• 日. 12月 22nd, 2024

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明日あなたが被害にあうかもしれない

「金を返さないまま死んだら成仏できないぞ」病院での取り立てで社長逮捕……闇金王国がついに崩壊へ!

 こんにちは、元闇金事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。

 2010年、出資法と貸金業法が改正されたことにより、行政や警察による取り締まりも厳しくなりました。それにもかかわらず、うちの会社は高利での貸付や強めの取り立てを継続したため、ついていけない社員が次々と退職してしまったのです。

 その筆頭は佐藤さんで、体をかけてまではできないと、至極当然なことを理由に退職されました。入社してから現在まで、秘かに抱いていた私の恋心も、ここに終了。最強タッグのパートナーである藤原さんも、その後に続き、それからまもなく小田さんや伊東部長まで退職してしまいます。そのままなし崩しの状態に落ち入り、まるで会社の事業に見切りをつけたように営業社員の退職が相次ぎ、一時期は愛子さんと私、それに社長の3人で事務所を運営した時期もありました。

 新規貸付は行わずに、ひたすら決済を待つ後ろ向きの営業スタイルで、不渡り時には社長一人で対応されます。今まで受け持っていた仕事のほか、登記書類の作成や現場の確認なども任されるようになったため、お給料は上がったものの、常に不機嫌な顔でピリピリしている社長と過ごす時間が苦痛でなりませんでした。

 退職者の穴埋めをするべく、就職情報誌で募集をかけると、中学校からの同級生だという20代前半の男性2名が採用されることになりました。人事は社長の独断で、私が口出しをするわけにはいきませんが、どう見ても営業向きではないタイプなため不安になります。

 2人ともに体格が良く、パンチパーマをかけているので、はっきり言えばヤクザにしか見えないのです。体に入れ墨も入れており、親指の付け根にある点で描かれた三角形は、服役経験を誇示するためと聞いてあきれました。10代の頃には暴走族をやっていたらしく、その時代の逮捕歴が、親指の付け根に反映されているそうです。

 彼らの前職は、10日で3割という暴利で金を貸すヤクザ系の闇金融業者の一員で、今でいう半グレの人といったところでしょうか。前勤務先の顧客リストを持ち出してきており、入社直後から新規の貸付先を多数獲得してみせましたが、筋悪客(信用状態の悪い先のこと)ばかりで、社員の質に合わせて客層も変わっていきました。

「きっと近いうちに、なにか大きなトラブルが起きる」

 社員の出入りに伴い、自然と湧き出る不吉な胸騒ぎを抱えながら日常業務をこなしていくと、その予感は意外と早くに的中することになりました。彼らが入社してから3カ月ほど経過したところだったでしょうか。心臓を悪くして緊急入院している間に、やむなく不渡りを出してしまった電気工事屋の債権を回収するべく病院まで取り立てにいき、そこで事件を起こしてしまったのです。

「どうせ死ぬなら借りた金を返してから死んでくれ」
「ウチの金を返さないまま死んだら成仏できないぞ」

 見舞客を装って難なく病室に入った2人は、病床につく社長の耳元で脅迫的な物言いを繰り返しました。

「今、いくら持っているんだ? 財布を出してみろ」

 ベッド脇にある私物入れから財布を取り出させて、嫌がる債務者の手を振り払って財布の中に手を突っ込み、病院代として持っていた8万円の現金を抜き取ってしまったのです。すぐに2人は病院を後にしましたが、隣のベッドを使う患者がやりとりの一部始終を見ており、警察に相談するよう社長に進言したことで事件が発覚。財布に手を入れる時、揉みあいの中で社長の手首をつかんだようで、そこが赤黒く痣となっていたことから強盗致傷の容疑で捜査が開始されてしまいます。

「警察だ。そのまま動かないで。なにも触るなよ」

 翌日、事務所を開けてまもなく、警察の強制捜査が入りました。捜査員の中には、女性の姿もあり、皆一様に「捜査」と書かれたえんじ色の腕章をつけています。事務所に入ってくるなり、3人1組の体制で社員2人を取り囲んだ捜査員は、それぞれの氏名を確認した後、その場で逮捕状を読み上げました。

