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  • 金. 9月 20th, 2024

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大久保佳代子、男性中心のテレビで担ってきた「役割」と“使い捨て”にされない理由

――昭和、平成、令和と、その時々によって、さまざまな変容を遂げてきた女性芸人。まさに彼女たちは、“時代を映す鏡”といえるだろう。そんな女性芸人たちの歩みを時代背景とともに振り返る。今回はオアシズ・大久保佳代子の遍歴を、テレビウォッチャー・飲用てれび氏につづってもらった。

「使い捨てなのよ、タレントなんて」

 オアシズ・大久保佳代子はそう言った。5月17日の『上田と女が吠える夜』(日本テレビ系)で、ベッキーが「バラエティ番組のスタッフは冷たい、収録が終わったらもっと褒めてほしい」と語ったときのコメントだ。大久保いわく、自分たちタレントには代わりがいっぱいいる、スタッフはいちいち褒めたりしない。

 もちろんこれは、笑いをつくる文脈上でのコメントである。本気で説教しているわけではない。実際、大久保の発言を聞いたベッキーは「あぁ……」と悲壮な表情を大げさに作って見せ、MCの上田晋也(くりぃむしちゅー)が「忘れてベッキー!」などと言うことで、その場に笑いが生まれた。

 また、「タレントは使い捨て」といった発言も常套句だ。ほかのタレントからもしばしば聞くフレーズであり、大久保の専売特許というわけではない。カンニング竹山がよく言っているイメージがある。

 ただ、大久保が言うと特別な重みを帯びる言葉ではあるかもしれない。というのも、キャリアが不安定になりがちな芸人のなかでも、彼女の遍歴は特に不安定なように思うからだ。

半“素人”としてテレビ業界に現れた大久保佳代子

 その歩みを確認しよう。大久保が光浦靖子とともにオアシズとして芸能事務所・人力舎に所属したのは1992年。翌年にはフジテレビ系の深夜バラエティ『新しい波』にコンビとして出演を果たした。しかし、その後始まった番組『とぶくすり』のレギュラーとなったのは光浦のみで、さらにその後継番組『めちゃ×2モテたいッ!』『めちゃ×2イケてるッ!』にも大久保の名前はなかった。

 ただ、99年頃から少しずつ、光浦の相方として『めちゃイケ』に出始め、2000年からはレギュラー出演者になった。この頃の彼女のキャラクターは「OLの大久保さん」。OLというキャラ付けは『めちゃイケ』の演出によるところも大きかったようだが、実際、この頃はコールセンターで働いていたようだ。いまでこそ彼女のような兼業芸人は珍しくないものの、当時は異質な存在だった。いわば半“素人”のような不安定な状態で、彼女は世の中に現れた。

「『めちゃイケ』も特殊な番組なんだけど、あの中で役割を与えられる。『OLの大久保さん』だったら、OLっぽいことを常日頃から言ってくださいとか。わかりやすく(世の中に)提示してくれたのかな、逆に言うと」(『イワクラと吉住の番組』テレビ朝日系、22年7月12日)

 大久保といえば、カッコいい俳優や若い女性アイドルなどへの“セクハラ”めいた言動や“下ネタ”が印象的だ。あるいは“ブサイク”をイジられたり自虐したりといった振る舞いもよく見てきた。『めちゃイケ』でもそういったキャラクターを求められていた。もちろん、彼女の気質にある程度マッチしていたキャラではあるのだろうが。

「私の仕事内容、性欲強いって言ってるのが6割と、イケメンがいたらセクハラするっていうのが4割、この2本立てでここまできたんですよ」(『さんまのまんま』関西テレビ、13年8月17日)

 そんな彼女は、10年代初頭にブレークする。さまざまな番組にゲストで呼ばれ、自身が番組MCを務めることも多くなった。戦い方が大きく変わったわけではない。が、やはり年齢を重ねアラフォーになったことで、彼女の言動をより世間が受け入れやすくなったのだろう。“下ネタ”といってもほかの女性芸人でしばしば見られたような“脱ぐ”方向ではなく、フレーズやニュアンスで笑わせていく大久保は、徐々に変わりつつあった時代の流れにも合っていたのかもしれない。相方の光浦は次のように考察する。

「大久保さん、エロがとてもノーマルじゃないですか。それが世間に受け入れられてる理由でもあると思うんですけど」(『痛快!明石家電視台』毎日放送、14年3月17日)

 ただ、“セクハラ”や“下ネタ”は常にリスクを孕む。いつどこでそれが過剰なものとして世間から非難の対象になるかわからない。というか、これまでも一部では批判があったのかもしれない。彼女がこれまで笑いを生むために使ってきたものは、芸人としての武器でもあるが、芸人としてのキャリアを不安定にする要因である。特に現在ではそうだろう。

大久保「私なんて下ネタとセクハラの2本立てで来たけど、今なんて絶対もうほぼ無理。ほぼ無理だからさ」
光浦「セクハラ、下ネタ、あとアルコールだもんな」
大久保「それが最高じゃない人生、と思って。そういう人好きだし。と思ってたけど、世の中的にはちょっと相反する感じにはなっちゃってるからね、今ね」(『ボクらの時代』フジテレビ系、20年5月17日)

 ただ、ここであらためて考えてみたい。彼女の武器は本当に“下ネタ”や“セクハラ”だったのだろうか?

