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『ザ・ノンフィクション』向いていない職場の辞め時「人力車に魅せられて ~夢と涙の浅草物語~」

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。7月3日の放送は「人力車に魅せられて ~夢と涙の浅草物語~」。

あらすじ

 東京・浅草観光の名物「人力車」。多くの同業者がしのぎを削る中、赤いはんてんがトレードマークの「東京力車」は、SNSを駆使した発信を続けるなどして勢力を伸ばしており、女性の俥夫(しゃふ。人力車を引く人)も多く活躍している。

 東京力車で俥夫になるためには社内研修の卒業検定に合格する必要がある。番組内では現役大学生俥夫も紹介されており、スムーズに合格する人もいるようだが、10回近く検定を受け続けても合格できない「研修生」もいる。

 研修生で最年長となる30歳のアツシは、もともとはメジャーデビューも果たした歌手だったが、全く売れず。その後、テーマパークのパフォーマーとして活躍するも、コロナで職を失い、現在は俥夫を目指しているものの、なかなか検定を突破できない。

 アツシは何度も同じミスを指摘されてしまうようで、後方確認など人力車を走行させるにあたっての基本的な交通ルールに関するものから、客への地図の見せ方がなってないなど、接客に関するものまで及ぶ。あとから入った後輩が次々と追い抜いて俥夫になっていく状況だ。

 それでもアツシは諦めず、朝は誰よりも早く出社し、トイレ掃除などをこなす。その姿に心を動かされ、指導担当の押木は業務時間外でアツシの特訓を行うことにする。しかし、満を持して挑んだ12回目の試験も不合格。

 それまで注意されていた交通ルールの順守や接客に問題はなかったものの、ツアー時間は「1時間くらい」という顧客役の要望に対し、20分オーバーしてしまったためだ。

 そこで気持ちが折れてしまったのか、それ以降の練習は身が入らず、アツシは東京力車を辞める。スタッフのインタビューでは指導してくれた押木に応えられなかった申し訳なさを話していた。

『ザ・ノンフィクション』去り際の見極めは難しい

 番組最後、退職後にアツシは「ここまでうまくいかないのは生きてきて初めてだった」と話しており、学生時代や歌手時代、前職のショーの仕事などでは、そういったつまずきはなかったのだろう。

 そもそも歌手時代はメジャーデビューをつかむなど、アツシは狭き門を突破する力はある。そうなると、俥夫は「向いてなかった」ということなのだろうし、向いてなかったら潔く辞めたほうがいいように思う。

 番組を見る限り、もうちょっと早く辞めたほうがアツシ自身も挫折感を強く味わうことなく、指導した社長、押木などの負担も少なく済んだのではとも思う。だからといって、「見切りが早すぎる」のも問題だ。『ザ・ノンフィクション』では以前、レストラン大宮で修行中の若者を追った回があったが、初日で音を上げた人がいた。さすがに、これは早すぎるだろう。「我慢が足りないだけ」では、向いているかどうかもわからないと思う。去り際の見極めは難しい。

 そもそも、「この仕事は自分に向いているか」の判断も難しいものだが、東京力車の場合、「卒検」がそれを知るいい基準になっているのだろう。

 一方、世の中の大半の仕事には検定や資格はない。そのような中で、何をもってして仕事に向いているか考える際に、「同じミスを何度もしたり、指摘される」というポイントは結構アテになるのではないか、と思った。

 人間なのでミスをゼロにすることはできないが、あまりに同じミスを何度も繰り返してしまう場合は、その人にとって、それは根底では「興味の持てないこと」なのだろう。人は、興味を持った物事に対しての目線は細やかで丁寧で真剣なものになり、おのずとミスは減っていくが、興味の持てないことではそれを期待できないと思う。

 また、興味が持てないことであっても「それが仕事ならば、大切に扱います」と取り組む選択肢もあるし、実際、大抵の大人はそうして働いているはずだ。しかしミスを連発するということは、それすらも「難しい」「できない」という状態であり、そこまできたら、それはその人には向いていないように思える。

『ザ・ノンフィクション』興味の持てない過酷な環境に身を置く理由

 一点不思議でならないのは、アツシはそこまで人力車に興味があるように見えなかった点だ。先週の『ザ・ノンフィクション』に登場した、山の開拓を志す若者・大地も、山に興味があるように見えなかった。また、番組でシリーズ化されているスマホ禁止の丁稚生活を行う木工会社・秋山木工で修業中の丁稚たちも、木材加工や家具製作が好きで好きでたまらない、という人は番組を見る限り少ないように見える。

 アツシも大地も秋山木工の丁稚も、「職務対象(人力車や山の開拓や木工)に対して興味がなさそう」なのに、「いわゆる普通の仕事でない過酷な道」になぜあえて飛び込むのだろう。あえて過酷な環境に自分を置くことで、自らを鍛え直したいという思いがあるのかもしれないが、過酷な環境であればあるこそ「そのものへの強い興味関心」がないと相当しんどそうだ。

 番組最後のナレーションでは、アツシの今後に対し「また走りだせばいいんです。今度は無理なく自分がピタッとはまれる場所を目指して」と言葉を当てていたが、本当にそう思う。

 次週の『ザ・ノンフィクション』は「泣き虫舞妓物語2022 ~夢と希望と涙の行方~ 前編」。京都で舞妓を目指す15歳少女・寿仁葉(じゅには)の5年の記録。

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