• 土. 12月 21st, 2024

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中学受験で変わってしまった中1の孫――「Fラン大」「低偏差値」発言にショック!

 “親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 「空前の中学受験ブーム」と呼ばれる昨今。子どもに大きなメリットがあるからこそ、多くの人が参入するのだろうが、その裏には当然ながら、デメリットもある。

 よく言われるのは、「受験勉強が大変なため、子どもの負担が大きい」ということ。非受験組のクラスメイトが自由に遊んでいる中、小学校では習わない難しい問題を解くため、長時間勉強しなければならないのは、子どもにとって酷だという意見もある。加えてその成果がなかなか出ず、メンタル面が不安定になりやすいというのもよく指摘されることだ。

 また、中学受験は、とにもかくにも数字で判断されがち。毎週のように突き付けられる模試の結果や偏差値、志望校のランキングに振り回される世界であることは否定できない。もしかしたら、中学受験の一番のデメリットは、子どもが「塾屋さんが作ったにすぎない数字」の上下で物事を判断してしまうようになることなのかもしれない。

 中学1年生になった紗良ちゃん(仮名、以下同)の祖母・有美子さん(68歳)は、ため息混じりに、こう話し始めた。

「この夏休み、久しぶりに息子一家が来てくれたんです。コロナ禍の中学受験だったため、帰省を控えていたそうで、紗良に会うのは3年ぶり。本当に大きくなりましたね。それはうれしかったんですが、どうにも気になることがあって……」

 息子一家が帰省したその日は、有美子さんの娘の子ども――紗良ちゃんにとっては従妹にあたる小6の女の子・愛菜ちゃんも家に遊びに来ていたそうだ。夏休みと年末には、有美子さんの家に親戚が集い、ワイワイ騒ぐのが恒例行事で、年も近いせいか、紗良ちゃんと愛菜ちゃんは昔からとても仲が良かったという。しかし――。

「年頃で反抗期の可能性もありますが、どうも紗良の態度が良くないんです。なんというか、愛菜を下に見るというか、バカにしているというか……」

 愛菜ちゃんは、大学までエスカレーターの私立小学校に通っている。中高、大学と高偏差値校ではないものの、ファンが多い伝統校。愛菜ちゃんの両親がその校風に惹かれ、進学先に選んだそうだ。一方、紗良ちゃんは公立小学校からの中学受験組。御三家クラスではないものの、大学進学実績を誇る人気進学校に通学している。

「紗良が何かにつけて、愛菜の学校を見下すんですよ。『あ~、Fラン大付属(偏差値の低い大学という意味で使用されるネットスラング)だからね』とか『低偏差値の友達ばっかでかわいそう』とか……。昔の紗良は、本当に思いやりのある優しい子だったのに、中学受験で変な価値観がついてしまったんですかね」と有美子さんは心配顔だ。

 有美子さんはその都度、「愛菜ちゃんの学校もいい学校」「紗良ちゃん、そういう言い方はどうかしら?」というふうに、やんわりと注意をしたらしいのだが、まったく響く様子がなかったそうだ。

「もっと厳しく言えればいいんでしょうが、横にいたお嫁さんに遠慮があって、ストレートには言えないんですよ。それとなく息子に伝えたのですが、『(愛菜の学校の)レベルが低いのは事実じゃん?』と言う始末で、本をただせば、私の育て方が悪かったのか? とも思って、なんかモヤモヤしたんですよね……。幸い、その場に娘はいなかったので、無用な兄妹バトルにはならなかったのですが、愛菜が傷ついてないといいなと願っているところです」

 子育てに祖父母の口出しは無用なご時世。息子一家に忠言できず、心の中で悶々としている有美子さんの心情は理解できる。

「久しぶりに会った紗良の価値観が、すべて“数字”に支配されている……というと言いすぎかもしれませんが、いろんなことを偏差値に換算している気がするんです。近頃は、『顔面偏差値』って言葉があるんですか? 顔が可愛いほうが勝ちなんだそうです。もちろん、お金を持っているほうが勝ちだし、難関校に通っているほうが勝ちって考え方をしていて……そういった現実は確かにあるかもしれませんが、その基準で世の中や友達を判断したり、ましてや、見下すなんてことは、紗良を不幸にするような気がして、ハラハラしてしまいます」

 有美子さん自身の子育て環境は、中学受験がスタンダードな地域ではなかったそう。息子も娘も中学受験はせず、公立中学から私立高校、早慶上智クラスの大学へと進学した。

「うちの子どもたちは、勝手に自分で進学先を決めたようなものなので、お受験のことは、私には正直、よくわかりません。お嫁さんや娘が『お母さん、今はこうなのよ』というのを『そうなのね~』と聞いているだけで……。でも、うまく言えないですが、変わってしまった紗良を見ると、中学受験って本当にいいものなのかな? という気はしています」

 思春期は“承認欲求”が異様に高まるお年頃。紗良ちゃんの本当の気持ちは、有美子さんの話だけではわからない。身近な人にマウントを仕掛けて、自分をより高く見せなければ、逆に立っていられない感覚になる子もいる。

 特に中学受験組の中には「偏差値が高ければ勝ち組で、偏差値が低ければ負け組」と思っている子も実際、多く存在している。とりわけ、親が偏差値に振り回されてしまうご家庭の子は注意が必要だ。

 人生経験が少なく、社会全体を見渡す機会が限られる子どもたちには、親の価値観がそのままストレートに入ってきてしまうからだ。

 よく「子育ては横軸ではなく、縦軸で見よ」と言われる。他人との比較ではなく、その子自身の成長軸を比べなさいという意味であるが、中学受験でもこの言葉はとても大切。

 親自身が「受験を通して、子どもをどう成長させたいのか?」ということを真剣に考え、時々は「数字ばかりに踊らされていないか?」と振り返る――有美子さんの話は、その必要性をあらためて痛感させられた。

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