「これからね、強盗致傷の容疑でね、あなたたちに出ている逮捕状を執行しますね。時間はね、午前8時50分ね。何か言いたいことは、ありますか?」
「強盗致傷って、なんだよ? ウチは、貸した金を返してもらっただけだ」
「あなたの話も、後でゆっくり聞きますからね。それではね、手を出していただけますか」

 語尾に「ね」をつける癖のある捜査員が2人に対する逮捕状を読み上げると、すぐに手錠がはめられ、あっという間に連行されていきました。

「これから強制捜査を開始しますので、協力してください」

 数人の刑事が社長室に入ると、私と愛子さんは経理部で、女性捜査員のコンビに両脇を挟まれました。身分証明書を確認された後、台帳や現金、預金通帳などの保管場所を指差した写真を撮られて、その中身を全部出すように指示されます。

 手許の現金を数え、通帳や手形小切手の詳細を書きとった女性捜査員は、それらを警視庁と書かれた封筒に詰めていきました。事件の発端となった電気工事屋の関係書類だけは、別の箱に集められて、厳重に封印されていたことを覚えています。

「貸金業規制法と出資法違反の容疑で、あなたを逮捕します」

 それからまもなく、年配の捜査員によって社長に対する逮捕状が読み上げられると、その場で手錠がはめられました。手錠姿で俯きながら連行される社長の哀愁漂う姿を見て、自然と涙があふれ出たことを思い出します。

「もしかして、私たちも逮捕されるんですか?」
「それはないと思いますけど、あなたたちからも話を聞かないといけないから、警察署までは同行してもらいます。すぐに出かける準備をしてください」

 みんなが別々の警察署に連行されたことで、取り調べ中も不安な気持ちでいっぱいでしたが、その日の夜に帰宅を許されて安堵しました。すぐに愛子さんに電話をかけると、今しがた解放されたそうで、事務所で落ち合おうと提案されます。

「大変だったわね。私たちまで連れて行かれるとは思わなかったわよ」
「はい、びっくりしました。社長、すぐに帰ってきますよね?」
「どうかしら。顧問の弁護士先生とは面識あるから、明日確認してみるわね。ねえ、おなかすいてない? 少し片づけたら、食事に行きましょうよ」
「そういえば、お昼を食べ損ねました。かつ丼とか、出前でも取ってくれるのかと思ったけど、取調室は飲食禁止みたいで」

 廃棄するべく、社員2人の机上に残された食べかけの総菜パンを手に取ると、朝に食べたきり何も食べていないことを思い出しました。軽く掃除を済ませて、事務所近くの中華料理店に入り、お酒を飲みながら食事を取ります。食事中は、もっぱら取り調べの話題で、担当の刑事に聞かれたことを照合しました。

「金利のことと取り立てのことが中心だったけど、ヤクザ関係の話をしつこく聞かれて困ったわよ。名前と顔は知っているけど、どこの組の人かなんて、1人もわからないから」
「そうですよね。私は、社長との関係を勘繰られて、なにか預かっているものはないか執拗に聞かれました」
「へえ、そんなのあり得ない話よね。るりちゃんは、若いから仕方ないか」
「彼氏もできたことないのに、社長の愛人だなんて、ひどい話ですよ」

 いつもよりお酒が進みましたが、ドラマのような1日を過ごして興奮していたらしく、少しも酔うことはありません。先のことを考えると夜も眠れず、そのまま朝を迎えてテレビをつけると、しばらくして見覚えのあるビルが映し出されました。

 昨日、会社に強制捜査が入り、社長たちが逮捕されたことが報道されていたのです。それによると当該事件のほか、某指定暴力団の企業舎弟であると警視庁に疑われているそうで、さらに詳しい調査が進められるとのこと。それが事実だとしても驚きはありませんが、そうなれば私自身も暴力団関係者になってしまう気がして、とても嫌な気持ちになりました。

 正直に言えば、もう退職したい。そんな気持ちにもなりましたが、愛子さんだけを残して辞めるわけにもいきません。社長が帰ってくるまでの間は、細かいことを気にしないようにして、通常通り朝一番の出勤を続けることに決めました。

※本記事は、事実を元に再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)

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