウンセリングを行う立場から、ファンに気をつけてほしいことがあれば教えてください。
藤井 過激なファンじゃなくても、「この人ってこうだよね」みたいに、アイドルのキャラクターを決めつけてしまうことってありませんか? 「彼はいじられキャラ」とか「しっかり者だから大丈夫だよね」とか。悪いことは言ってないように思えますが、これも先ほど言ったように、本来の自分と見られ方にギャップが生じると、「自己実現できない」状態になり、悩みが生まれてしまう可能性があるんです。
ある俳優さんの例ですが、すごく評判のいい作品に出演した際に、「ハマリ役だったね」と言われたそうなんです。一時的にはうれしいんですけど、次第にその役に縛られて、自分自身も役のイメージを守らなきゃいけないと思い、それで苦しくなってしまったということがありました。
昔はファンレターを送らないとタレントに気持ちが伝わらなかったですが、今はSNSでなんでも言えてしまいますよね。何気ない投稿でも、結構本人に届いちゃうので、難しい時代だなと思います。
――SNSが身近にあるからこそ、ファンも応援の仕方に注意したいところですね。
藤井 まず大前提として、アイドル本人がやりたいこととか、向かいたい方向に行くことを応援してあげてください。そういう前提でいれば、かける言葉もちょっと変わってくる気がします。
ファンが期待する方向に進ませたはいいけど、本人が潰れちゃったら悲しいじゃないですか。だから、優しく背中を押してあげるのがいいんじゃないかと思います。