• 日. 12月 22nd, 2024

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声優26名が「NOMORE無断生成AI」を提唱も“声”の権利認められず……“法整備”の課題も

 生成AIを用いた音声合成技術の進歩により、人気声優や俳優の声を無断で使用した音声や動画がSNSに蔓延し、業界内で問題視されている。そんな中、10月15日には、中尾隆聖、山寺宏一ら有志で集まった26名の声優たちによる、無断生成AIによる被害や弊害を訴える啓発活動「NOMORE無断生成AI」が始動した。

目次

声優26名が「NOMORE無断生成AI」を提唱
声優の声がAI化の一方で……「間口は狭くなっていく」ワケ
日俳連、文化庁に意見書提出も「対応が遅い」の声

声優26名が「NOMORE無断生成AI」を提唱のウラで……「現場では危機感を持っている人は少ない」現状

 「NOMORE無断生成AI」の公式XやYouTubeチャンネル、TikToKアカウントは、15日、「私の声が勝手に売られていたんです。驚きました。私たちの声は商売道具で、人生そのものです。無断で使われている声優の気持ちを聞いてください」といった中尾のメッセージに続き、26名の声優たちが「NOMORE無断生成AI」と唱和する様子を収めた20秒ほどの動画をアップ。

 そして17日には、Xで「無断生成AI」の定義を「実演家、著作権者の許諾なく、無断で追加学習、生成、公開されたAI生成物のこと」(原文ママ、以下同)だと主張。

 続けて、「2024年10月現在の法律では『情報解析のための学習』『非享受目的の学習』は著作権法の範囲外とされていますが、追加学習は議論が分かれます」と解説しつつ、「誰の声か、誰の表現かということがわかるAI生成物は、著作権だけでなく人格権にも抵触する可能性があります」「そして、悲しみ傷つく人がいます。このことを多くの人に知ってもらいたいと思っています」と、この啓発活動の目的を表明している。

 声優本人たちが声を上げることは、“声の無断使用”の抑止力につながるものとみられるが、業界内からは以下のように冷静な意見が寄せられた。

「世間に自分たちの意見を提示することはできましたが、まだ“提言”している段階なので、今のところ、生成AIでの声の無断使用を阻止できるまでの効力はありません。現行の法律では、“声”そのものに著作権や肖像権は認められていないからです。業界内でも、生成AIに危機感を持っている人はまだ少なく、『AI怖いねー』くらいの達観した人が多いのが現場でのリアルな印象です」(制作会社関係者)

青二プロ、所属者の音声をAIで多言語化の一方で……「声優の間口は狭くなっていく」ワケ

 一方で今月7日には、大手声優事務所・青二プロダクションが、AIを利用したサービスの開発や提供を行うベンチャー企業・CoeFontとパートナーシップを締結。AI音声技術を活用したグローバル戦略を展開していくと発表した。

 プレスリリースによると、両社は「AIの脅威にのみ注目するのではなく、演者の権利を適切に守りながら、魅力的な声を持つ方々の”声の可能性を高めるため”、第一歩を踏み出す必要があるという想いが一致」したことから、協業することにしたそう。

 今後は青二プロ所属者の音声データをCoeFontのAI音声技術で多言語化し、音声アシスタントやロボット・音声ナビゲーション搭載製品等への提供・提案を進めていくとのこと。その際、AI音声技術と声優の活躍領域の棲み分けを行うべく、アニメーションや外国語映画の吹き替えといった声優の「演技」の領域に関わるものにはサービスを提供しないという。

「声優の尊厳を守ることを前提とした取り組みということなので、大きな一歩のように思われますが、前述の通り、“声”自体に権利は発生しません。権利侵害として法的措置を講じることができないため、極論を言うと、事務所側が公式的にAI音声を作ったところで、個人的な生成AIの利用はどうしても防ぎきれません。ただ、業界最王手の青二プロがAI活用の先陣を切ったので、これから各声優事務所は青二にならうのではないでしょうか」(同)

 一方で、正規で作られたAI音声が普及していけば、「声優の間口は狭くなっていくだろう」(同)との声もある。

「小さいナレーション仕事などは間引かれていくでしょうから、実力がない中途半端な声優は駆逐され、高い技術を持つエキスパートたちのみが残る。近年、声優人口はどんどん増えていますが、今後はぐっと減るのでは。20〜30代くらいの売れっ子声優も、5年くらいしたら仕事量が減少する可能性が高いと予想します」(同)

日俳連、文化庁に「AIと著作権」の意見書提出も「業界は対応が遅い」?

 なお、多くの声優が属する日本俳優連合(日俳連)が公表した調査報告によると、昨年12月から今年2月にかけ、アニメやゲームなど少なくとも46作品、267人の声優の声が無断で生成AIコンテンツに利用され、特にTikTokなどで確認されたという。

 同組合側は、以前から生成AIを用いた声の無断使用に警鐘を鳴らし続けており、今年2月には、「AIと著作権」に関する意見書を文化庁に提出している。

「今の声優業界は、生成AIに対する対応が非常に遅く、個々の集団でポツポツと行っているだけで、後手に回っている印象です。著作物として法的に“声”を守るためにも、今後も日俳連が先頭に立ち、法整備の必要性を積極的に訴えかけるべきです」(同)

 正規AI音声の運用に関するガイドラインの制定や声の著作権の立法化など、まだまだ課題は山積みだろう。過渡期を迎えた声優業界の今後の動向を見守っていきたいところだ。

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