昭和の時代から、日本のエンターテインメント界を牽引し続けるジャニーズ事務所。ダンスに力を入れている事務所というイメージが強いが、中には「歌がうまい」と評判のタレントも多数在籍し、音楽番組やコンサート、ミュージカルをはじめとする舞台でその美声を披露している。
今回は、2020年以降にデビューした若手グループ・Snow Man、SixTONES、なにわ男子、Travis Japanの各グループから、ファンの間で特に歌がうまいと評判のメンバーを1人ずつピックアップ。音大出身のプロ音楽講師であり、技巧派モノマネタレントとしても知られる知香さんに、その歌声分析を依頼し、歌うまランキングとして発表してもらった。
「今回の歌声分析、とても難しかったです! できるだけ、皆さんの最近の歌声を参考にしたいと思ったのですが、現代の曲はヴォーカルにもエフェクトがかかっているので、歌声が調整されていて、なかなか“うまいヘタ”がわかりづらいんですね。そのため今回は、時期を限定せず、さまざまなジャンルの楽曲を、ソロ/グループで歌っている映像を複数組み合わせた上で分析しました」(知香さん)
果たして、知香さんを最も唸らせた若手歌うまジャニーズは誰だ!?
Snow Man・渡辺翔太、SixTONES・京本大我、なにわ男子・大橋和也、Travis Japan・松倉海斗……歌自慢の若手ジャニーズ4人
今回、知香さんに歌声を分析してもらったのは、Snow Man・渡辺翔太、SixTONES・京本大我、なにわ男子・大橋和也、Travis Japan・松倉海斗の4名。いずれもグループ内で「最も歌がうまい」と評判のメンバーだ。
渡辺はSnow Manの“歌”を支える人物として、ファンから絶大な支持を得ているメンバー。京本は、CDデビュー前から人気ミュージカル東宝版『エリザベート』のルドルフ役に起用されるなど、歌唱力の高さは折り紙付き。大橋はハイトーンボイス、松倉は表現力が“武器”といわれ、やはり多くのファンを魅了している。
そんな彼らの歌声は、プロの耳にどう響いたのか? 4人の歌うまランキングを紹介しながら、その歌声の特徴、魅力、そして伸びしろポイントを、歌うまランキングとともに解説していただいた。
「天真爛漫な歌声! 年を取って声が出にくくならないよう『練習』を」
大橋さんはいつも笑顔ですよね。天真爛漫さがうかがえる歌声で、しゃべっているときと歌っているときの声が変わらないのが印象的。性格も裏表がない方なのではないかと思います。
常に笑顔だから口角が上がり、自然と表情に引っ張られて目が大きくなって、そこから明るい声が前に飛び出す。それが、大橋さんの歌声の特徴です。元気なアイドルソングを歌うのにはとても向いていると思います。
一方、全部その調子で歌っているので、どんな曲も同じように聞こえてしまうのが惜しいところ。それに大橋さんって、ちょっとハスキーで鼻にかかった声をしているじゃないですか。今は20代と若いので、地声で高い声が出ているけれど、それを続けていると、30~40代になったときに声が出にくくなって、キーを下げて歌わなければいけなくなってしまいます。
改善策としては、「押す」歌い方だけでなく、裏声を用いて「抜く」歌い方を練習するといいと思います。加えて、主に胸式発声で歌われるポップスは、呼吸が浅くなり、カサカサした声になりがちなので、鼻からゆっくり息を吸って、あくびするときみたいに喉を開き、「あー」と声を出してみる――そのとき、前に出る声を、胸に落とす練習をしてほしいです。そうしていくと、もっと歌声の幅が広がって、聞かせる系の曲で人の心に“沁みる”歌い方ができるようになり、さらに声帯に負荷がかかりにくくなりますよ。
「ミュージカルをやると“化ける”! 歌詞を伝えるのと同じくらい『歌』に意識を」
松倉さんは、4人の中で最も「歌っているときに顔が動く」のが印象的でした。曲によってエッジ利かせたり、声質の幅も広い。息遣いにも表情が表れているので、ジャニーズ外のミュージカルを本格的にやると、ものすごく化けると思いますし、もっと「歌がうまい」と言われるようになるんじゃないでしょうか。
また、光GENJIの「パラダイス銀河」を歌っている映像を見たのですが、「ようこそここへ 遊ぼうよパラダイス 胸の林檎むいて」という歌詞そのままを振り付けで表現していたんですね。すべての曲でそういったことをしているわけではないですが、歌い手にとっては重要な「歌詞を伝えたい」というパッションを感じました。
ただ、歌詞を伝えようとするあまりに、歌がおろそかになり、ヘタに聞こえてしまうことがあるという点が惜しい。歌うことにも同じくらい意識を向けてほしいです。
具体的には、感覚的な話になってしまうものの、歌う際、頬骨の上あたりから声を出すようにするといいのですが、松倉さんにはぜひ意識してほしいですね。実際、できている曲もあったので、特にアップテンポの曲でより意識するといいのではないでしょうか。歌詞の語尾まで気を抜かずに歌う……というのも大事です!
