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中学受験、娘の不合格は「何もかも親のせい」――母が懺悔する“本命校前夜”の出来事とは?

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 2022年度の中学受験が終了した。

 今年度の1都3県の中学受験率は過去最高の22.9%を記録。推計6万7,500が受験に臨んだという(大手進学塾「栄光ゼミナール」調べ)。

 このように、中学受験は3年にわたるコロナ禍を物ともせず、過熱する一方。受験生が増えている分、競争も激しく、今では第1志望校に合格できる子は3人に1人とも言われている。今の中学受験には、多くの子たちが「不合格」という結果を目の当たりにしているというシビアな現実があるのだ。

 どの子にも、長い年月をかけて志望校合格に向けて頑張ってきたというヒストリーがあるだけに、「不合格」というレッテルを貼られるのは耐えがたいものだろう。特に中学受験は、精神的にも体力的にも未熟な年齢の子どもたちが受ける入試のため、同じ子たちが別日に受験したならば、合格者の半数は入れ替わってしまうと言われているほどセンシティブなものなのだ。

 今年、中学受験に挑んだ愛梨ちゃんの母親・佳代子さん(仮名)から、筆者の元にメールが届いたのは2月3日の午前中のことだった。

「何もかも、親がいけなかったんです……。愛梨が合格できなかったのも私たち親のせいです」

 佳代子さんの夫は猛烈サラリーマン。常に仕事を理由として「子育てには関わらない」というスタンスでいたそうだ。中学受験を決めたのも佳代子さん。それに関しても「やりたいなら、やれば?」という態度で、口出ししない代わりに、協力もしないという態度だったという。

「夫は、お金は惜しまず出してくれるので、それならそれでいいかって感じでした。でも、やっぱり、心のどこかで寂しい思いがあったんですよね」

 東京在住の愛梨ちゃんは、2月1日から入試がスタート。緊張しがちな性格が災いしたのか、本番では頭が真っ白になってしまい、押さえ校であった初日のA女子を落としてしまった。

「発表を見て、大泣きしている愛梨を私は必死で慰めていました。それなのに、帰宅した主人が私たちに『A女子なんて聞いたこともない(低偏差値の)学校に落ちたの?』と言ってきたんです。何なんですかね……いつもならば、聞かないふりでスルーできる言葉なんですが、その時はダメでした。翌日は本命校だったのに」

 A女子は確かに、高偏差値校とは言えないかもしれないが、品格のある伝統女子校。代々、A女子に子女を入学させるという家系もあることで有名だ。

「愛梨も私も必死に3年間、頑張ったんですよ。そりゃ、A女子は高偏差値ではないですけど、愛梨には合っていると思い、願書を出した学校だったんです。それを、中学受験について何も知らず、何もやってこなかった主人に全否定されたかと思うと……込み上げてくる怒りを抑えきれませんでした」

 翌2月2日は、本命校B学園の受験日ということもあり、愛梨ちゃんをどうにか寝かしつけたという佳代子さん。その深夜、夫とけんかになったそうだ。

「主人に『頑張っている愛梨にああいう言い方はないんじゃない?』と抗議しました。そしたら、『本当のことを言って何が悪い?』と言い返してきたので、それから大バトルです。最後は『もう離婚だ』までの言い合いになりました」

 翌朝、本命校B学園に向かったものの、道中、佳代子さんは元気がない様子の愛梨ちゃんが気になって仕方がなかったという。

「その時は、A女子の不合格が尾を引いているのかなって思っていたんです。なので『大丈夫! 大丈夫! 今日は違う学校!』って具合に励ましていたんですが、その日に出たB学園の合格発表にも、愛梨の番号はありませんでした。まさかの2連敗だったんです」

 その翌日の2月3日、愛梨ちゃんは中堅校C女子の入試に挑むことに。その道すがら、愛梨ちゃんは不安そうな表情で、佳代子さんにこう言ったそうだ。

「パパとママ、私のせいで離婚しちゃうの? 私がどこにも受からないほど、バカだから?」

 佳代子さんは「もう、涙をこらえるので精一杯でした」というが、愛梨ちゃんに「違うよ、違うよ、愛梨はバカじゃないよ! ママたち、別れないから安心して!」と必死の思いで伝えたとのこと。

「バカなのは私ですよね。よりによって、大事な本命校の受験前夜に夫婦げんかをするなんて。愛梨は寝たとばかり思っていたんですが、やっぱり不合格のショックから、寝つけていなかったようで、『そんな我が子に、さらなるショックを与える親がどこにいるのか』と思うと、情けなくて消えたくなりました」

 筆者が佳代子さんに励ましのメールを送ったところ、先日、愛梨ちゃんの受験の後日談が送られてきた。愛梨ちゃんの中学受験は、

2月1日 A女子 不合格
2月2日 B学園 不合格
2月3日 C女子 合格
2月4日 A女子 合格

と、2勝2敗という結果で終了したそうだ。

 佳代子さんは「A女子と、A女子よりも偏差値が高いC女子のどちらに行くべきか?」と迷ったという。

「主人が『(A女子に比べたら)C女子のほうが(偏差値が)マシなんだろ?』と言うんですよ。協力はしないくせに偏差値表だけはよく見てるんですよね……」

 しかし、A女子かC女子かを決めなければならなかった日の朝、朝食の席で、愛梨ちゃんが両親に向かってこう言ったそうだ。

「パパ、ママ、不本意な結果に終わってごめんなさい。パパは気に入らないかもしれないけど、私はA女子に行きたいの。A女子の人たちがみんな優しかったから。これから、私はA女子で頑張るから、離婚しないでほしい」

 佳代子さんいわく、「主人は愛梨の言葉に驚いてしまったよう」とのこと。

「慌てて『パパとママは仲良し』『愛梨はよく頑張った!』と言いながら、『パパもA女子がいいと思う!』って(笑)。自分勝手な発言で娘を傷つけてしまったことに、ようやく気がついたみたいでした。家族に嫌われたくないと思ったのか、私にも『申し訳なかった』と謝ってきましたね。ともあれ、私も親として、本当に未熟でした」

 それから、佳代子さんの夫はA女子の情報収集に励み、あっという間に「A女子ファン」となったそうだ。

「私たち夫婦は、お互いに腹を割って話し合うことを避けてきたような気がするんです。不満があっても、お互い言わずに溜め込んでいて、それが愛梨の不合格で、爆発したみたいな感じでした。愛梨の言葉で、私たちは本当に反省しました。これからは、愛梨がしてくれたように、家族みんな、いろんなことを言葉にして伝えていこうって決めたんです」

 2月1日からの1週間は、佳代子さんにとって怒涛の日々だったというが、やはり「人間万事塞翁が馬」なのかもしれない。

 佳代子さん一家は今、A女子の制服が届く日を心待ちにしているそうだ。

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