【サイゾーオンラインより】
2025年の一番の話題作といえば、吉沢亮が主演を務めた『国宝』だろう。6月6日に封切られた同作は、11月24日までの公開172日間で、観客動員数1231万1553人、興行収入173億7739万4500円を突破し、実写邦画史上No.1の成績を打ち立てた(興行通信社調べ)。その後もさらに記録を伸ばし続け、12月21日までに興収181億円を超えたという。
この記事では、年間を通し300本以上の作品を観た映画ライターの筆者が独断と偏見で選ぶ、「2025年実写邦画ベスト5」を紹介しよう。『国宝』以外にもすばらしい作品があることを知っていただけたら幸いである。
5位 北村匠海主演『愚か者の身分』(10月24日公開)
西尾潤氏による同名小説(徳間書店)の実写版で、“闇バイト”に手を染める若者3人のリアルな日常を描きながらも、主軸となるのは「⼤⾦が忽然と消えた」事件をきっかけとした「逃走劇」だ。「3人それぞれの視点から語られる」構成になっているからこそ「事件当日に何があったのか」というミステリー性に引き込まれるし、予想外の展開も待ち受けている、画面に釘付けになるエンタメ性が抜群の内容だった。
何よりの魅力は、登場人物に「幸せになってくれ!」と願いたくなること。危うい道に足を踏み入れる主演の北村匠海はもちろん、その兄貴分である綾野剛の心の揺れ動き、弟分を演じる林裕太の天真爛漫な愛らしさは、「この世に本当にいる人」に思えるほどの実在感があり、それぞれが見せる「表情」を忘れることはできない。
興行的にはやや苦戦を強いられていたものの、絶賛の口コミにより満席の回も相次いでいた。PG12指定納得の痛々しいシーンもあるが、それを除けばかなり万人向けの作品だろう。なお、同じ闇バイトを題材にした映画『ヒグマ!!』は日本全国でのクマ被害を受け公開延期となったものの、新たな公開日が2026年1月23日に決定しており、こちらもスリリングな娯楽作なのでおすすめだ。
4位 杉咲花主演『ミーツ・ザ・ワールド』(10月24日公開)
金原ひとみ氏の同名小説(集英社)の実写化だが、同氏の作品の映画化は、2008年公開の『蛇にピアス』(主演・吉高由里子)以来なんと17年ぶり。ポスタービジュアルの印象ではオシャレな青春映画のように見えるが(実際にそうでもあるが)、実は杉咲花が「BLアニメのオタク」かつ「ガチ勢」の主人公を演じており、その演技が面白すぎて笑えるタイプの作品だ。劇中のアニメがグッズも含めて「本当にありそう」と思えるほどに作り込まれており、人気声優の村瀬歩や坂田将吾が参加していることもたまらない。
物語は「寂しさを抱えている人に寄り添う優しさ」を存分に感じさせる。何しろ主人公が一緒に住むことになるのは、カジュアルに「希死念慮」を口にしてしまうキャバクラ嬢(南琴奈)であり、彼女に「死なないでほしい」「何かををしてあげたい」主人公の気持ちに共感できる人は多いはず。その先に待ち受けているのは、安易な救いを与えたりはしないが、突き放してもいない、少し心が軽くなるような、人生へのエールだった。
主人公は27歳で「同世代のオタク仲間たちが次々と結婚や出産をしたために婚活を始める」という立場であるため、独身者はもちろん「オタ活」をしている人には少し心が痛い内容かもしれないが、その痛さを含めて楽しめるという方にこそおすすめだ。杉咲や南だけでなく、既婚ホスト役の板垣李光人、女性作家役の蒼井優、バーのマスター役の渋川清彦らも一面的ではない魅力を放っているので、それぞれのファンには是が非でも観てほしい。
3位 芳根京子主演『君の顔では泣けない』(11月14日公開)
君嶋彼方氏の同名デビュー小説(KADOKAWA)の実写化で、尾美としのりと小林聡美が主演した『転校生』(1982年)や、新海誠監督によるアニメ映画『君の名は。』(2016年)を連想する「男女の入れ替わりもの」だ。しかし、本作はその期間が「15年」と規格外。その長さは時に2人の亀裂を生み、時に恋愛や人生そのものに大きな影響を与えていく。現実ではあり得ないファンタジーだが、現実で「もしも自分があの人だったら」「もしもあの人が自分だったら」と、「自身とは違う性別や立場の身近な人のことを想像する」ことへの意義深さも感じられる。
何より、「15年間も違う性別を心に宿して生きていて、慣れてはいるけど2人だけで会う時に“素”の自分が出てしまう」難役を演じきった芳根京子と髙橋海人(King&Prince)が掛け値なしにすばらしい。その2人の少年少女時代役として、西川愛莉と武市尚士というルックスが主演の2人に似ていて、本当に“15歳の彼ら”に見えて、演技もすばらしい若手俳優2人をキャスティングしたことも、心から称賛したい。
