8月3日、TBS系の人気ドキュメンタリー番組『密着警察24時』の最新作『最前線!密着警察24時★SNSのぞき見犯を追え!&飲酒運転撲滅!交通SOS合体』が放送される。
日本全国の警察署を取材し、“最前線”で犯罪に立ち向かう警察官や刑事に完全密着する同番組。今回の放送では、他人のSNSアカウントなどを乗っ取る「不正アクセス」や、運転中にスマートフォンを操作する「ながら運転」といった、近年増えている事件の現場にカメラが密着したという。
『密着警察24時』の見どころといえば、やはり“逮捕の瞬間”だろう。普段は見られない衝撃の場面はお茶の間の注目を集めるようで、同シリーズの世帯平均視聴率は10%前後を記録することも珍しくない。その中でも特に、「万引き犯」を捕捉する現場は、『ジョブチューン~アノ職業のヒミツぶっちゃけます!』(TBS系)といった人気番組や、夕方のニュース番組などでも特集される人気ジャンルだ。
サイゾーウーマンでも、保安員の澄江氏が「オンナ万引きGメン日誌」を連載中だが、同記事の監修を務める万引き対策専門家・伊東ゆう氏は、まさに“カメラの前で万引き犯を捕捉したことがある人物”だ。
そんな伊東氏が『ジョブチューン』に出演して「5日で8人」万引き犯を捕まえた際の裏話や、『警察24時』のスタッフについて語った記事を改めて掲載。番組ディレクターやカメラマンとの連携、「万引きGメンがテレビに出るメリット&デメリット」などを掘り下げたインタビューを、ぜひチェックしてほしい。
(編集部)
「112.702」
この数字は警視庁が2016年に検挙した万引き犯の人数です(『平成29年版 犯罪白書 窃盗 認知件数・検挙件数・検挙率の推移』より)。1件ごとの被害額は少額でも、個人経営のコンビニや書店などの小売店にとって被害が重なれば大変な打撃になり、万引きが一因で閉店に追い込まれる店舗もあります。店舗側も指をくわえて見ているわけではありません。万引き犯取り締まり専門のセキュリティースタッフを配置して防衛しています。いわゆる“万引きGメン”です。
本サイトでは、オンナ万引きGメンの澄江さんが、さまざまな現場で出会った万引き犯についてレポートをしていますが、テレビでも万引きGメンの特集はたびたび放送されています。また、第71回カンヌ国際映画祭にてパルム・ドールという最高の賞を与えられ、一躍注目を浴びた是枝裕和監督の『万引き家族』も、そのタイトルの通り、万引きが大きなテーマに取り上げられた作品です。
今回、『万引き家族』の制作協力やテレビの万引きGメン特集にもたびたび出演し、本サイトの澄江さんのコラムも監修している、万引き対策専門家の伊東ゆうさんに取材を行うことに。『万引き家族』協力の経緯やテレビの万引きGメン特集の知られざるエピソード、Gメンだけが知る万引き犯の実態をお伺いしました。
――『万引き家族』は世界的に注目されましたね。協力のきっかけはなんだったんですか?
伊東ゆうさん(以下、伊東) 「是枝監督の新作映画『声に出して呼んで(仮)』に、家族で万引きするシーンがあるから協力願えませんか」というメールがきて、面白そうだなぁと思って制作事務所に出向き、レクチャーしました。私も映画が好きなので、ノーギャラだったけど喜んでお受けしたわけです。
――元々のタイトルは違っていたんですね。是枝監督とは話したんですか?
伊東 確かそんな感じのタイトルで、『万引き家族』なんてタイトルじゃなかったですね。だから公開されて「あれ?」となりました。実は、製作スタッフの方たちとお話しただけで、是枝監督とは会ったことないんですよ。誰が出るとかもまったく知らなかったですね。タイトルが変わったのも、万引きっていう字面がやっぱりインパクト強かったのかなぁって。
――レクチャーでは、どんな内容のお話をしたんですか?
伊東 詳しくは言えないですけど、万引き現場の写真を見せたり、家族でやるときの手口を教えたり。各地で万引き対策の講演会もやっているので、そういった資料を交えて説明しました。嵐の日に呼び出されて、2時間くらいインタビューを受けました。
――伊東さんはTBS系『ジョブチューン~アノ職業のヒミツぶっちゃけます!』やフジテレビ系『おたすけJAPAN』などで、実際に撮影隊の前で、日本や海外の万引き犯を捕捉していますが、撮影現場で捕まえるのは大変ですか?
