覚醒剤の使用や密売などで逮捕起訴され、通算12年を塀の中で過ごした後、その経験を基にさまざまな活動を続ける瑠壬(るみ)さんが、女子刑務所の実態を語る「知られざる女子刑務所ライフ」シリーズ。
医療刑務所があっても医師不足
編集者さんから「大阪にも医療刑務所があるんですね。NHKのネットニュースを見ました」と言われました。
そうなんですよ。めっちゃ古かったのが、ピカピカの新築になってます。医療刑務所は大阪を含めて全国に4カ所しかないですが、お医者さんも少ないので、なかなか入院もできないようです。もったいないですね。
結構前から、EXILEのATSUSHIさんが「ムショのお医者さん募集ポスター」に登場してますが、自分からわざわざなる人は、まずいてないですよね。
せっかく税金で建て替えたのに、お医者さんが少なくて受け入れができないのは医療刑務所以外のムショも同じです。2022年には、シャバの病院に移送されたケースが719件もあったそうです。
シャバは脱走防止のために刑務官が24時間付き添うからお金がかかりますし、カタギさんの診療時間外に受けるから病院も大変ですし、ムショも人手を取られてしまうので、いろいろ困ります。
NHKニュースに出てたお医者さんは、「募集のポスターを見て志望した」そうですが、中にはそういう人もいらっしゃるんですね。
意外に安全なムショ医療
思えばムショで働くお医者さんの気持ちって、どんなでしょうね? 瑠壬的には「前の職場でやらかした系」か「悪者を懲らしめてストレスを発散したい系」くらいしか思いつかないですが、本心はわからへんので。
ムショの医療は、「どんな病気でも出てくるのは胃薬か風邪薬」みたいな都市伝説があるくらいテキトーです。さすがに最近はそこまでではないですが、昔はよく聞きました。今も薬をもらえるまでに時間がかかるし、お医者さんとはほとんど話せません。
瑠壬は知らなかったのですが、医師のおおたわ史絵(ふみえ)さんは、ムショのドクターを続けてて、本も出してるんですね。
女性で、オッサンの懲役(受刑者)と向き合ってるんですが、診察の際には必ず刑務官が付き添うし、懲役の座る場所も決まってて、医者に近づけないから、ムショのほうがむしろ「安全」やそうです。なるほどそうですね。
むしろシャバの病院のほうが「危ない人」が来たときに対応できません。クリニックに放火したり、訪問診療に来たお医者さんを殺したりしたのはカタギさんでしたよね。
あと、これも知りませんでしたが、おおたわ先生は、お母さんが「鎮痛剤使い過ぎからの薬物依存症」だったことも公表されてるんですね。薬の名前は出てないようですが、合法薬でも量が多ければ、オーバードーズ(過剰摂取)でラリったり死んだりすることもあります。
お母さんの薬物依存は、おおたわ先生が子どもの頃からで、薬が切れるとお父さんをどついたりしてたんだとか。先生は、お父さんが亡くなった後、お母さんと絶縁。最終的にお母さんは孤独死したそうです。そんなオカンなのに、先生は立派なお医者さんになって、希望者が少ないプリズン・ドクターをやってるんですね。
ブレイキングダウン・外枦保尋斗選手「YouTubeに出てお母さんに見つけてもらう」
瑠壬がいちばん注目してるプロキックボクサーの外枦保尋斗(そとへぼ・ひろと)さんも、お母さんが覚醒剤で懲役に行ってます。「お母さんが薬物をやっています。連れて行ってください」と警察に通報したのは、外枦保さん自身だったそうです。
そんなことがあってんのに、外枦保さんはマジメにキックボクシングに取り組んでて、今もお母さんをずっと好きなんですね。瑠壬も若い頃は子どもたちに悲しい思いをさせてしまったので、めっちゃ刺さるお話です。
もともと外枦保さんが格闘技を始めたのは、暴力を振るうお父さんを「ぶっとばすため」で、プロとして「ブレイキングダウン」に出たのは、人気YouTubeに出て、お母さんに見つけてもらうためでした。もちろん、ちゃんと再会できてます。
一時はヤクザになることも考えたけど、格闘技に打ち込めたから、お父さんにも感謝してるそうです。お父さんは建設会社の社長さんで、長男の外枦保さんを後継ぎにしたくて厳しくしたんですね。今では、そのことも受け入れられてるんですよ。
YouTubeで延長戦を制して「母ちゃん、勝ったよ……」って言うところは涙が出ました。しかも、対戦相手にも感謝を伝えてます。何事にもポジティブやから、「今」があるんでしょうね。
おおたわ先生も外枦保さんも、親のせいにしないで、まっすぐ生きてて、尊敬しかないです。どうすればそんなふうに生きられるのか、聞いてみたいです。