 複数の女性芸人に「女芸人という生き方」についてインタビューする番組に大久保が出演したときのこと。彼女は「ちょっとまず私が、芸人っていう肩書に対しては非常に、そんな……って思うところがありまして」と、自身が芸人代表のような立場でインタビューを受けることへの違和感を口にした。そして「笑いの正体」について尋ねられ、次のように答えた。

「その現場の空気を読んで、何が求められてるかを理解し把握して、それに沿って発言なり動けるようにするのは、今まで心がけてきたことかなっていう気はしますけどね」(『笑いの正体』NHK総合、22年7月5日)

 同番組ではほかに上沼恵美子や友近、横澤夏子、Aマッソ・加納、ゆりやんレトリィバァなどがVTR出演していた。彼女らも同じように「笑いの正体」について聞かれていたが、その回答は「生きざま」(上沼)、「麻薬」(友近)、「幸せ」(横澤)、「探す」(加納)、「エクスタシー」(ゆりやん)。

 これらと比べると大久保の「空気」という回答は異質である。ほかの女性芸人たちがどちらかといえば主体を自分に置き、その自分の生き方や幸福、快楽や探究などを笑いと結びつけているのに対し、大久保は笑いの主体を自分の外に置く。なお、相方の光浦も似たようなことを言っている。

「コントを作ることが好きとか、明確なことがあったらいいと思うの。でも、テレビタレントって、やっぱり要求されたことをいかに早く嗅ぎ取るかとかも仕事だったりもするもんで。なんて言ったらいいのかな、やっぱり人様の座標軸ありき」(『ボクらの時代』同前)

 空気を読む。要求を嗅ぎ取る。その場の座標軸を読み、自身のポジションを確認する。“セクハラ”や“下ネタ”といった表向きの武器を支えていた本当の武器は、そんな空気読みの能力なのではないか。

 そして、そんな武器を彼女が磨いてきたのは、男性が中心的な役割を果たす現場だった。女性芸人は「隙間の役割」をこなすのが仕事だったと大久保は語る。

「(『めちゃイケ』は)スタッフも男が多いし、メイン的な役割するのはナイナイはじめ男性が多いし、たまに役割いただきますけど、そしたらそこに入れられた女性芸人は、隙間の役割をちゃんとこなすのが仕事かなぐらいに思ってました」(『笑いの正体』同前)

 彼女からは(そして光浦からも)、お笑い芸人やバラエティ番組の世界は男性のものである、との言及が何度か行われている。それがどこまでが事実の報告なのか、諦念なのか、それとも皮肉なのかはわからないが、「基本バラエティって男芸人で成立するものと私は思ってるんですよ」というように(『とんねるずのみなさんのおかげでした』フジテレビ系、15年2月26日)。あるいは――

「幼少期、漫才ブームを見たり、たけしさんの『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)を聞いたりして、笑いだけを目的にやってるっていうのがカッコいいって思ってたんで。どっかでだから、ホント偏見ですけど小さいときからのアレで、どっかで笑いは男のものってね、ちょっと思ってるところがあるんですよね」(『笑いの正体』同前)

 先に、芸人として語らされることへの違和感を大久保が語った場面を引用した。彼女の違和感の理由は、一つには、自分は芸人というよりタレントとして活動してきたという謙遜があるのだろう。

 が、別の理由も読み取りたくなる。男性を中心に構成されてきたお笑いの世界、つまり“芸人”とは暗に“(男)芸人”のことであった世界をサバイブしてきた者として、芸人という肩書と自身の輪郭がうまく重ならない。そんな理由も、当人が意図しているかどうかは別として、ありはしなかっただろうか。

 半“素人”のような芸人として世に出てくる。リスクをはらんだ“下ネタ”や“セクハラ”を頻繁に繰り出す。“(男)芸人”のなかで“女芸人”として立ち回る。いずれも不安定な状況を、大久保はその高い空気読みの能力でサバイブしてきた。時代が移り変わっても彼女はそのバランス感覚で乗り切っていくのではないか。実際、以前よりも“下ネタ”などが穏健なものになった彼女のメディア出演が減っているようには今のところ見えない。

 「使い捨てなのよ、タレントなんて」というコメントは確かに常套句だ。しかし、そのような聞き慣れた理解しやすいフレーズを番組上での自身の役割を理解しながら後輩タレントに“説教”っぽく繰り出し、わかりやすく笑いにつなげるところに、まさに彼女が簡単に「使い捨て」されなかった理由が含まれているのだと思う。

By Admin