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台風7号、タワマンの怖い「災害リスク」は? 過去には武蔵小杉で「トイレ使用禁止」の悲劇も

ByAdmin

8月 15, 2023 #インタビュー

 非常に強い勢力の台風7号。8月15日現在、近畿地方を北上し、日本海へ進む見通しだというが、自転車並みのゆっくりとした動きが特徴だけに、風雨の影響が長時間にわたるとみられる。

 そんな中、一部SNSでは、今回の台風によりタワーマンション住民が大きな被害を受けるのではないかと予想する声が散見される。というのも、2019年秋、台風19号の大雨の影響により、神奈川県・武蔵小杉の47階建てタワーマンションで停電が発生。エレベーターもエアコンもテレビも使えず、さらに水を上層階までくみ上げ、各世帯に供給するという仕組みにも不具合が生じた結果、「全戸断水」――まさかの「トイレ使用禁止」という状況に陥ったのだ。

 その“悲劇”は多くの人に衝撃を与え、以降、台風の季節になると、これを蒸し返す人は少なくない。サイゾーウーマンでは19年当時、『限界のタワーマンション』(集英社新書)の著者・住宅ジャーナリストの榊淳司氏に、地震や台風以外にもあるタワマンの災害リスクについて取材を行っていた。台風7号に注目が集まるいま、同記事を再掲したい。

※2019/10/15公開の記事に加筆、再編集を加えています。

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 台風19号の大雨の影響により、神奈川県・武蔵小杉の47階建てタワーマンションの地下にある配電盤が浸水し、24階まで停電が発生。また、水を上層階までくみ上げ、各世帯に供給するという仕組みも、停電によって不具合が生じ、「全戸断水」という事態にも陥ったのだ。エアコンやテレビが使えないのはもちろん、エレベーターも動かず、トイレも流せない状況に、住民がパニックになっていると、連日テレビや新聞で取り上げられていた。

 「災害に強い」と言われていたタワマン神話は一気に崩壊したように見えるが、今回露見した以外にも、タワマンは、さまざまな恐ろしいリスクをはらんでいるようだ。今回、『限界のタワーマンション』(集英社新書)の著者・住宅ジャーナリストの榊淳司氏に話を聞いた。

「タワマンは災害に強い」イメージはなぜ生まれた?

 今回、武蔵小杉のタワマンの停電は、なぜ起こったのだろうか。榊氏は「私はまったく予期し得なかったのですが」と前置きした上で、次のように解説してくれた。

「下水の処理能力に増して雨が降り、多摩川から逆流した水がタワマンの地下に入って、そこにあった電気室がダメになり、停電したわけです。なぜ水が地下に入り込んでしまったかというと、地下駐車場のシャッターが開いていた可能性も否定できません。武蔵小杉のタワマン11棟のうち、停電したのは2棟で、ほかの棟はシャッターを締め、土嚢で浸水を防ぐなどの対策を取っていたという話も聞きました」

 タワマンは災害に強いというイメージもあったが、それは偽りだったのだろうか。

「たまに『災害でタワマンが折れることはないか』といった声を耳にしますが、よほどの手抜き工事がなされていればわからないものの、1981年以降の新耐震基準に沿って建設されたマンションであれば、理論上『折れる』なんてことはありませんし、実際にそのようなことは起こっていませんよね。そもそもなぜ『災害に強い』というイメージが生まれたかといえば、東日本大震災直後、デベロッパーが、『タワマンは災害に強い』ということを大々的にアピールするようになったことが影響しているのでは。当時、私は不動産広告業界で働いていたのですが、新しい物件が出るたびに、広告の3割程度のスペースを割いて『こんな備えをしている』などと宣伝することはよくありましたね。しかし、今回、災害に対するハード面以外での脆弱性が露見してしまったかもしれません」

 タワマンの一番の魅力は、やはり「高層ゆえに素晴らしい景観と共に生活できる」という点だろう。しかし、榊氏は「『高い』というポジションにおけるリスクはある」と指摘する。 

「2016年、カナダ・トロント市のヨーク地区救急サービスの隊員たちが、一刻を争う『心肺停止』を起こしたマンション住民の階数別の“生存率”を調査した際、25階以上は0%だったといいます。高いというのは、つまりそれだけ移動距離があり、移動時間もかかる。移動手段はエレベーターしかなく、それは電力によって支えられている……そう考えると、『景色が良いから』だけでタワマンを選ぶのは、リスキーだと感じます」