さらに、終盤には髙橋が、トランスジェンダーの方が持つであろう切実な心情を、長回しでたっぷりと独白する場面がある。センシティブであり賛否が分かれるかもしれないが、筆者個人はとても誠実な描写だと受け取った。この「男女の入れ替わり」の物語を通じるからこそ、その気持ちに「近づける」と思ったからだ。なお、坂下雄一郎監督は、本作の公開1週後に上映された岩田剛典主演『金髪』も手がけており、こちらはアラサー男性のイタい気持ちを突いてくるコメディとしておすすめだ。
2位 松たか子主演『ファーストキス 1ST KISS』(2月7日公開)
菅田将暉と有村架純のダブル主演作『花束みたいな恋をした』(21年)や、安藤サクラ永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太の4人が主演した『怪物』(23年)の坂元裕二氏が脚本を手がけたオリジナル作品で、「事故で死んでしまった夫の運命を変えようと奮闘する」という「タイムトラベル&ループもの」だ。「リセットを繰り返して同じ時間で学んだことを次に生かしていく」過程はまるでテレビゲームのようでもあり、主人公があの手この手でひねり出す工夫やアイデアを存分に楽しめるだろう。
本作を語る上では、メインキャストの2人の愛らしさは外せない。松たか子のあっけらかんとしたイメージが、やや猪突猛進かつ言動が素直な主人公にベストマッチ。その夫役を務めた松村北斗(SixTONES)はオタク気質でやや消極的にも思えるキャラクターだからこそ、「ここぞ」という時の感情の発露にキュンキュンする。2人に年齢差があることも重要で、主人公は「45歳の自分が29歳の夫にアプローチをすること」を気にしてしまうのだが、劇中の2人の相性が抜群に見えるため「気にすんな! グイグイ行け!」と心から応援できる。
物語を大きくけん引しているのが、この2人が「15年後には幸せでなくなり、離婚をしてしまいそうになっている」こと。卑近な会話劇と、哲学的な思考が組み合わさってこその「人の価値観は、受け取り方や考え方で大きく変わっていく」学びも得られるだろう。なお、坂元氏は25年の映画では『片思い世界』(主演:広瀬すず、杉咲花、清原果耶)の脚本も担当しており、こちらは「ネタバレ厳禁の仕掛け」も含めて、映画ファンからの賛否がパックリと分かれた内容となっていた。
1位 嶋田鉄太主演『ふつうの子ども』(9月5日公開)
綾野剛主演『そこのみにて光輝く』(14年)や高良健吾主演『きみはいい子』(15年)と傑作続きの呉美保監督と脚本家・高田亮氏のタッグが送り出すオリジナル作品だ。ビジュアルやタイトルからはほのぼのとした作品だと思われるかもしれないが、実際は小学生の男の子とその仲間たちが「排気ガスを減らすために車の排気口にシーツの切れ端を詰め込む」「二酸化炭素を生む牛の肉を売る精肉店にロケット花火を打ち込む」といった「エコテロリズム」に足を踏み入れてしまうという、なかなかに「攻めた」内容だ。
特に、主人公の少年(嶋田鉄太)が恋焦がれる少女(瑠璃)が、環境活動家のグレタ・トゥーンベリの「How dare you(よくもそんなことが言えますね)!」というセリフを「受け売り」していることに、複雑な思いを抱える方は多いだろう。もちろん誰かに影響されることや、環境問題に関心を抱くことを否定しているわけでない。かと言って劇中の犯罪行為が許されるわけでもないので、劇中の風間俊介演じる先生や蒼井優扮する親たちと同様に「どうすればいいのか」と考え込んでしまうだろう。
詳細はネタバレになるので伏せておくが、その問いかけを経てのクライマックスで、子どもたちが話す言葉に涙が止まらなかった。「子どもの考え方を甘く見積もらない」作り手の気概は、きっと伝わることだろう。柳楽優弥主演『誰も知らない』(04年)やブルックリン・プリンス主演の洋画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(17年)に通ずる「子どもの演技が演技ではなく自然体に見える」映画としても最高峰だ。現在はAmazonプライムビデオで見放題であり、上映時間が96分とコンパクトで比較的見やすい内容なので、ぜひ優先的に選んでいただきたい。
他にも優れた実写邦画はたくさん!
その他、『室町無頼』『見える子ちゃん』『ドールハウス』『フロントライン』『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』『か「」く「」し「」ご 「」と「』『悪い夏』『岸辺露伴は動かない 懺悔室』『遠い山なみの光』『宝島』『ベートーヴェン捏造』 『盤上の向日葵』『てっぺんの向こうにあなたがいる』『平場の月』『ブルーボーイ事件』『旅と日々』『TOKYO タク シー』なども激推しできる邦画だった。
さらに、『劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室 南海ミッション』『8番出口』『秒速5センチメートル』『爆弾』と、2025年はアニメだけでなく、実写邦画でもヒット作が続々と生まれたことがとても喜ばしい。「すごい邦画は『国宝』だけ」などとは決めつけず、まずは観てみてほしい。