• 日. 12月 22nd, 2024

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明日あなたが被害にあうかもしれない

「強盗でもなんでもやって金を作る」倒産寸前の社長が、ついに一線を越えた! 闇金社員が見た衝撃の結末

 こんにちは、元闇金事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。今回も、かつて闇金で働いていた頃の印象深いお話をしていこうと思います。

「ごめんください」

 午前8時半。誰もいない事務所で朝の掃除をしていると、60歳くらいに見える痩せた薄毛の男性が、ビジネスバッグを片手に怯えた様子で入ってきました。

「朝早くから、すみません。私、北西印刷の北西と申します。伊東部長様は、いらっしゃいますでしょうか」
「伊東はまだですが、お約束でしょうか?」
「いえ、今日決済があるんですけど、その件でご相談に参りました」
「そうでしたか。もうまもなくだと思いますので、どうぞ、こちらでお待ちください」

 今日、当座に回している北西印刷の手形は、100万円。昨日、手形を銀行に持ち込んで、取り立てに回したのは私なので、その状況は把握しています。応接室に案内して、お茶を入れてから部屋に戻ると、北西社長が床に正座していて驚きました。

「ちょっと、なにをされているんですか!? イスにお座りください」
「いえ、大丈夫です。そんな立場にないものですから、部長様が来られるまで、このままでいさせてください」

 座れ座らないの押し問答を繰り返していると、先に出社された金田社長が、なにごとかと応接室に顔を出してくれました。説明するまでもなく、すぐに状況を飲み込んだ様子で、まるで相手にすることなく社長室に戻っていきます。

「少々お待ちください」

 後を追うように応接室を出て、お茶を入れて差しあげると、少し楽しげな様子の社長が言いました。

「あの客、まだ正座しているのか?」
「はい。今日決済があって、その件で相談に来たと仰っていました」
「そりゃあ、そうだろう。それ以外、ないよなあ」

 ほどなくして部長が出社されたので、手短に状況を伝えると、そのまま社長室に入られました。まもなくして出てきた部長が、そのまま応接室に入ると同時に、北西社長の悲痛な声が聞こえてきます。

「伊東さん、申し訳ない。今回だけ、助けてください! お願いします!」

 応接室の扉を開けると、北西社長は床に額をつけて、部長に哀願していました。

「で、いくら用意できているの?」
「30万です。本当にすみません」
「なんだ、半分も用意できてないのか。ウチはさ、依頼返却(一度取り立てに回した手形を所持人が銀行から返還してもらうこと)かけない主義なんだよね」
「そこをなんとか、お願いします! でないと、ウチ倒産しちゃいますよ。すぐに作りますから、3日だけ時間ください」

 血の気を失くした顔で、床に正座したまま懇願する北西社長を見下ろす部長の目は冷たく、まるで助ける気配は感じられません。社員全員が出社したところで、応接室から出てきた部長は、北西印刷の 債権譲渡や不動産登記の準備をするよう指示した後、回収要員である藤原さんを連れて北西社長と一緒に出かけていきました。出がけに、債権の保全が取れ次第、依頼返却をかけるからと予告されます。

「伊東部長、依頼返却は午後2時までだからね。銀行がうるさいから、時間厳守でお願いしますよ」

 先輩事務員の愛子さんが声をかけると、部長は、

「ああ、早めに連絡するから」

と約束していました。

 愛子さんによれば、依頼返却は銀行が嫌がる手続きらしく、基本的にはお断りしているそうです。そのため、やむなくお願いする場合には、顧客から「ジャンプ手数料」として一律10万円を徴収していました。言ってしまえば、不渡回避につけ込んだ脅迫みたいなもので、当座決済を条件とする意味深さを思い知ります。口では助けてやると言いながら、必死に作ってきたであろう手元資金を吸い上げ、その裏で回収準備に入る。そんな現実があるのです。