「曲の全部を“きれいな一本調子”で歌える才能、喜怒哀楽が出れば文句なし!」
京本さんは、曲の全部をきれいな一本調子で歌うんですね。それって、とても難しいことなんです。また歌声を聞いていると、凛として美しく、クールな印象を抱き、加えて女性っぽさも感じ、そこが魅力的。
なんというか、流し目が美しい「女形」のイメージが思い浮かぶような歌声です。実際に女形をされている梅沢富美男さんの代表曲「夢芝居」も合うんじゃないでしょうか。ちなみに、マイクの持ち方にも品があると思いました。
そんな京本さんですが、歌声を聞いただけでは感情が伝わりにくい、殻を破り切れていないという点が惜しい。これさえ身に着ければ“最強”でしょう。
京本さんが、ミュージカル『ライオン・キング』の「愛を感じて」を歌唱する映像を見ました。私からすると、短所が浮き出てしまっていて……「話したいけど どうすればいい 過去の真実 ああ、だめだ 言えないんだ」というフレーズがあるんですが、とても淡々と歌っていたんです。
順を追って見ていくと、「話したいけど」の「ど」が歌いづらかったのか消えてしまい、続く「どうすればいい」もそれを引きずっていました。この場合、「ど」をいったんしっかり胸に落とし、役の感情を込めつつ、「どうすればいい」を一個一個はっきり歌ってほしかったですね。また、「過去の真実」で音が上がり、それに合わせて感情も上がるというパートが平坦で、セリフパートの「あぁ、だめだ」も流れてしまっていた。ここも感情を表に出して、声を上げてほしかったです。
歌声に喜怒哀楽を出す。またライオンが口を開いたときのように「ぐわーっ」と口角を上げて、そこから声を出す練習をしてみてはどうでしょうか。
「『アイドルがなかなかできない』歌唱法をマスター、強弱を意識するとさらに◎」
渡辺さんの歌声はずばり「滑らか」。ラブソングを歌っている際に、相手の女性が“見える”ような歌い方をされていて、渡辺さんはロマンチストな方なんじゃないかなと思いました。ちなみにマイクの持ち方にも、ロマンチストぶりが表れていると感じますね。
渡辺さんをなぜ1位にしたかというと、アイドルの方がなかなかできない歌唱法をマスターしていたから。よく音楽の授業で、「口を大きく開けて歌いましょう」と教わると思うんですが、それをやると息漏れしちゃうので、実はよろしくない。本当は、あまり口を開けず、喉の奥を開いて、やわらかい声を出すというのがベストで、それを身に着けていたのが、渡辺さんなんです。
同じくSnow Manの向井康二さんと渡辺さんが一緒に歌っている映像を見ました。向井さんは声を前に出す歌い方をされていた一方、渡辺さんは、裏声を用いて「抜く」歌い方をされていたので、よりやわらかい歌声が印象に残りましたね。声帯を傷めずに歌うテクニックを、自然と身に着けているんです。
また、京本さんに対して「口角上げる」という点をアドバイスしましたが、渡辺さんも上がってはいないんですよね。ただ彼は、松倉さんパートで指摘した「歌う際、頬骨の上あたりから声を出すようにするといい」というのができています。
そんな渡辺さんですが、強弱があまりないのが惜しい。彼の歌声には表情があり、伝えたいこともわかるのですが、曲の中で、聞く人の心に強く訴えたいときは押す、聞く人の心に沁みるように歌いたいときは抜くというのを明確にすると、もっとよくなると思います。
これは4人共通していえることなのですが、皆さんはステージ上で、歌のうまさよりもカッコ良さを出そうとしているように感じました。カッコ良さに加え、さらにパワーアップした歌声を出すためには、まず“マスケラ”を意識してほしいです。
“マスケラ”はもともと、顔の上部を覆うタイプの「仮面」を意味するイタリア語。声楽の世界では、鼻と額の間あたりを指し、そこに声を響かせることが重要とされています。わかりやすくいうと、古畑任三郎が推理中、「んーー」と考え込む際に指で押さえる“あの場所”です!
一度、古畑ポーズをしてみて、マスケラの場所を確認し、そこに声を集めるような感じで、歌う練習をしてみてほしいです。その時、“マスケラ”とおなかを1本の線でつなぎ、軸にするようなイメージで声を出すのも大事。これは、4人だけでなく、「歌がうまくなりたい」というすべての人にアドバイスしたいですね。
ただみなさん、現時点でも、とてもいいモノを持っていると思います。それぞれ長所と短所があるのですが、曲調によっては「短所が長所になることもある」ということを理解していただけるとうれしいです。
大橋さんを4位にしましたが、元気で明るい曲を歌うのにはとても向いてますし、歌っている彼の笑顔を見て、私まで笑顔になり、たくさんのエネルギーをもらいました。松倉さんも、3位と下位グループですが、磨けば確実に化ける逸材です!
また京本さんは2位にしたものの、改善点をたくさん伝えてしまったのですが……歌うときに感情を表に出して殻を破ることができれば、彼は今回のランキングで1位だったと思います! そして1位の渡辺さん。ミュージカル『オペラ座の怪人』なんてやってみたら、すごくハマると思うので、そんな機会があることをひそかに期待しています。
知香(ともか)
モノマネタレント。榊原郁恵、MISIA、平原綾香、鬼束ちひろ、セリーヌ・ディオン、ホイットニー・ヒューストンなどレパートリー多数。東邦音楽大学、大学院で声楽を学び、音楽講師としての顔も持つ。
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