“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)
そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。
「母がエンディングノートに書き残していた『望み』とは? 母親を看取った30代女性の胸中」で、母の晃子さん(仮名)を見送った中村万里江さん(仮名・36)は、晃子さんと同じ有料老人ホームに入っていた高次脳機能障害の父、博之さん(仮名・69)をどこでどう過ごさせるかを考えていたが、新しい住まいを探すどころではない問題が持ち上がった。
父の問題行動に頭を悩ます
晃子さんの死後、博之さんの落ち着きがなくなった。部屋で寝ずに、廊下や職員の詰所の床で寝る。食事も拒否する。さらには、職員にセクハラをしたという連絡が来た。
「ボーっとする作用のある薬で父の問題行動を抑えるというんです。そうしないとこのホームにはいられないと言われると、わかりましたと答えるしかありませんでした」
中村さんは、薬で抑えるのではなく、適切なケアによって博之さんを落ち着かせてくれる施設を探していた。
「介護が大変な人を受け入れて、成果を出しているという評判の良いグループホームがあると聞いて見学もしましたが、父のようなケースは無理だと断られてしまいました」
担当医から「60代後半の大柄な男性で、要介護2はホームから一番嫌がられるパターンだ。ほかの施設では受け入れてもらえないだろうし、受け入れてもらえても施設ショッピングになってしまう。娘は父親が嫌がられていることも、施設ショッピングをしていることもわかっていない。今のホームの対応もどうかとは思うが、娘も施設を信用していない」という間違い電話――もしかすると、この医師は意図してこの本音を中村さんに伝えたのかもしれない、とさえ中村さんは考えている――が来たのもこのころだ。
気丈に、一人で奮闘している中村さんがどんなにショックを受けたかと思うと言葉もない。
ホームから、博之さんの異変は晃子さんの死に起因しているのではないかと言われたものの、ほかに手立てもなく、精神科から処方された薬でしのぐしかなかった。
38キロまで痩せた父、精神科へ入院することに
晃子さんを失った悲しみに浸る間もないほど、次々と出てくる問題に頭を悩ませていた中村さんが一息つけたのは、皮肉にも、博之さんがホームから紹介されて新たに受診した精神科病院に入院したことだった。
「それまでの薬では父の症状が治まらず、大声を出したり窓をたたいたりするなど、さらに状態は悪化したんです。食事も水分も摂れないということで、1カ月ぶりに父に面会すると激やせしていて驚きました。父は身長が180センチあるのに、体重が38キロにまで減っていたんです」
ホームから紹介された精神科を受診すると、「このままでは衰弱してしまうので、いったん入院して食事が摂れるようにしましょう」と提案された。
中村さんはこの提案を受け入れたものの、入院になると博之さんはおむつをさせられて、そのまま寝たきりになってしまうんだろうと思った。その一方で、入院した博之さんと会えないことは、「どこか気が楽でもあった」と明かした。
2カ月後、退院した博之さんと会った中村さんは、博之さんの回復ぶりに驚いた。予想とはまったく違う結果に、入院させたのは正解だったと思ったという。
「退院時には車いすになっていましたが、コミュニケーションも取れるようになっていたし、それまで大量の薬を飲んでいたのが薬の量も減っていたんです」
――続きは11月6日公開
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