• 日. 12月 22nd, 2024

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明日あなたが被害にあうかもしれない

“妊婦万引き犯”に下した冷酷な鉄槌! 女店長は「そんな幸せな環境にいるのに、あなたぜいたくよ」と言い放った

 

 こんにちは、保安員の澄江です。

「雨の日は、万引きが少ない」……同業者や警察の方であれば、きっとご理解いただける定説だと思いますが、今年の梅雨は少し違うようです。おそらくは、度重なる緊急事態宣言の延長に基づく経済状況の悪化によるものでしょう。初犯の方に声をかける機会が増えたことで、その季節感はなくなり、通年より忙しい日々を過ごしています。

 事務所で話を聞いてみれば、仕事が途絶え、お金がなくなり仕方なかったのだと、どこか居直り気味の人が多いことも特徴といえるでしょう。

「もう、どうなってもいい」

 そんな気持ちすら伝わってくる自暴自棄な態度も共通しており、まるで責める気になれません。つい先日も、生活苦を理由に弁当を盗んでしまった高齢の個人商店主から“ワクチンを打つ前に餓死してしまいそうだ”と嘆かれ、このような人達が身を寄せられる施設が必要だと痛感しました。確かに逮捕されてしまえば、寝食に困ることはありません。しかしながら結果として信用を失い、お金のない状況で罰金刑でも科されてしまえば、容易に立ち直ることはできないでしょう。

 老若男女、人種国籍を問わず、食うに困って犯行に至るような人を捕まえた時には、ついつい同情してしまう自分がいます。そうした人を警察に引き渡すたび、声をかけたことが正しかったのか、自問自答してしまうのです。

 そんな人が増えつつある現状ですが、今回はそうした人たちとは“違う理由”で犯行に至ってしまった女性の事案について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、東京の端に位置するドラッグストアK。小さめの店内に大量の商品を陳列しているためか、万引き被害が絶えない状況に陥っているそうで、次の決算までに常習者を一掃するべく各店に保安員が大量導入されました。複数の保安会社と契約されているため、本部より結果を出すよう暗に指示されましたが、この日は雨のため客足が寂しく、嫌な焦燥感を抱えたまま後半の業務に臨みます。

 ようやくに雨が上がり、少し晴れ間が出てくると、20代後半と思しき妊婦さんが入ってきました。どことなく土屋太凰さんに似ている健康的な雰囲気が印象的な女性で、スポーツ選手と見紛うほどスタイルが良く、お腹の膨らみが余計に目立ってみえます。特に不審に感じたわけではありませんが、お客さんがいないので彼女の動向を見守るほかありません。すると、入口脇のボックスティッシュを手に取ってカゴの中に立てたその女性は、左肩にかけたトートバッグを手首に移しながら店内を歩いて、サプリメント売場で足を止めました。

 吟味することなく、さまざまな種類のサプリメントを複数ずつ手に取った女性は、あれもこれもという勢いで多数の商品をカゴに放り込んでいきます。左手首にかけたトートバッグは、カゴと体の間に挟まれており、商品を隠しやすい状況にセットされているように見えました。おそらくはカゴの中に立てたボックスティッシュを“幕”に利用するつもりなのでしょう。一連の行動が悪いほうにつながり、自然と犯行に至ることを確信した私は、棚の隙間を駆使して女性の手を見続けます。

(やっぱり……)

 それから間もなく、この店一番といえる死角通路に入り込んだ女性は、カゴに入れたティッシュで手元を隠しながら、“棚取り”した大量のサプリメントをトートバッグの中に隠しました。鉄分やDHA、マルチビタミン、ナットウキナーゼなど、隠した時間と商品名を記憶に留めつつ、次に乳製品コーナーで足を止めた女の行動を見守ります。

 すると、プリンやヨーグルト、ハーゲンダッツなどをカゴに入れて売場を離れた女は、お気に入りらしい死角通路に舞い戻って商品をトートバッグの中に隠しました。“幕”に使ったボックスティッシュの精算を済ませて、何食わぬ顔で店を出ていく女の背後に忍び寄り、極力驚かせないよう近所のおばさん気取りで声をかけます。

「こんにちは。もうそろそろ産まれそうですね」
「ええ、どうも……」

 この人誰だっけと、頭の中で記憶をたどっているであろう女は、いぶかしげに私の顔を凝視してきました。引きつり気味の微笑みで応えて、そっとトートバッグの紐を掴んだ私は、びくりと体を強張らせた女に用件を伝えます。

「お店の保安です。このバッグの中に、たくさん入れちゃったでしょう? ちゃんと払ってから帰ってもらえる?」
「え? ああ、はい……」

 呆気にとられながらも同行に応じてくれたので、「大丈夫だから」となだめながら、建物の裏手にある事務所に向かいます。応接室のパイプ椅子に座らせ、トートバッグに隠したモノをテーブルの上に出してもらうと、先程覚えた商品のほか、カロリミットやグルコサミン、高機能マスクが出てきました。続いて身分確認を進めると、ヨガの講師だという女は、31歳。この店の近くに、旦那さんと2人で暮らしているそうで、健診帰りに立ち寄ったと話しています。

 今回の被害は、計21点。合計で5万円ほど。すべて買い取れるか尋ねれば、10枚づつなのか束になった万券をテーブルの上に出して、すべて買い取るので許してくださいと懇願されました。

 ひととおりの確認作業を終え、どことなくたんぽぽの川村エミコさんに似ている50代と思しき女性店長を呼び出して状況を説明すると、見覚えのある女だそうで、通報する前に事情を聴きたいと申されます。

「よく来てくれていますよね。いつもやっていたんですか?」
「いえ、いつもではないです……」
「お金、たくさんあるじゃない? どうして払わなかったの?」
「世の中コロナで大変なのに、妊娠しちゃって。子供が産まれたらお金かかるのに、全然仕事できていないし。そんなことを考えていたら、お金払うのが嫌になっちゃって……。ごめんなさい」

 おそらくは、自分の胸の内を誰かに聞いてもらいたかったのでしょう。ため込んでいたものを吐き出すように告白した女は、顔を伏せて泣き始めました。そんなことにはまるで動じない女性店長が、この上なく冷酷な顔で言い放ちます。

「そんな幸せな環境にいるのに、あなたぜいたくよ。警察呼んできますね」

 むせび泣く女を尻目に席を立ち、扉の向こうで通報を始めたので、重苦しい場を変えるべく話しかけて場をつなぎます。

「サプリメントって、高いですよね。いつも色々な種類を飲まれているんですか?」
「ヨガのインストラクターって、健康的な見た目でいないと信用されないので、気をつかっているつもりです」

 その後、警察に引き渡された女は、直近に近隣店舗で同じことをして所轄警察署に扱われていたことが判明。逮捕もあり得る状況でしたが、妊娠中であることを理由に基本送致となり、身柄を旦那さんに引き受けさせることを条件に帰宅を許されました。

 すべての処理を終えて店に戻り、各報告書の承認印を頂くために女性店長を呼び出すと、早速に質問されます。

「あの女、どうなりました?」
「旦那さんと一緒に帰られました。短期間に再犯しているので、おそらくは罰金刑になるでしょうね」
「フン、いい気味ね。幸せな人生を送っているくせに、あの女、どうかしてるわよ」

 酷く意地悪な顔で言う女性店長の目には、嫉妬の色が色濃く浮かんでおり、同性の嫌な部分を見せつけられた次第です。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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