――ドラマにはいつも時代と生きる“俳優”がいる。『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『テレビドラマクロニクル1990→2020』(PLANETS)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、“俳優”にスポットを当ててドラマをレビューする。
TOKIO・松岡昌宏が主演を務める『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日系)のSeason6の放送がスタートした。
本作は2016年に放送がスタートした人気シリーズで、これまでは深夜枠での放送だったが、今回からは火曜夜9時枠というプライムタイムに引っ越しすることとなった。
物語は、女装している謎の家政夫・ミタゾノこと美田園薫(松岡)が、派遣先の家庭が抱えている秘密を暴き、問題を次々と解決していく1話完結のドラマ。毎回、ミタゾノが家政夫ならではの、掃除や料理に役立つ豆知識を披露し、最終的にその知識が事件を解決するヒントにつながるという独自の構成となっている。
タイトルからわかるように市原悦子主演の人気ドラマシリーズ『家政婦は見た!』(同)が下敷きとなっているドラマだが、パロディや時事ネタが多いのも本作の特徴で、物語が終盤を迎えるとミタゾノが視聴者に語りかけるスタイルは、ミステリードラマ『古畑任三郎』(フジテレビ系)のパロディとなっている。他にも韓国ドラマ『イカゲーム』等の有名作品をネタにしたエピソードも多く、何でもありの娯楽作品だ。
何より一番の見どころは、ミタゾノの圧倒的な存在感だろう。
ミタゾノは長身で寡黙なため、立っているだけで威圧感があるが、常に周囲に目を配って、パートナーの家政婦や相棒の家政夫・村田光(Hey!Say!JUMP・伊野尾慧)が困っていると、さりげなく助け舟を出すため、後輩からはとても信頼されている。
女装している長身の家政夫というビジュアルに目が行きがちだが、周囲の状況に常に気を配る冷静な観察眼と、兄貴分として後輩から慕われている面倒見の良さは、バラエティ番組等で松岡がみせる人間的魅力と重なる。一見変化球にみえるミタゾノが愛され、シリーズ化したのは松岡の個性とマッチしていたからだと考えて間違いないだろう。
TOKIO・松岡昌宏の魅力は、相手を睨みつける目力にある
アイドルグループ・TOKIOのメンバーとして活躍する松岡は、1990年に『愛してるよ! 先生』(TBS系)で俳優デビュー。『アリよさらば』(同)等の学園ドラマや『花の乱』(NHK)『秀吉』(同)といった大河ドラマに次々と出演し、瞬く間に人気俳優として頭角を現すようになった。
出世作となったのは97年に主演を務めたドラマ『サイコメトラーEIJI』(日本テレビ系)だ。本作で松岡が演じたのは触った人間や物質の記憶の断片を読み取ることができる能力「サイコメトリー」を持った高校生のエイジこと明日真映児。
サイコメトリーを武器にエイジは次々と起こる猟奇殺人事件に挑むのだが、本作は優れたサイコサスペンスであると同時にエイジが悪友2人といっしょに馬鹿騒ぎする高校生の日常が、楽しく描写された珠玉の青春ドラマだった。松岡が演じるエイジは軽薄な高校生である一方、友達や妹のことを常に心配しており、特殊能力を持っていることもあってか、冷静な観察眼と分析力を持っている頭のキレる不良だ。
一方、2000年に放送された刑事ドラマ『ショカツ』(フジテレビ系)で演じた羽村斗馬は、スーツ、ネクタイ、メガネというクールなキャリア(幹部候補生)刑事のエリートだったが、見事にハマっていて、これまで得意としたヤンキーキャラとのギャップに驚いた。
このエリート路線の役を松岡は定期的に演じており、近年では21年にWOWOWで放送された『密告はうたう 警視庁監察ファイル』の佐良正輝がハマり役だった。佐良は「警察の中の警察」と言われる警視庁警務部人事一課観監係の刑事で、劇中では刑事を尾行し見張る佐良の姿が繰り返し登場する。鋭い眼光で相手を観察する姿がとても印象的で、俳優・松岡の魅力は、やはり相手を睨みつける目力にあるのではないかと思う。
宮藤官九郎ドラマ『マンハッタンラブストーリー』から『ミタゾノ』に続く持ち味
それがもっとも強く現れていたのが03年の『マンハッタンラブストーリー』(TBS系)である。本作は宮藤官九郎が脚本を手がけた異色の恋愛ドラマで、松岡が演じたのは「純喫茶マンハッタン」の店長。
彼は客の恋愛事情に干渉し、恋のキューピットとして影ながら客の恋愛を叶えようとするのだが、AとBの恋愛を成就させると実はBはCが好きで、BとCをくっつけると実はCはDが好きでといった感じで片思いが連鎖していき、やがて蚊帳の外にいたはずの店長も片思いの連鎖の中に巻き込まれていってしまう。
店長は寡黙でお店ではほとんどしゃべらないのだが、客の動向には常に目を見張っており、だからこそ些細な変化にも気が付いてしまう。そんな店長が、客に対して心の声でツッコミを入れながらも、キューピットとして孤軍奮闘する姿をコメディとして描いていた。
放送当時は宮藤にとっても松岡にとっても異色作に思えた本作だが、鋭い眼光で周囲に気を配り、目立つことなく人助けをする店長は、今振り返るとミタゾノまで続く松岡の持ち味を生かした適役だったと言える。
対象を分析する観察眼の持ち主は“嫌なヤツ”だと思われがちだが、眼光の奥に深い愛情があることが伝わるのが、松岡の演技の持ち味だろう。だからこそ、ミタゾノは最大のハマり役となったのだ。