• 日. 12月 22nd, 2024

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宗教2世問題がクローズアップされた1年、脱会した私が感じたワイドショーへの違和感

「『カルト』と呼ばれる新興宗教の信者である両親の元に生まれた私は、子どもの頃からずっと(うさんくせぇ……)と思ってきた」――サイゾーウーマンで昨年、短期連載された「となりの脱会くん」。その筆者である「脱会くん」ことライター・DJ2世は、安倍晋三元総理銃撃事件により、この1年、いまだかつてないほど「宗教2世」問題がクローズアップされた状況をどう見ていたのか。今回、寄稿いただいた。

旧統一教会問題で宗教2世界隈に緊張が走る!

 平穏というのは長く続かないものである。宗教を離れてはや数年、悩んでいた過去は今となっては他人の記憶のよう。どうかこのままで……と毎回願うのだが、ふとした瞬間に自分が2世だったことを思い出す出来事が、定期的にやって来る。それは身の回りで起こる出来事であったり、SNSや報道で目にするものだったりする。

 そんな中、世間を騒がせる大きな事件が起こる。昨年7月の安倍元総理銃撃事件である。この事件は、元首相が亡くなるというショッキングな内容であったことに加えて、全容が明らかになるにつれて、政治と宗教、とりわけ宗教2世の問題が取り沙汰されていくことになった。この約1年間は、この宗教2世問題が、今まで類を見ないほどクローズアップされた。今回はこれらの報道に対して、宗教2世である自分がどんなことを感じたのかをつづってみようと思う。

「なんか、2世ですいません」報道を見ていて湧いてきた思い

 不謹慎に感じられたらすみません。「あぶね〜〜〜!!!」第一印象はこれに尽きる。自分がまさに2世として悩んでいる最中だったり、敬虔に信じている人だったりしたら、とても耐えられなかっただろう。自分はもう2世としての悩みをある程度乗り越えられていたから良かった。

 ただ、最初は他人事のように報道を見ていてたのに、ふとつらかった記憶を思い出し胸が痛んだ。なんか、2世ですいません。そんな思いが湧いてきた。

 とはいえ2世問題がようやく取り沙汰されるようになったのはとても良いことだと思うので、これは自分にとって、ムダな痛みではないのかもしれないと気持ちを切り替えた。日本社会が発展する成長痛、もっとやっちゃってください。

 ずっと報道を見ていると、「教義」や「信者の献金事情」を紹介するくだりがあるということがわかった。「メシアの再臨が……」「教団には、絵や呉服などを購入することで、喜んで“献金する”という文化がある」などなど。ときに、実際に信じている人をスタジオに呼んで、教義はどんなものか質問したりする。視聴者は「洗脳って怖いな」なんて思ったりしているのだろうか。

 私は正直、「この時間いる?」と思った。

 というのも、カルトと呼ばれる宗教は、たいてい教義のロジックよくわからないからね? どこもお金を集めるための仕組みというのは必ずあるよ? そもそもすごく歪なもので、弱者を助けるという側面だけではないのがカルト宗教なのに。

 なので、なぜそれを今さら熱心に報じているのか不思議に思ってしまったのだが、意外と知らない人がいるのだな……だからこういった報道のされ方をするのだな……と自分と、世間の感覚のギャップを感じてしまった。元2世としては、そういった内容より、これからどうすべきかを話し合ってくれ〜という思いが先に立ちました。

宗教2世の苦しみを乗り越えた人は取り上げないワイドショー

 そしてついに報道では、現役の2世信者が登場しだした。彼らは今まで自分がどんな仕打ちを受けてきて、それがいかにつらかったかを口にする。わかる、わかるぜそのつらさ……! 最初の頃は共感していたのだが、そのうち、別のことが気になるようになった。

 つらい経験を話す人は何度も登場するのだが、ワイドショーやニュース番組には、それを乗り越えた人が全然出てこないのだ。親と和解した人や、社会人になって宗教からフェードアウトしていった者、本当は信じていないけれど親の手前だけ信じるふりをして何とか乗り切っている者……。

 2世の悩みの解決方法はまさに千差万別なので、そういったトピックこそ今悩んでいる人が必要としている気がする。確かに「社会人になってフェードアウトしていくうちに悩まなくなりました」では、一般の人は面白くないかもしれないが……。どの報道もそういった視点が抜け落ちていたのは少し残念だった。

せっかくなので、自分がどう乗り越えたかを語りたい

 というわけで、前置きが長くなってしまったが、自分がいかにして2世の悩みを解決したかを書いていきたいと思う。自分の2世としての人生の中で、1番のターニングポイントはなんだったのかというと、それは“親と初めてきちんと向き合う”ことだった。これは以前、「となりの脱会くん」で書いた内容の後日譚である。恐ろしく個人的な内容になってしまうのだが、もし誰かの参考になればうれしい。

 大学生の頃、私は大学に通うため実家を離れて、すぐ無断で宗教を脱会するというパンクな行動を取ってしまい、親との関係が険悪になってしまった。連絡は必要最低限になり、養われている身分のくせに、気づけば約3年、親の顔も見ないようになっていた。

 いざ宗教から離れ、晴れて自由の身だ〜! と意気込んだのだが、いざ大学生活が始まると、周囲の人たちは、それまで接していたコミュニティの人たちとは“層”が違ったせいか、なかなかなじめなかった。むしろ親との関係で悩むこともなく、学業にバイト、恋愛に勤しんでいる周りのキラキラ大学生の姿を見て、「自分は何かが違うのだ」と強く感じるようになった。

 しかも脱会したせいで、教団内の友達とのつながりも必然的に切れてしまい、親にも相談できない。ザ・孤独! 自分の人生は、皮肉にも宗教の上で成り立っていたのだということを実感した。この頃はよく夜に下宿先で泣いていた記憶がある。

 大学生なのでムダに時間があるわけだが、私はそれまで宗教から逃れることばかりを考えていたので、自分のやりたいことなんて見当もつかなかった。「自分が疑問さえ持たなければ」と思うこともあった。親の言うことに素直に納得して、敬虔な2世信者でいられたら幸せだったのかな〜とパラレルワールドの自分に思いを馳せるのは、2世あるあるではなかろうか。

脱会した2世、恋人に「そんな親がいる人と結婚なんてできないから!」と振られ……

 そんな自分も時間をかけてようやく理解してもらえる友人を数人見つけ、メンタルも安定し始めた頃、とんでもなく“ありきたり”な事件が起こる。こんなこと、人様に読んでいただくような内容ではないのかもしれないのだが……恋人に振られたのである。

 なんせ初めてできた恋人だったので、ひどく落ち込んだのだが、別れ際「そんな親がいる人と結婚なんてできないから!」と家庭環境をイジられたのである。今思えば、単なる痴話げんかに過ぎないのだが、それもそうだな……と思い、やけに落ち込んでしまった。

 もういろいろと限界だった私はふと思い立ち、親にメールを送ることにした。全てあんたらのせいだ……! という気持ちを込めた呪詛のようなメールである。そうすると父親から「一度話し合おう」という内容のメールが返ってきた。2週間後、父親と久しぶりに会うことになった。思えば私は2世であることへの不満を親に打ち明けたことは、それまで一度もなかった。そして……まさかの次回に続く!

(後編へつづく)

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