伊東 『おたすけジャパン』(※海外で困っている人のところへ日本のプロフェッショナルが派遣され、お助けするというバラエティ番組)でインドネシアのスーパーに行ったときは、現地のコーディネーターに頼んで、事前に店舗のレイアウトを送ってもらいました。入手した資料を基に「やるならこの辺だろうから、こことここにカメラを置こう」などと打ち合わせてから現地入りしたのです。でも、いざ行ってみたら全然いなかった。そもそも客がいなかった(苦笑)。かなりキツかったですけど、1週間の撮影予定の最終日に、なんとか1人捕まえることができました。
――海外まで行って、捕まえられなかったら絶望的ですね。
伊東 どの国も関係なく、スーパーでの撮影は難しいんですよ。スーパーの万引きは基本的に「人混みに紛れて」ですから。平日の混んでる時間帯に行くと常習者が紛れています。『ジョブチューン』の時は、5日で8人捕まえました。お客さんの多いスーパーでは、1日1人は、万引きする人が必ずいる。 そう信じてやっているわけです。
こういった撮影を成功させるには事前のリサーチと準備がかなり大事です。その店舗で混む曜日の確認、あと天候ですね。雨が降ると来ないところが多いです。カレンダーで言うと、万引きが活発になるのは給料日前と生活保護の支給前ですね。撮影中も気が抜けません、食事休憩や撮影機材のメディアの交換などで、万引き犯が「普段と雰囲気が違う」と撮影隊の殺気のようなものを感じ取って、バレたりしてしまうんです。なので、撮影で捕まる犯人の多くは空気の変化にまったく気づかない老人、油断している常習犯ばかりになります。
――万引きを実行する瞬間を映像で押さえるには、撮影ポイントに気を使いそうですね。
伊東 まず開店前に下見して、万引き犯が盗りそうなスポットに定点カメラを置いたり、買い物カートに仕込んだりしています。私が一緒に仕事をしているテレビマンたちは、『警察24時』とか詐欺の潜入調査とか、皆さんがテレビでご覧になっているような事件系の番組のスタッフが多いですが、お店にお買い物に来られているお客様に紛れて撮影をすることが初めてなんていう方も。最初は戸惑ったり、挙動不審になったりして、「不審者がいる」と、警備室に通報されたこともありました。
――万引きする瞬間を映像に収めるのは、そう簡単ではないと。
伊東 万引き犯を捕捉する仕事は、言うなれば心を読む仕事です。撮影現場でも、私が万引き犯の心を読んで、その心理的変遷を実況し、撮影ポイントまでガイドしている感じですね。インカムで常に撮影隊同士は会話していますから、ディレクターさんやカメラマンさんが私の声を聞いて動く。「この人ですよー」とか「いま5番通路に入りました」とか「そこ曲がったら入れますよ」とか。
――そうすることで、テレビで流れるような決定的瞬間が押さえられるということなんですね。伊東さんはテレビに出ることでメリット、デメリットって感じたことありますか?
伊東 Gメンの会社としては、メリットってほとんどないんじゃないですかね、高額なギャラというわけでもないし。私個人では撮影隊と長期のロケになったりするわけですが、それが楽しいというのがありますね。
万引きGメンは1人で仕事をすることが多いんです。デパートなど広い施設だとパートナーと組んで見回ることもありますけど、基本的に1人で仕事をしています。それに前職でも基本的に単独行動が多くて集団で動いたことがなかったんです。そんな中で、長期間を撮影隊と過ごして犯人を捕捉していくのは今までにない新鮮な経験でもあり、学生時代の合宿のような感覚で成功したら達成感があって楽しいんですよ。あとは撮影現場を提供してくれた店長さんから「プロは違うね、ありがとう」と感謝されることがうれしいですね。なんだかんだお金のためじゃないような気がしますね。
――撮影できる犯人は老人や油断している常習犯が多いということですが、テレビでは見られない万引き犯もいるんですか?
伊東 いますね。若い人とか外国人の犯人には、撮影がバレます。同じ人がずっといて、自分の周りを囲んでるから、おかしいと気づくんですよ。万引きをやっても撮影に気づかれて一度バッグに隠したモノを出されちゃったりする。カメラに気づかれて逆に因縁を付けられて、撮影ストップになったこともありました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
万引き犯の性質によって、撮影できる犯人、できない犯人がいるというのは驚きである。テレビだけの印象で、「万引き犯=高齢者犯罪」と感じている人もいるかもしれないが、その認識はあらためるべきなのかもしれない。
後編では、さらにテレビではわからない万引き犯の実像やテレビ出演による苦労、Gメンという仕事について、より詳しく語っていただく。
<後編はこちら>
<関連記事>
伊東ゆう(いとう・ゆう)
1971年、東京生まれ。 フリーライター、万引き対策専門家、万引きGメン。1999年より5000人以上の万引き犯を捕捉してきた経験を持つ現役保安員。『万引きGメンは見た!』(2011、河出書房新社)『万引き老人』(16、双葉社)を上梓すると大きな話題を呼び、『実録!犯罪列島シリーズ』『ジョブチューン~アノ職業のヒミツぶっちゃけます!』(ともにTBS系)をはじめとする多数の番組で特集された。現役保安員として活躍する一方、講演活動とメディア出演による「店内声かけ」の普及に努め、「万引きさせない環境作り」に情熱を傾ける。
現在、香川大学教育学部特別講師、香川県万引き対策協議会メンバー、北海道万引き防止ウィーブネットワークアドバイザー、岩手県万引防止対策協議会講師、ジーワンセキュリティサービス株式会社取締役会長。
※2018年11月23日初出の記事に追記、編集を加えています。