マーベル初のアジア系スーパーヒーロー映画として注目されている『シャン・チー/テン・リングスの伝説』。配給は、ウォルト・ディズニー・カンパニー(以下、ディズニー)傘下のウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズで、新型コロナウイルス感染拡大により2度も封切りが延期されており、ディズニーにとってもファンにとっても公開を待ち焦がれていた作品でもある。
ディズニーといえば、7月に公開された映画『ブラック・ウィドウ』について、主演俳優スカーレット・ヨハンソンから、出演する際に結んだ契約をほごにし、劇場公開と動画ストリーミングサービス「Disney+」での配信を同時に行ったと訴訟を起こされたばかり。
9月3日に公開される『シャン・チー』は、『ブラック・ウィドウ』とは異なり、45日間だけ劇場で独占公開し、その後「Disney+」で配信を開始することが決まっている。
このことについて、ディズニーCEOボブ・チャペックは、投資家向けの業績発表の場で、「すぐに見たい人は劇場でお金を払わなければならない。でも、Disney+で見られるのなら45日間待つ、という人もいるはずだ」と述べた。さらに「最近の消費者がどのような方法で映画を見たいと思うか、はっきりとわかるだろう」「興味深い実験になる」と発言。ディズニーにとっては、新型コロナウイルスによって多くの作品の劇場公開が見送られたこともあり、今後作品をどのような手段で公開していくかを戦略的に考えるためのデータが取れるという趣旨だったと思われる。しかし、この「興味深い実験」という言葉をメディアは大々的に報じた。
これに反応したのが、『シャン・チー』に主演する中国系カナダ人俳優シム・リウだ。彼はTwitterで、「オレたちは実験台じゃない」と反論した。
同作が主要キャストをアジア人でそろえていることを踏まえ、「オレたちはアンダードッグ(かませ犬)だ。過少評価されている弱者なんだ」と発言。シムの言葉には、ディズニーはアジア系を軽んじており、実験台にちょうどいいとでも思っているというニュアンスが含まれているよう。「オレたちは目に見えない障害を打ち壊す者だ。(新型コロナウイルスの感染拡大など)苦しみに満ちた1年の後に訪れた文化と喜びに対する祝福であり、予期せぬ驚きだ」と主張。「9月3日に歴史を作るため、気合は十分。みんなも強力して」と、熱く呼びかけた。
このツイートはたちまち話題となり、「共感する!」「ディズニーをぎゃふんと言わせてほしい!」と、6万を超える「いいね」がついた。「何もかも人種差別につなげなくても……」「スカーレットに訴えられた件があるから、同時公開しないだけでしょ」といった意見もあるが、コロナ禍でアジア系の人々をターゲットにしたヘイトクライムが増加していることもあり、「アジア人もパワーを持っているのだと世間に知らしめてほしい」「おとなしいから実験にちょうどいい、とでも言わんばかりのディズニーCEOを見返してほしい」と感じている人のほうが多いようだ。
香港系イギリス人俳優のベネディクト・ウォンや中国系マレーシア人女優ミシェル・ヨー、ニューヨーク出身でアジア系女性ラッパーとして人気のオークワフィナも出演する『シャン・チー』は、日本でも9月3日に公開される予定だ。