7月16日放送の『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)、テーマは「就職先はさる軍団2 ~汗と涙の新入社員物語~ 後編」。
あらすじ
2022年4月に「日光さる軍団」に入社した新人たちを見つめる前後編の後編。
▼前編のレビュー▼
村崎太郎は、かつて「反省ザル」の次郎とともに一世を風靡した猿回し師で、現在は日光さる軍団劇場やおさ湯などの施設を運営する経営者でもある。本拠地となる日光さる軍団劇場がある「おさるランド」も、同年7月に1億円かけて大幅リニューアルを行っている。
22年、同社の新入社員は10名。その中の一人、片づけが苦手な中村は家に帰ったら気が付けば朝という激務の生活で、夏には体重が入社時から10キロ以上減ったという。村崎をはじめとしたスタッフの前で、新人が芸を披露する9月の新人総研の場では、振るわない結果となってしまったが、その後の23年正月には相棒の猿、キャサリンとともに神社で初詣客を相手に単独公演をこなし、おひねりもたくさん集まっていた。
しかし、その正月の繫忙期を過ぎて間もなく、中村の姿が社内から消える。新人教育係のジュニアのもとには中村から長文のLINEが届き、その中には「そもそもこの仕事に向いているのかわからなくなりました」「命を扱う仕事を自分がしていいのか」「何もかも中途半端でズルい自分が嫌で大っ嫌いです」「考える時間をください」と苦悩する文言が並んでいた。
中村は以前に、同期の藤倉に「辞めたいと思ったことはあるか」と尋ねるなど、思うことはあったようだ。中村の失踪を受けて、村崎はカメラを前に、昔は舞台に立つにも5年かかったり、10年かかっても立てない職人の世界だったと話す。それを、タイパやコスパを重視する社会の状況にあわせて、新人でも早く舞台に出すようにしたといい、「そのことの良さがわからないのかな、かわいそうだなって」と話す。
失踪から5日後、中村は日光さる軍団に戻る。「吹っ切れました」とのことで、仕事は続けるようだ。ジュニアは「自分がしたこと(仕事をバックれたこと)は今後、絶対忘れちゃだめだよ」と言いつつも温かく中村を迎える。しかし、先輩のルッキィは「何が大変なの? まだ君たちはまだ何も、何一つ大変なことをやっていない」「ただただ自分に甘いっていうだけだよ」と中村に釘を刺す。
新人発表会が迫る23年2月、日光さる軍団に激震が走る。新人の芸人が猿回しの際に猿を叩いた動画が観客の手によりネットで拡散、炎上してしまったのだ。
日光さる軍団の営業部は全国各地の公演をキャンセルするなど大騒動になる。村崎は「焦りすぎました」と話す。コロナの影響などもあり客が減り、「修行の段階で『未熟ですけど見てください』でご祝儀をくださるお客さんがいらっしゃるならばいいんじゃないかと思って出した。これが結果裏目に出たということですね」と後悔を口にした。
予定されていた日程での新人発表会は中止に。しかし中村をはじめ新人たちは自主練を続け、後日、無観客で新人発表会が実施されると、新人総見のときよりもずっと頼もしい様子で舞台に立っていた。なお、日光猿軍団は猿を叩いた新人も守っていく方針だという。
一方、新人の一人、藤倉はサルアレルギーがあったことが発覚。番組で映されていた手のひらは腫れて湿疹のようなものも見られており、熱意ある中での無念の退職となってしまっていた。
『ザ・ノンフィクション』若者をめぐる労働環境の変化
近年、労働条件に対する考えは変化のただなかにある。日光さる軍団は、残業代が同業他社よりおりやすいそうだ。一方、師匠と弟子の世界であるものの、芸を磨くように勤務時間外で稽古をするようにと上は言いづらい。
また、新人でも早く舞台に立てるようにするなど、かつてより労働環境をめぐる若手への配慮は手厚いようだ。
こうした状況は、今の日本において若年層は少子化でどんどん減っており、貴重な若手は各企業が取り合う「超売り手市場」であることと無関係ではないだろう。この厚遇は羨ましくなるが、一方で今はスマホ時代でもあり、今回のように「ネットで問題行為を晒される」という可能性もある。
これまでは社内で収まっていたようなトラブルでも、ネットにより拡散されれば、多くの人に知られ、社会人生命や会社生命までも絶たれかねないことにもなりかねない。そのリスクは年齢問わず全世代にあるが、若者の問題行為は中高年より燃えやすい。若者の炎上のほうが、見ている人の興味を引くからだろう。
そんな中で今回、猿を叩いた調教師も守っていくという日光さる軍団の判断を個人的には賛成する。動物に暴力を振るうことは良くないが、非難する目的で、無許可で人を撮影し、それをネットに晒すことだって良くないだろう。そしてそのような炎上があった際に、問題を起こした被写体の人間を切り捨てて終わりでは、ネットはただの死刑台になってしまう。
労働条件という側面から見れば厚遇されているようにも見える今の若者だが、現代ならではの炎上のリスクなど、さまざまな面をトータルから考えれば「若者の苦労」は今と昔でそう大差はないのかもしれない。