ジャニーズのCDアルバムを聞いたとき、シングルカット曲やリード曲ではないけれど、「これは名曲だ!」と感じる作品を発見したことがある人は少なくないだろう。実際、ファンの間で「隠れた名曲」として人気に火が付き、コンサートで披露されると大きな歓声が上がる曲もある。嵐が2007年に発売したアルバム『Time』に収録されている「Love Situation」はその一つで、どのグループにもこうした知る人ぞ知る一曲が存在していることだろう。
そこで、サイゾーウーマンは、ジャニーズグループの新しい“隠れた名曲”をいち早くリサーチ。今回は、Snow Man の3rdアルバム 『i DO ME』(通常盤)の中から、批評家・ライターで『スピッツ論 「分裂」するポップ・ミュージック』(イースト・プレス)の著者として知られる伏見瞬さんに、アルバム全体のレビューとともに、“隠れた名曲”候補をセレクトしてもらった。
『i DO ME』(通常盤)
リリース:2023年5月17日
レーベル:MENT RECORDING
収録曲
・あいことば(リード曲)
・Ready Go Round
・Super Deeper
・POWEEEEER
・slow...
・タペストリー(8thシングル曲)
・Julietta
・オレンジkiss(7thシングル曲)
・クラクラ
・8月の青
・W(8thシングル曲)
・僕という名のドラマ
・Two(渡辺翔太、目黒蓮)
・Bass Bon(ラウール、佐久間大介)
・Vroom Vroom Vroom(岩本照、深澤辰哉、宮舘涼太)
・Gotcha!(向井康二、阿部亮平)
・Nine Snow Flash(ボーナストラック)
Snow Manにとって楽曲は“衣装”――3rdアルバム『i DO ME』レビュー
Snow Manにとって、楽曲は衣装だ。その曲が、9人をどのように魅力的に映すことができるか。どのような演技を引き出すことができるか。そのような観点から、クリエイターは楽曲を作曲し、作詞し、演奏し、録音し、打ち込み、編集し、プロデューサーは楽曲たちをまとめていく。
「I Love You」と「合言葉」と「愛の言葉」を「ai」の音で重ねる冒頭曲「あいことば」では、ピアノとストリングスを前面に押し出したバンドサウンドが選ばれ、ダンスフロアの興奮に身を任せる姿をSnow Manが演じる「Super Deeper」では、分厚いシンセとハンドクラップからドロップして再度浮上するEDMの形式が選択される。さまざまなジャンルの楽曲スタイルを衣装のように着替えていく仕組みによって、アルバムの再生時間はSnow Manのショーとして聞き手の中で脳内再生される。
中でも、洗練された衣装として響くのは9曲目の「クラクラ」だ。メロウなR&B風ポップの衣装を纏いつつ、本曲において、ピュアで純白なキャラクターとセクシーでダーティーなキャラクターが衝突する9人の複雑な魅力が、巧みに引き出されている。トラップ風の細かく刻んだプログラミングと、“So dizzy so dizzy”と三連譜で歌うときのブルーノートに、 Snow Manの色気が醸しだされる。
Snow Man『i DO ME』隠れた名曲候補その1
「8月の青」:Bass Ball Bearやゲスの極み乙女。を想起させるナンバー
シンバルの逆再生音が響いたと思うと、ベースのうねりが耳に届く。Bass Ball Bearやゲスの極み乙女。を思わせる四つ打ちのバンドサウンドは、夏と恋と青春というリリックの設定においても上記の2バンドを想起させる。
イントロの盛り上がりから一度落ち着いた後、最初のAメロにおけるギターカッティングがさわやかで心地よい。最後のサビに向かう前のピアノブレイクも、自在にスピード感を変えていくダイナミックなドラムも気持ちいい。
しかし、なんといっても素晴らしいのは冒頭から楽曲を牽引していく山口寛雄のベースだ。「あいことば」や「Ready Go Round」でも巧みなプレイを効かせる山口は、「8月の青」においてその技術を全開に響かせる。太く伸びる低音が、指を弦の上で滑らせることで分厚いうねりとなってリスナーの耳に届く。そのうねりが、曲の中で持続的な快楽となるのだ。
音量の大小の変化によって盛り上がりを作る当曲の中で、最初から最後まで続く歓びが潜む。魅力の二重構造があるから、何度も聞きたくなってしまう。そうした二重構造は、「Oh oh oh oh」と繰り返す主観的にエモーショナルな瞬間において、「まるで、まんま運命じゃね?」「ここ、世界の中心じゃね?」と客観的な諧謔(かいぎゃく)を込める歌の二重性と重なっている。自信に満ちた態度とコミカルに自らを笑う振る舞いが同居する、Snow Manらしいサマーソング。
Snow Man『i DO ME』隠れた名曲候補その2
「Bass Bon」:ラウールと佐久間大介の声はそれぞれの魅力を強調しつつ調和している
アルバム後半。ラウールと佐久間大介によるデュエット曲。再生が始まると、低音のうごめきと規則的なノイズが次第に近づいてくる。不穏だ。それを切断する高音の後に、妖しいシンセとゴソゴソとした具体音が聞こえ出す。「 ti ki na bei a ti ki Bass Bon n an」という意味を欠いた声がリズミカルに重なり、キックドラムが太くハードに響き出す。硬質なサウンドが織り成す、インダストリアル・ミニマル・テクノ。
ラウールのぼそぼそとした低音と、佐久間の甘い高音によるオクターブ違いのユニゾンは、2人それぞれの魅力を強調しつつ調和している。メンバー中、最も背の高いラウールと最も低い佐久間の組み合わせは、おそらく対照性を狙ったものだろう。その狙いは成功している。
キックの四分の繰り返しの中で、カエルの鳴き声のごとき音や鉄を金具で打つような甲高い音が微細にリズムを変えていく。水の流れる音やスーパーマリオがコインを取るときに似た音もサウンドコラージュ的に使いつつ、全体としては抑制した印象を与える。抑えられつつ磨かれたサウンドデザインによって、2人の声が次第に艶を帯びていく様が素晴らしい。
ちなみに、岩本照・深澤辰哉・宮舘涼太による次曲「Vroom Vroom Vroom」もトラップとK-POPの解釈として優れており、リズムは太く鋭く、韓国語のラップを含む歌が野性的で生き生きとしている。連続して聞くと、とてもいい。