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中学受験、余裕の1月校に不合格も……本命校に合格! 元受験生が語る「目が覚めた」瞬間

 今年も、埼玉・千葉で中学受験の入試本番がスタート。両県の学校を「お試し」で受けるという東京・神奈川の受験生も多いことだろう。

 一般的に、1月校をお試し受験する場合は、偏差値的に「余裕で合格できる」学校を受けるものだが、例年、まさかの不合格を突きつけられ、愕然となってしまう親子が出てくるのだ。

 2月1日からの本命校の受験を前に、1月校の合格を得て自信をつけておきたいという目論見が外れ、自信喪失してしまっている親子は、ここからどう立て直しを図ればいいのか――。

 受験カウンセラー、教育・子育てアドバイザーの鳥居りんこ氏によるサイゾーウーマンの連載コラム「“中学受験”に見る親と子の姿」では、かつて1月校に落ちたものの、その後、本命校の合格を勝ち取った神奈川在住の元中学受験生の経験談を掲載した。

 「1月校に落ちたからこその本命校合格だったと思います」――なぜ彼はそう語るのか。いま絶望の真っただ中に放り出された親子に向けて、同記事を再掲する。


“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

中学受験、余裕の「1月校」でまさかの不合格、「終わった」から挽回できる?

初出:2022年1月9日

 今年も首都圏では1月10日の埼玉入試を皮切りに、中学受験は入試本番を迎える。例年、入試解禁日は埼玉が1月10日から、千葉が1月20日から、東京・神奈川が2月1日からとなっているため、地方入試(地方にある寮完備の学校が首都圏で入試を実施すること)も含め、1月中に入試を行う学校を「1月校」と表現することが多い。

 この「1月校」であるが、「お試し受験」と呼ばれることもある。2月に本番を迎える東京・神奈川の受験生が「腕試し」的に受験するケースが多いためだ。仮に合格しても、実際には(その大半が)入学しない学校を受験するという意味なのであるが、これには、本番受験を経験するということと、早めに合格を手にして、本命校の受験に繋げるという大きな目的があるのだ。

 神奈川在住の慎吾くん(仮名)も1月校入試を体験したひとりだ。しかし、結果はまさかの不合格。偏差値的には余裕でクリアできるとの塾の“お墨付き”を得ての受験だったのだが、これが受験本番の怖いところで、番狂わせが起きてしまったのだ。

 慎吾くんの自己分析によると、1月校のA校には模試会場以上に人が溢れていて、完全に雰囲気に呑まれたのだそうだ。

「なんか、周りの人たちがすごくできるように見えちゃって……。そういえば、僕はここの過去問を手にしたこともないって思ったら、頭の中が真っ白になりました……」

 慎吾くんには「あ~、終わったな(=不合格)」という確信があったそうだが、実際に自分の番号がない画面を目にした時は相当なショックを受けたという。

「自分には偏差値から見たら、A校なんて目をつむっても受かるっていうような慢心があったんですよね……。完全に受験を舐めてました」

 その後、慎吾くんは塾の勧めによって、急きょ、地方にある学校の東京入試を受験し、とりあえずの“合格切符”を手にしたそうだが、まったく喜びはなかったそうだ。

「そこは飛行機の距離なんで、現実的には入学することもない学校です。というか、どんな学校なのかもまったく知りませんでしたし……。ただ、周りの大人たちが、自分にA校落ちのショックを緩和させたい一心というのは理解していました(笑)」

 2月1日の本番受験まで、この間、約3週間。慎吾くんは1日の大半を塾の事務室の片隅で本命校の過去問を解いて過ごしていたそうだ。

「塾には自習室も完備されているんですが、自分には先生たちが目の前でワチャワチャしている環境が居心地良かったって言うか……、そこにいると不合格のことも忘れられて、なんか、安心できたんですよ」

 慎吾くんは、本番入試直前に塾の先生にかけられた言葉が今も印象に残っているという。

「すっごく信頼している先生にこう言われたんです。『慎吾、オマエ、この3週間ですごく成長したな。この小うるさい環境の中でも、集中して、よく頑張った。オマエほど、本命のB校の過去問をやりこんだヤツはいね~よ。明日は自信もって、ぶつかってこい!』って。自分でも、すごく不思議なんですが、3週間だけですけど、これ以上はできない! ってくらいやれたんで、これで落ちるなら仕方ないっていうくらいの清々しい気分でした」

 結果は見事、合格。慎吾くんはこう言っている。

「1月校に落ちたからこその本命校合格だったと思います。それまで、自分はいまひとつ、受験というものがわかってなかったというか……。『不合格』っていう“烙印”が本当に押されるんだってことで目が覚めた部分がありますね。絶対に本命校には受かってやる!って気持ちになりましたから」

 中学受験においては「お試し受験は合格できる学校を選ぶ」というのが鉄則ではある。第1志望校の本番受験前に合格切符という名の「自信」を手にし、弾みをつけての本命校受験にさせたいということが「お試し受験」のポイントのひとつになるからだ。

 よって、塾もセオリーに従って、合格が確実に取れる学校を勧めてきやすいが、合格より何より必要なことは、「場慣れ」である。

 やはり、受験本番の空気は模試とは全く違う。しかも中学受験は生まれてまだ12〜11年しか経っていない子たちの受験なので、この空気感を初めて経験するという子どもたちが大半。その空気に呑まれる子も決して少なくないのである。よって「まさか」が起きることも決して珍しい話ではない。

 しかし、ここが中学受験の面白いところであるが、「まさか」を体験した子ほど、短期間で驚くべき成長を遂げることも、また多い。

 慎吾くんは語る。

「中学受験って、自分の人生を“自分事(じぶんごと)”として捉えた最初の瞬間だった気がしますね。あの時、自分はどうしたいのか? どうしたらいいのか? ってことをストレートに考えていた気がします。中学受験、やって良かったと思います」

 慎吾くんはB中高を卒業した後、一昨年、MARCHのひとつに入学。自身の中学受験体験が忘れられず、大学入学後は塾の講師をしている。今は、卒業後の進路に中学受験塾を考えているそうだ。

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