嵐・二宮和也、中谷美紀、大沢たかおがトリプル主演する新月9ドラマ『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』(フジテレビ系)が10月9日からスタートする。
同作は、1日の出来事を1クールかけて描く“謎と愛と奇跡の物語”。横浜で発生した銃殺事件の容疑をかけられた記憶喪失の男・勝呂寺誠司(二宮)、その事件現場に直行する地方テレビ局「横浜テレビ」の報道キャスター・倉内桔梗(中谷)、クリスマスディナーの準備に追われる孤高のシェフ・立葵時生(大沢)――この3人の物語が同時に進行しながらも、次第に交錯していくという内容だという。
公式サイトでは「謎をひもとく伏線は第1話から張られ最終話ですべて回収される」と説明されており、SNSでは今後、“考察合戦”が繰り広げられることは間違いないだろう。
なお同作は、二宮にとって月9初主演作でもある。山田洋次監督作品『母と暮せば』で、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞も受賞した屈指の演技派俳優である二宮が、月9でどんな姿を見せてくれるのか、楽しみにしている視聴者は多い。
2022年4月期に主演した連続ドラマ『マイファミリー』(TBS系)は、全話平均視聴率12.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)とスマッシュヒットを記録しただけに、『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』の数字面にも期待が高まる。
そんな二宮の芝居の魅力とは、一体何なのか――。ドラマ評論家・成馬零一氏が、彼を「見ていてイラッとするようなトゲのある男を演じられる」と評価する理由をつづる。
※2022年9月13日初出の記事に追記、編集を加えています。
※記事内の情報は掲載時のものです。
――ドラマにはいつも時代と生きる“俳優”がいる。『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『テレビドラマクロニクル1990→2020』(PLANETS)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、“俳優”にスポットを当てて過去の名作ドラマをレビューする。
今春クールに「日曜劇場」枠で放送された『マイファミリー』(TBS系)は、嵐・二宮和也にとって久しぶりの連続ドラマ主演だったが、全話平均世帯視聴率12.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録。同クール一番のヒット作となり、俳優としての存在感を見せつけた。
二宮が演じたのは、ゲーム会社の社長・鳴沢温人。多忙な温人は、家族をないがしろにしていたため、夫婦仲は冷めきっていた。そんなある日、娘が何者かに誘拐されてしまう。子どもの誘拐事件を軸にした物語は、犯人を予想する「考察ドラマ」としてSNS上で盛り上がりをみせたが、何より、誘拐事件に立ち向かうことで家族の絆を取り戻し、父親として成長する温人の姿が魅力的だった。
2007年放送の学園ドラマ『山田太郎ものがたり』(同)で共演した多部未華子が妻役を務めたこともあってか、大人になった二宮の魅力を印象付けることにもなったが、むしろ強調されていたのは、大人になりきれない温人のふてぶてしい姿。国民的アイドルグループ「嵐」のメンバーでありながら、見ていてイラッとするようなトゲのある男を演じられることこそが、俳優・二宮和也の魅力だと改めて感じた。
そんな二宮の存在を筆者が強く意識した作品は、01年放送の医療ドラマ『ハンドク!!!』(同)だ。
本作は、最新医療のシステムを備えた杉田玄百記念病院(SMH)で働く半人前の医者(ハンドク)たちの成長を描いた作品。池袋の元チーマーで、人一倍熱い信念を持つ主人公の研修医・狭間一番を長瀬智也が演じ、彼の出世作といえる『池袋ウエストゲートパーク』(00年、同)の演出を手掛けた堤幸彦氏が、『ハンドク!!!』でもチーフ演出を務めた。