 確かに今回、停電によってエレベーターが使えなくなり、一部報道では「40階近くまで階段を上り下りする住民もいる」と伝えられ、ネット上を驚かせていた。

「東日本大震災のとき、東京電力福島第一原発事故などの影響で、計画停電が実施されましたが、せいぜい3時間程度だったので、それくらいなら部屋の中でじっとしていれば問題ありませんでした。しかし、いざ災害で停電になったら、3~4日間、電気が使えない生活を強いられることもありますし、9月に台風15号が直撃した千葉では、一部地域で、実に1カ月も停電が続きました。このような状況に陥った場合、とてもじゃないけれどタワマンには住めないと思いますよ」

 また、タワマンは「戸数が多い」という点も、災害時のリスクになり得るという。

「例えば地震が発生し、停電が起こってエレベーターが停止した場合、避難経路は非常階段しかありません。そこに一斉に住民が集まったら大渋滞になりますし、さらに『我先に』と慌てる人が続出すると、将棋倒しになる危険性もあるのです」

 さらに、武蔵小杉の一件では、「トイレが使えない」という点も大きな話題となった。榊氏いわく「停電により、下水処理にも不具合が生じ、『トイレを流すな』という命令が出ている……ということでは」と述べる。

「トイレが使えないなんて、現代の人にとってはあり得ない事態でしょう。簡易式トイレが配布されたものの、用を足した後、『手が洗えない』という問題も出てきますし、そのストレスも大きいはず。総じて、タワマンの災害時における脆弱性は、『電気に頼り切っている』という点なのではないでしょうか」

 なお、タワマン住民が災害時、地域の避難所に身を寄せようとすると、敬遠されてしまうケースもあると付け加える榊氏。というのも、タワマンの建築ラッシュとなっている中央区・勝どきは、人口が激増しているにもかかわらず、避難所数が少ないそう。榊氏が、区役所にその点について「どうお考えですか?」と質問したところ、「マンションにお住まいの方は、基本的にマンション内で自活をしていただくことを考えています」といった回答を得たという。

「避難所というのは、基本的に自分の住まいにいると命に危険が及ぶという人が避難する場所なのです。そう考えると、確かにタワマンにいても命に別状はありません。けれども、生活面に重大な不具合が生じる可能性があるということなのです。実際に武蔵小杉のタワマンの住民は、大きな荷物を持って、別の場所に避難している方も多いと聞きます」

 「災害大国」と言われる日本では、今後も大きな地震や台風がやって来ると予測できるが、今後、タワマンの住民や管理組合はどのような対策を取るべきなのだろうか。

「まず、住民は、『避難所には行けない』という前提のもと、原始的な災害対策をすべきでしょう。飲み水や食料、カセット式ガスコンロとボンベ、電池式ラジオ、水を運ぶ容器などを用意しておく。またトイレをどうするか考えておくことも重要です。今回は、管理会社から簡易トイレが支給されたそうですが、大災害が起こった場合、そのような対応を一つひとつのマンションに行うことは不可能ですから」

 一方、管理組合は、「武蔵小杉の教訓として、台風時、『出入口はしっかり閉める』『シャッターの強度を上げる』というのは徹底すべき」と榊氏。

「また、タワマンには、自家発電装置が必ずあるものの、古いマンションは24時間、東日本大震災以降のマンションでも72時間しかもたないのです。そのため、急進的な管理組合は、自家発電に加え、空いている地下駐車場のスペースに、常に電気自動車を3台ほど停めており、停電が起こった際は、それを連結してエレベーターを動かすという体制をつくっています」

 さらに、いざという時のために、医療従事者の住民を名簿化している管理組合もあるとのこと。

「あと管理組合ができる災害対策で考えられるのは、1階に広い共有スペースがあるタワマンの場合、そこを臨時避難所にするというもの。高齢者や体の不自由な人、またケガをしている人など、高層階での生活に支障を来す人を優先的に入れるようにするなど、マニュアルを作成しておくこともできるのではないでしょうか。医療チームが来ても、治療を受けたい住民が30階に住んでいる場合、『エレベーターが動かないから階段を使って上ってもらう』というのは、現実的に考えられないですが、1階の共有スペースにいたらスムーズに診てもらえるはずです。災害時、管理会社は頼れないという意識で対策を練るべきでしょう」

 今回、台風19号によって、災害時の弱さが明るみとなってしまったタワマン。榊氏いわく「これまで日本にはタワマン信仰がありましたが、今回の件でイメージダウンしたのは確か。『100点』が『70点』くらいに下がったイメージです。ただ、それも一時的なもので、2~3年タワマンに懐疑的になる事件が起こらなければ、イメージも回復するはず」とのこと。

 悲惨な災害が起こらないことを祈りつつ、今後タワマン住民や管理組合がどのような対策を練っていくのか、注目していきたい。

榊淳司(さかき・あつし)
不動産ジャーナリスト・榊マンション市場研究所主宰。主に首都圏のマンション市場に関するさまざまな分析や情報を発信している。『限界のタワーマンション』(集英社新書)『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)など著書多数。
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