 結局、午後一番で連絡が入り、北西社長の奥さんを連帯保証人に取り込むことで、依頼返却をかけることになりました。銀行で手続きするため、印鑑を借りるべく社長室に入ると、すでに部長から報告を受けていた社長が言います。

「もう時間の問題だから、ここで飛ばして、回収に入っちゃってもいいんだけどな。女房の保証をもらったって、状況は変わらんだろう」
「他業者の利用もたくさんある方だから、また大変なことになるんじゃないですか?」
「不渡情報が世間に出回るのは、早くとも2日後だから、その間に全部取れるよ。倒産情報を一番に知ることで、客を抱き込むこともできるから、不渡の直撃は有利なことなんだ」
「確かに。巻き込まれる奥さんが、かわいそうですね」

 この日、部長が会社に持って帰ってきたのは、30万円の現金と額面80万円の差し替え手形、それに奥さんの債権書類一式です。朝から出かけて、随分とお疲れ気味に見えたため、社長に報告を終えて席に着いたところで甘めのコーヒーを入れて差し上げました。

「ありがとう。北西さん、きっと飛ぶから、決済確認を至急で取るよう銀行に伝えといてくれるかな」

 決済確認とは、取り立てに回した手形が決済されたか銀行に確認してもらうことで、お願いすると支払期日の午後3時半過ぎくらいまでには情報を入れてくれます。いただいた指示を、忘れないうちに愛子さんと共有して、その日に備えました。

 2日後の夕方、銀行における用事を済ませて事務所に戻ると、従業員が社長室に集まってテレビを見ていました。何か大きな事件があったのかと思い、帰社のあいさつがてら画面をのぞき込むと、都内の繁華街にある交差点で現金輸送車が襲撃されたというニュースが、事件現場から生中継される形で放送されています。

 犯人は現金輸送車を襲撃したそうですが、その場で被害車両を運転する警備員に取り押さえられて、すでに逮捕されているとのことでした。

「逮捕された男は、金に困ってやったと話しています。警察の発表によると、犯人は〇×区の印刷業、北西……」

 テレビから聞こえるリポーターの声に聞き耳を立てていると、さすがに驚いた様子の部長が社長に言いました。

「確かに、強盗でもなんでもやって金を作ると話してはいたんですが、まさか本当にやるとは思いませんでした。どうしましょうか?」
「あのおっさん、やるなあ。この前も正座していたし、おそらくは根が真面目なヤツなんだろう。警察が入っているから、占有するのは難しいかもしれないけど、状況を確認してこい」

 自宅の状況を確認にいくと、マスコミ対策のためか規制線が張られており、警察の手によって封印されている状況だと、現場に出向いた部長から電話連絡が入りました。債権者らしき人物の姿もあるようですが、多くのマスコミと黄色いテープが張られた玄関を見て、一様に引き返していくそうです。その報告を聞いた藤原さんが、腕を組んで思案する社長に言いました。

「破りますか? どうなりますかね?」
「バカ。そんなことしたら、すぐパクられるに決まっているだろう。警察が引くのを待って入るしかないな。ほかの債権者も狙ってくるだろうから、封印が解けるまで、午前と午後で状況を確認しに行け」

 その数日後、封印が解けないうちに弁護士介入となり、なぜだかすぐに決済されました。なんでも過去に別件であたったことがある弁護士だそうで、おたくだけは面倒だからと、債務整理における債権者平等の原則を破ってまで優先的に決済することを決めたそうです。

「債権者名簿にウチの名前を見つけて、初めは断るつもりでいたらしいんだけど、先に片付けるならという条件で受けたらしい。おたくとは二度と関わりたくないからと、弁護士に言われたよ」

 北西社長に下された判決は、懲役7年。一銭も奪えずに終わった事件とはいえ、その代償は重く、追い詰められて暴走した北西社長の後悔は計り知れません。すでに社会復帰されていることと思いますが、その後の暮らしぶりを知る由はなく、安寧に過ごされていることを願うばかりです。

※本記事は、事実を元に再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)

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