• 日. 12月 22nd, 2024

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田中みな実の「人付き合いない」発言――庶民からの共感が「危険」と感じるワケ

私たちの心のどこかを刺激する有名人たちの発言――ライター・仁科友里がその“言葉”を深掘りします。

<今回の有名人>
「ほぼ、人付き合いないですよ」田中みな実
『田中みな実 あったかタイム』(2月18日、TBSラジオ)

 最近、大御所の「庶民チャレンジ」動画をよく見かけるような気がする。例えば、歌手・ユーミンこと松任谷由実は、生まれて初めて回転寿司に行ったが、お茶の淹れ方がわからず、まごまごする動画を公式インスタグラムにアップしていた。Yahoo!ニュースがこれを取り上げており、コメント欄を見ると「ほっこりした」とおおむね好意的に受け止められていた。

 ほかにも、小林幸子がサイゼリヤに行ってみたり、黒柳徹子がH&Mで爆買いしたりと「庶民チャレンジ」はユーミンに留まらない。すでに大御所である彼女らがそんなことをしてまでウケを狙う必要など本当はないのかもしれないが、おそらく大御所だからこその俯瞰した視点から、一般人の気持ちの変化のようなものに気づいているのではないだろうか。

 ひと昔前、人気芸能人といえば、雲の上の存在で、庶民には想像もつかないような高級な服を着て、豪華な食事をしていると思われていた。庶民に手の届かない存在であることが、芸能人の人気を支えていたわけだが、もう今はそういう時代ではない。庶民と同じ感覚を持っているという点が人気を呼ぶポイントになったのだ。

 そのため、たとえ大物であっても、あえて一歩、庶民の側に入り込み、それを嫌みなく見せることで、「あの人はいい人だ」と好感を抱いてもらう必要がある――彼女たちは、それが芸能界を生き抜くコツだと気づいているのではないだろうか。

 庶民の側に一歩踏み込み、「私はあなたと同じ人間。一緒なんですよ」とアピールすることは、芸能人の戦術としてアリだろう。しかし、人気芸能人の庶民に寄り添うような発言を鵜呑みにしてしまうことは、危険なような気がするのだ。

 2月18日放送のTBSラジオ『田中みな実 あったかタイム』。出演者であるタレント・永野から「プライべートでイライラすることがあったら、それを抱えていくのか、排除するのか?」と聞かれた田中は「排除します」とキッパリ。「排除していった結果、人間関係がなくなりました。ほぼ人付き合いないですよ、私」「どんな会にも属してないし、だからどこからも呼ばれないし。楽ですよ」と答えた。

 いかにも“キラキラ”した交友関係を築いていそうな人気芸能人・田中に「人間関係がない」のは意外だったのか、この発言は多くの人に衝撃を与えたようだ。2月21日付「ハフポスト日本版」は、「『どんな会にも属してない』。田中みな実さんの人間関係への考え方が刺さる。『このマインドめっちゃ大事』と共感広がる」と、田中に好意的な記事を配信している。

 プライベートでまでイライラを抑え込んで人と付き合う必要はないし、人付き合いがないことが悪いとも言わない。ただ、ここで見過ごしてはいけないのは、田中のようなオファーがあって成立する芸能人と、いわゆる一般の会社員では、人間関係の築き方や関係性の内実が根本的に異なっているという点ではないだろうか。

 例えば、会社員の場合、一緒に働く人の顔ぶれが変わるのは、人事異動や転勤、あるいは自分が転職したとき程度で、基本はそんなに変わらない。プライベートで自分から積極的に交友を増やそうと思わない限り、人間関係はほぼ固定化されてしまうだろう。

 それに対し、田中のようにオファーがあって成立する人気商売の場合、一緒に仕事をする人の顔ぶれはどんどん変わり、人と知り合うチャンスは会社員より格段に多い。もちろんチャンスがあることと、親しくしたい人と出会えるかは別の話だが、「その気になれば」人付き合いには困らないわけだ。

 特に田中のような売れっ子と親しくなりたいとすり寄ってくる人は、たくさんいるだろう。それに、もし田中が本当に人間関係を持たなかったとしても、田中には身の回りの世話を焼いてくれるマネジャーがついているわけだから、ひとりぼっちになって孤立無援になることはまず考えにくい。

 けれど、一般人、特に一人暮らしの女性が田中を真似て、周りの人を「どんどん排除していく」ことをすると、本当に“独り”になってしまう可能性がある。南海トラフ地震や新型コロナ肺炎など、人間にはどうすることもできない自然界の脅威が迫る中、日ごろからゆるやかにでも誰かとつながっておかないと、いざという時に「誰にも頼れない」ということになりかねないのだ。

 阿佐ヶ谷姉妹は、女性の共感を得ているタレントとしてよく名前が挙がるコンビだが、その理由は、彼女たちのネタがウケているからといったこと以外に、2人が醸す雰囲気、あるいは「気の合う人がすぐ近くにいて、いざとなったら頼れる安心感がうらやましい」からというのもあるだろう。田中の「人付き合いないですよ」発言が世間から共感を呼ぶ一方、若い女性は、阿佐ヶ谷姉妹的な距離感の人間関係のあり方を参考にするのも手だと思うのだ。

 話を田中に戻そう。そもそも他人にイライラするのは、単にその人と相性が悪いこともあるが、自分の思考が「ああするべき」「そんなのムダ」と支配的もしくは批判的なときにも起きやすい。田中の意見に共感する人は、実はそういった思考に陥っている可能性があるだけに、周りの人間を排除する前に、まずは自分を振り返ってみるのも大事だろう。

 そして、田中自身にも、ぜひ自分を振り返ってほしい……なんて思わない。女子アナから始まり、女性誌の表紙を飾るまでビッグになっても、なーんかイライラしている。それが彼女のタレントとしての個性であり、最大の魅力だと思うから。

 一般人よりはるかに恵まれているのに、まるで一般のように悩む。それが田中の最強の武器かもしれない。

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