2021年をピークにブームになった高級食パン店「変な名前のパン屋」シリーズ。それらを手掛けるベーカリープロデューサーなる人物にも脚光が集まったものの、22年頃には早くも閉店が相次ぐことに。1号店の様子を見てきました。
目次
・【変な名前のパン屋】大ブームから3年の現在は?
・岸本拓也プロデュースの1号店【トツゼンベーカーズキッチン】行ってみた
・【トツゼンベーカーズキッチン】パン3品を実食
・【トツゼンベーカーズキッチン】「変な名前のパン屋」と真逆の店
【変な名前のパン屋】大ブームから3年後の現在は?
「考えた人すごいわ」「許してちょんまげ」「乃木坂の妻たち」など変わった店舗名にド派手な外観で、一躍全国的なブームとなった高級食パン店。いわゆる「変な名前のパン屋」と呼ばれ、これらをプロデュースしているのはベーカリープロデューサーでジャパン ベーカリー マーケティング社長(現・ブレッドサンド株式会社)の岸本拓也氏です。
同氏によるベーカリーは21年9月時点で約350店舗。「日経XTREND」21年7月30日付けの記事によれば、食パン専門店のプロデュースは18年から本格的に始め、20年だけで約130店をオープン。「単純計算で3日に1店のハイペースで、21年秋には全国47都道府県を制覇する予定」とのこと。
岸本氏は「東洋経済ONLINE」21年9月24日付けの記事で、「パンは主食なので、ブームで終わらず安定化するのではと考えています。日本ではずいぶん前に、家計の中でのパンの消費が米を抜いていますから。さらに食パンブームによりギフト需要が伸びていることもあり、少なくとも、タピオカのようにしぼんでしまうということはなさそうです」と、コメント。これまでに経営がうまくいかず閉店してしまった例はないともいいます。
しかし、22年には同シリーズ店の閉店が報じられるように。最近では、24年6月に栃木県大田原市で「記憶に刻め」を5店舗展開していた株式会社ストロイエの倒産が伝えられました。
【変な名前のパン屋】プロデューサーの1号店、【トツゼンベーカーズキッチン】行ってみた
閉店や倒産が報じられている現在、同氏が初めて手掛けたパン屋の様子はどうなっているんだろう? と、気になって実際に訪れてみることに。
東急東横線・大倉山駅から徒歩2分ほどにある「TOTSZEN BAKER'S KITCHEN(トツゼンベーカーズキッチン)」は、16年に開業したパン屋です。
到着してびっくり、外観がとても普通!! 黄色い「幸せのバナナパン」ののぼりが目を引きますが、店舗外観は至ってシンプルです。「変な名前のパン屋」みたいなサイケデリック要素は皆無。こういうテイストの店もあるんですね。
ちなみに、店名の「トツゼン」は「突然」を意味しているそうですが、「突然ベーカーズキッチン」とせずにアルファベットにしています。
店内に入ってみると、売場とキッチンが大きなガラスで仕切られているのが印象的で、職人が動いているのがよく見えます。パンのラインアップは、食パンだけではなく惣菜パン、ペストリー系の菓子パン、本場っぽいハード系のパンまで一通り並んでいて、子どもから大人まで食べたいものがみつかる町のパン屋さんといったところ。
そして今回は、のぼりが出ていた「幸せのバナナパン」、人気商品だという「明太フランス」、ラストひとつになっていた限定の「オーガストフラワー」を購入しました!
変な名前のパン屋といえば、店の外観と同じくど派手な紙袋もおなじみですが、トツゼンベーカーズキッチンの袋はシンプル。でも色もフォントもおしゃれで、ちゃんとデザインされてるのがわかります。
無料のコーヒーサービス、紙コップに仰天
店頭では無料でコーヒーがサービスされていました。真夏の炎天下ではありますが、せっかくなのでちょうだいします。
しかし、紙コップを手にしたまま目を見張ってしまいました。こ、これは……岸本氏のゆるキャラ!?
サングラスにソバージュのようなロン毛、そしてハット。矢沢永吉よろしく「are you happy?」とハートマークを飛ばしながらご機嫌に問いかけてくるこのキャラ、絶対に岸本氏ですよね!?
あらためて紙コップを見ると、たくさんの星模様と色使いがサイケデリックで、「変な名前のパン屋」の系譜が感じられます。
【変な名前のパン屋】1号店【トツゼンベーカーズキッチン】パン3品を実食
店頭のテラスで無料のコーヒーをいただきながら、さっそく1品食べてみました。
今だけの限定品と紹介されていた「オーガストフラワー」360円。ベーコン、チーズ、ズッキーニ、黒オリーブが乗った、チリソースを使ったパンです。
おしゃれな味がします。チリソースがきいていて、後味はしっかり辛め! ズッキーニはシャキシャキの歯ざわりが残っていて具の存在感がちゃんとあってうれしいところ。
大人が満足できるちゃんとおいしい総菜パンでした。ビールと合わせたらきっと最高です。
2品目は店頭でも次々に売れていた「幸せのバナナぱん」。ハーフサイズ400円を購入しました。
上に生のバナナが乗っかっています。
パンの生地はデニッシュと食パンの間のような感じ。そのままで食べるとバナナの風味はそこまで感じられずちょっと期待はずれでしたが、レンジで温めたところ、香りが引き立ちパンもふんわりとして別物のように! むしゃむしゃと食べてしまいました。
ただ、バナナ好きの1歳半の子どもが食べなかったのはガッカリ。子どもにはバナナの味が薄いのかもしれません。
3品目は「衝撃な旨さ!」と紹介されていた「明太フランス」420円。老舗・かねふくの明太子をたっぷり使っているそうです。
全長25センチと皿からはみ出る大きさ。パンに切り込みが入っているので、手でバリバリと切れていいですね。
カットしてみると、断面に明太子が埋まっている!
こんな明太フランス、見たことがありません。そして、こんなにもそそられる明太フランスも初めて!
ということで、かぶりついてみると、極上……。フランスパンのバリバリとした歯ざわりのあとに、明太子のガツンとしたおいしさ。そしてパン生地のもっちりとした優しさ。もう止まらないうまさです。明太子はもちろんのこと、パンがうまい!!
あと3本くらい買っておけばよかったと悔やんだ次第です。本当に、フランスパンがおいしくてびっくりでした!
【トツゼンベーカーズキッチン】「変な名前のパン屋」と真逆の店だった
今回、トツゼンベーカーズキッチンを利用して、「変な名前のパン屋」とまったく違うことに驚きつつも、「だからノーダメージなんだな」と納得しました。違った点は以下3つです。
①店舗の外観、店名が控えめ
②食パンだけに頼っていない。ちゃんとパン職人がいる
③無料コーヒーサービスがある
変な名前のパン屋はそう呼ばれる通り、店名も外観もパン屋としてはかなり“違和感”がありますが、この1号店はまったく普通。かなり岸本氏のクセが“脱臭”されています。
店では食パンをはじめ明太フランスや総菜パンも並び、もしろこれらのほうが目立っていた印象で、高級食パン屋というイメージはゼロでした。
前述の「東洋経済ONLINE」によれば、岸本氏プロデュースのパン屋が爆発的に増えた理由は、“修行ナシ、職人不要でパンを作れるようにしたから”だとありましたが、1号店はれっきとした職人さんがパンを作っているそう。どれだけ店が増えても、おいしいパンを作れるのはやっぱり職人だけなのでは? と、絶品の明太フランスを食べると思わされます。
店名、外観、職人。どれも変な名前の店とは真逆の考えのパン屋だからこそ、8年たっても人気なのかもしれません。