• 日. 12月 22nd, 2024

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コロナ禍で借金まみれに……母から「中学受験断念」を告げられた小6娘のその後

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 現在放送中のNHK連続ドラマ小説『舞い上がれ!』の中で、中学受験に関するシーンがあったのをご記憶の方もおられるだろう。

 主人公・岩倉舞(浅田芭路)の父親・浩太(高橋克典)が経営する工場の経営悪化に伴い、勉強が得意な舞の兄・悠人(海老塚幸穏)に私立中学受験は難しいと告げる……という展開だった。

 「いま工場はしんどうてな……。公立の学校で頑張るのはどうや?」と父親に言われた悠人が、「なんで今さらそんなこと言うねん! そんなアカンわ! 僕には計画があんねん! いい中学行って、そこで勉強頑張って、東大に入るんや!」と激怒するシーンに胸を痛めた視聴者も多かったのではないだろうか。
 
 結果的に経営は持ち直し、悠人は東大に進学したので万々歳だったが、このドラマにあるように、中学受験は金がかかる。中学受験、そしてその先に待ち受ける私立中高一貫校の学費は超高額。3年間の中学受験塾代+中高一貫校6年間の学費を合わせた場合、だいたい850万円にもなるのだ。

 たとえ、子どもが中学受験に前向きであったとしても、そもそも“必須”ではない受験だけに、最初から「ない袖は振れないので、公立中学に行って、高校受験で頑張って!」と親が言い渡すケースもあるだろう。

 一方、参入するにしても、その前に、我が家の経済状況と実際にかかっていくであろう学費のシミュレーションを行うことは「イロハ」の「イ」である。

 しかし、人生はシミュレーション通りに進むとは限らない。悠人のように、せっかく頑張って猛勉強をしていたのに、親の経済状況によって、突然強制ストップがかかることもなくはないのだ。

 特に今はコロナ禍。現実世界でも同様に、中学受験を断念せねばならなくなったご家庭は、決して少なくはないのが実態だと思う。

中卒の夫が娘に「学をつけさせたい」

 さとみさん(仮名)は夫と共にレストランを経営している。夫は名店と呼ばれる店での修業期間を経て、独立開業。腕の良さが評判を呼び、経営も順調。新居も購入し、高級な車も手に入れ、経済的には何の問題もなかったそうだ。

 そんな中、一人娘のひかりさん(仮名)が小学校に入学し、夫婦で子どもの教育をどうするか、真剣に話し合ったという。

「夫は若い時分に料理人の修業を始めたので、学歴としては中卒。夫自身、そのことにまったくこだわりはなく、私はむしろ夫の頑張りを尊敬していました。しかし、夫はひかりのことになると、『学をつけさせたい』と言うんです。それで、ひかりは低学年から、中学受験塾に入ることになりました」

 ひかりさんはとても優秀な子で、塾でも最上位クラスに在籍。新6年生になっても、その位置をキープし続けていたという。

「夫も私もすごく喜んでいました。そのクラスにいればトップ校も射程圏内と、塾の先生から言われていたからです」

 ところが、この新型コロナウイルスの感染拡大で事態は急変する。

「ひかりが6年生になるや否や、いきなりお店は休業に追い込まれて、途方に暮れました。テナント料、従業員の給与、開業時のローン返済に、住宅ローンも重くのしかかってきたのです。さまざまな手は尽くしましたが、八方塞りの状況に追い込まれ、本当に苦しかったですね」

 そんな中、さとみさん夫婦は、ひかりさんに非情な通告をせざるを得なかったという。

「『ごめん、中学受験はさせてあげられない』と言った時のひかりの悲しそうな顔は忘れられません。ここまで頑張ってきたのに、しかも、親の強い勧めで始めたことなのに、結果も見ずして、途中棄権になるのですから……ひかりの気持ちを思ったら、胸が張り裂けそうでした」

 ひかりさんは両親に、「わかった。私は大丈夫だから、パパママ、頑張って」とだけ返し、子ども部屋のドアを閉めたそうだ。翌朝、ひかりさんの泣き腫らした目を見たさとみさんは、「娘の顔を正視することはできなかった」と涙を見せた。

「情けないことに、見る見るうちに、貯金も減っていきました。あの頃は、『これから、どうなるんだろう?』という不安しかなかったですね。私はアルバイトに出たんですが、それでは雀の涙にもならず。借金まみれの今、塾代はどうにかなったとしても、その後の学費を考えたら、受験は撤退せざるを得なかったんです……」

 結果、お店を再開し、軌道に乗せる日までは耐え忍ぼうということで、車を売り、賃貸に引っ越し、ひかりさんは退塾。「毎日、糊口を凌ぐように暮らしていた」と、さとみさんはその頃の暮らしぶりを教えてくれた。
 
 しかし、捨てる神あれば拾う神ありだろうか。晩夏のある日、さとみさんは街中で、ひかりさんが通っていた大手塾の元講師に偶然再会したのだそうだ。

「その先生は、ひかりも大好きな先生だったんですが、ご家庭の事情らしく講師は辞められて、今は近くの街で小さな塾をやっているとのことでした。我が家の窮状をお話しましたら、ひかりの実力であれば、今から対策して、公立中高一貫校を十分狙えるし、学費免除の私立中学もあるから、ぜひ受験しなさいとアドバイスしてくださったんです。しかも、なんと格安の授業料で勉強をみてくださることになったんです」

 結果、ひかりさんは特待生の学費免除を実施している私立中学と公立中高一貫校に合格。ひかりさんの希望で公立中高一貫校に入学した。

「あの時の私はパニック状態でしたから、公立中高一貫校という選択肢があることも、ましてや学費を免除してくれる私立中学があるってことも頭から消えていて……。あの日、先生に再会していなければ、ひかりの心の傷は今もふさがってなかったと思います」

 その後、レストランは営業を再開。さとみさん一家の経済状況が好転してきたのは、今年に入ってからだそうだ。

「おかげさまでお店を応援してくださるお客様がたくさんいらして、お店がにぎわうようになってきました。借金返済の目途もつき、生活も落ち着いて、どうにかひかりの今後の教育費も出せそうです。早いもので、ひかりも来年は中学3年生。受験をあきらめなくて、本当によかったと思っています」

 大人だけではなく、子どもたちをも翻弄したコロナ禍。幸い、ひかりさんは現在、学校が楽しくてたまらないという。久しぶりに来場者を迎えて実施された学園祭では実行委員として大活躍していたそうだ。

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