そのため『ハンドク!!!』は、“『池袋ウエストゲートパーク』テイストの医療ドラマ”といった趣で、同作で開眼した長瀬の勢いのある芝居が印象に残るドラマだったことは間違いない。しかし、脇役でありながら長瀬に迫る圧倒的な存在感を示したのが、一番の舎弟・坂口信幸(ノブ)を演じた二宮だった。
ノブは身寄りがなく、住み込みで新聞配達の仕事をしているチンピラだが、普段は軽薄で情けない男。しかし彼には裏の顔があり、チーマー仲間からは「4号線の鬼殺しのノブ」と呼ばれ、恐れられていた。ヘラヘラしているかと思いきや、突然凄みを効かせてブチ切れるノブの“ヤバさ”は、『ハンドク!!!』に不穏な緊張感を与えた。
ちなみに、堤氏は当時、『ケイゾク』(1999年、TBS系)や『池袋』、そして『TRICK』(2000年、テレビ朝日系)といったヒット作を立て続けに演出し、飛ぶ鳥を落とす勢いの映像作家だった。『ハンドク!!!』では、「医者は患者の体を治すことはできても、心を救うことはできない」というエピソードが、乾いた映像とブラックな笑いを通して繰り返し描かれる。
『堤っ』(角川書店)に収録された『ハンドク!!!』プロデューサー・植田博樹氏と堤氏の対談の中で、堤氏が20代の時に体験した亡き妻の闘病生活が、本作を作るきっかけだったと植田氏は語っている。高額の医療費を払えるかどうかで医者の態度が豹変する経験をした堤氏は、すべてが終わった時に「死に対して無感情」になったという。
当時、堤氏が感じた「人の命は平等ではない」「受けられる医療には貧富の格差がある」という辛辣な死生観は、『ハンドク!!!』の根底に流れているテーマだ。すっかり人気俳優となった高橋一生がゲスト出演した、第7話は特に象徴的だといえる。
ノブは動脈瘤で盲目となった親友・南野風(高橋)を、SMHで診てもらえないかと一番に持ち掛ける。その後、一番がダメ元で院長の新堂一子(沢村一樹)に相談すると、風の入院を承諾。しかし、新堂の目的は、SMHを取材するジャーナリスト・筑前哲一郎(升毅)の息子で、心臓病の正一郎(郭智博)のドナー候補者に、風を仕立てること。正一郎と仲良くなった風は、“正一郎のために、自分の心臓を移植してくれ”という遺言を残して急逝。新堂は風が亡くなるとすぐに手術を行い、正一郎の心臓移植を成功させた。
その後、風に遺書を書くよう仕向けたのが新堂だと知ったノブは、SMHに潜り込み、新堂を背後からナイフで刺す。この場面のノブは、今風に言うと「無敵の人」の凶行を思わせる。ノブのようなキレた若者を演じさせると、当時の二宮は水を得た魚のようだった。
新堂を刺したあと、ノブは逃亡。しかし、その途中でバイクに跳ね飛ばされ重体となり、最後は場末の病院で一番に看取られて絶命する。ノブは「生まれてこなければよかった」と言いながら死んでいくのだが、貧富の差に翻弄された末、まともな医療を受けられずに死んでいくその姿は、コロナ禍で医療現場の逼迫が叫ばれる2022年に見るほうが切実に響く。
物語はその後、もう一山あるのだが、ノブが死ぬまでの展開があまりにも衝撃的で救いがなかったため、印象は薄い。二宮の凄みのある芝居が『ハンドク!!!』というドラマを食ってしまったように感じた。
ノブ役で鮮烈な演技を見せた二宮は、その後、俳優として大きく飛躍する。03年には蜷川幸雄監督の映画『青の炎』で主演を務め、06年にはクリント・イーストウッド監督の映画『硫黄島からの手紙』に出演し、国外からも注目された。
さらにテレビドラマでも、03年の『STAND UP!!』、08年の『流星の絆』(ともにTBS系)などで主演を務め、当時は若手俳優のホープとして活躍。00年代は、どこか影のある若者を演じさせると、二宮の右に出るものはいなかった。
嵐の活動が多忙だったためか、10年代は連続ドラマへの出演が減少。そんな中で主演を務めた『マイファミリー』に、『ハンドク!!!』で演じたノブの片鱗がうかがえ、あの頃の“ヤバい二宮”はいまだに健在だと示してくれたのだ。
来年、二宮は40歳になる。大人になっても丸くならず、影のある刺々しい人物を演じ続けてほしい。