8月30日から配信されている Netflixの新作ドキュメンタリーシリーズ『ハート・オブ・インビクタス ー負傷戦士と不屈の魂ー』。ヘンリー王子とメーガン夫人が立ち上げた制作会社「アーチウェル・プロダクション」が制作した作品だが、たまに登場するヘンリー王子の発言が「事実」や「過去の発言」とは異なるものが多いと、ネット上で盛んに指摘されている。さらには、英紙が王子に名指しで反論する事態となった。
長年、負傷退役軍人のために熱心に活動をしているヘンリー王子。その功績はたたえられるものだが、「過去の発言と違うことを真面目な顔で語っている」として、「せっかくのドキュメンタリーが台無し」など批判が殺到。「虚言癖なのか」と憐れむ声まで上がっている。
制作発表から2年の時を経て配信開始となった『ハート・オブ・インビクタス ー負傷戦士と不屈の魂ー』。負傷した退役軍人を支援するスポーツ大会「インビクタス・ゲーム」に昨年出場した世界各国の選手や関係者のストーリーを通して、ヘンリー王子が2014年に設立したこのイベントの趣旨を紹介する作品となっている。
06年から15年まで英陸軍に従軍。短期間とはいえアフガニスタンに2度派兵され、陸軍大尉まで上り詰めたヘンリー王子は、これまで「インビクタス・ゲーム」の設立経緯について「アメリカの『ウォーリアーズ・ゲームズ』を訪問したことがきっかけで、イギリスで傷病退役軍人のためのスポーツ大会を作りたいと思った」と説明してきた。
しかし、今回のドキュメンタリーでは、派兵先のアフガニスタンから帰還する軍用機内で、担架で移送される重傷を負った軍人たちを目の当たりにしたことで、「負傷退役軍人のためのスポーツ大会を設立したい」と思いついたと発言。ネット上では、「僕のアイデアだ! とでも言いたいのかね」「自分が負傷兵たちのヒーローだとでも言わんばかり」などと冷ややかな声が上がった。
「インビクタス・ゲーム」では、足や腕を失うなど身体的な負傷だけでなく、トラウマやPTSD、社会的不安など、精神的に深い傷を負った退役軍人たちが参加するカテゴリーも設けている。王子はどの種目でも、一番大切なのはメンタルヘルスなのだと強く訴えてきた。
今回配信された『ハート・オブ・インビクタス ー負傷戦士と不屈の魂ー』の主人公はあくまでも選手たちで、ヘンリー王子はサポートする脇役に徹している。王子はたまに登場するだけだが、そこで話すのは英メディア批判と「自分がいかにつらかったか」といった話ばかり。メーガン夫人はチラッと登場する程度だが、アンチは神経を逆なでされたようで、「まるで自分が主人公かのように振る舞っている!」と、またもや夫婦で炎上してしまった。
ヘンリー王子の発言を、王室ウオッチャーが疑問視
作品のエピソード2は、PTSDと戦争が心にもたらすトラウマ「目に見えぬ傷」がテーマで、アメリカでは1日に22人の退役軍人が自殺しているという事実を紹介。ヘンリー王子は、「身近な問題だと思う。救える命だったと思う」「国に尽くした人々を救済したい。社会的にそういう取り組みをすべきだ」と強く主張。
そして、「自分は自分の経験しか話せないが」と前置きした上で、「12年に派兵されたアフガニスタンで、心の傷を負っていたことに気がついた」と述べ、「1997年、12歳というあまりにも子どもだった時に母を亡くしたことがトラウマとなり、心の傷となっていたのだ」「(母を亡くした時は)誰にも相談できず、(同様の経験をしている)ほかの子どもたちと同じように自分の気持ちを抑え込むしかなく、そうし続けていた」「心の傷に気づいた時には困惑した。それまで麻痺状態だった感情が戻り、すべてを感じられるようになり、抑えられなくなってしまった」と深刻な表情で明かした。
続けて、「当時、私の周りに助けてくれる人はなく、専門家の意見も得られず、状態を把握することができなかった」と苦しげな表情を見せ、危機的な状況に陥ってからカウンセリングの必要性を感じるようになったと告白。そうなってから、「すぐに対処していればと悔やむようになる。私はそれを変えたいのだ」と強い口調で語った。
しかし、この「アフガニスタンから帰ってきた時、周りにサポートしてくれる人はいなかった」と断言したことを、王室ウオッチャーは疑問視。王子がアフガニスタン派兵中に受けたインタビューで、「ウィリアム(皇太子)が手紙を送ってくれたんだけど、“ママはきっと君をすごく誇りに思っているよ”って書いてあったんだ」と照れくさそうに、そしてうれしそうに話している映像が残っている。
戦地にまで手紙を送ってくれる兄が、帰国した弟の心のケアを放置するとは考えにくく、また王子は過去に「20代の後半にカウンセリングを受けたが、それは兄が強く勧めてくれたのがきっかけだった。専門家の治療を受け、長年苦しんでいた母の死のトラウマを克服できた」と告白していた。
そのため「兄弟の美談をなかったことにしている。動画という証拠が残っているものもあるのに、がっかり」「話すことがコロコロ変わる。虚言癖なのかな」といった指摘が相次ぐ一方、王子のメンタルを心配する声も聞かれる。
英紙がヘンリー王子に反論
また王子は、「アフガニスタンで負傷した軍人たちのことを、英メディアが全く取り上げてくれない」と批判めいた発言もしていたが、これに英メディアが強く反論。
英紙「ザ・サン」は、王子が初めてアフガニスタンに赴任する前年に「ヒーローたちを助けようチャリティ」を立ち上げ3億7,000万ポンド(約680億円)の寄付金を集めたという当時の記事を掲載し、ヘンリー王子の記憶違いだと厳しく指摘した。
メディアでは当時の写真もいくつか紹介されており、搬送されている負傷した兵士、ウィリアム皇太子が負傷軍人たちと交流し「あなたと同じ軍服を着ることができて本当に光栄だ」と言葉をかけている表紙の画像もある。国のために戦っている軍人のことを、メディアはスルーすることはなかったのだ。
英紙「デイリー・メール」は当時の特集記事を紹介する記事を掲載し「そんなことはないですよ、ヘンリー王子」と名指しで反論。「『サンデー・タイムズ』時代、1面に特集記事を書きましたけど」という当時の記者は「王子は忘れてしまわれたのですね」とがっかりしてみせた。
『ハート・オブ・インビクタス ー負傷戦士と不屈の魂ー』自体は、負傷した退役軍人たちのリアルな葛藤が描かれ、深く考えさせられる内容だ。エミー賞を狙えると高く評価する人も少なくないだけに、「王子の発言ばかりが話題になり残念」「王子が出なきゃよかったのに。なんで出たの?」などと残念がる声がとても多い。
今月ドイツで開催される2023年度の「インビクタス・ゲーム」では、再び自分語りしないことを祈るのみである。