羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。
<今週の有名人>
「令和の時代にウソついたら、終わりです」 NMB48・渋谷凪咲
『令和の正解リアクション』(TBS系、9月11日)
セクハラやパワハラに対する人々の意識が高まり、「人を傷つけない笑い」がよしとされる時代、これまでのような毒舌を続けると問題が起きてしまう。しかし、先週、同コラムで触れた有吉弘行のように、常に一線を走る人というのは、毒舌の方向性や調合を変えながら進化している。そして彼だけでなく、女性芸能人の毒舌も変化していると感じることがある。
かつての毒舌女性芸能人のメインネタといえば、“結婚”だった。例えば『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)では、「格付けしあう女たち」というコーナーの中で「結婚の対象にならない女」など、世間もしくは男性に結婚相手としてどう評価されているかにまつわるランキング企画を頻繁に行っていた。女優・杉田かおるや遠野なぎこがワーストに輝き、落胆や憤慨しながら、女子アナなど男性ウケのいい女性に毒舌を吐くというのがお決まりのパターンだった。
「結婚の対象にならない女」とみなされるのが不名誉と考えるのは、逆にいうと、企画立案した側が「男性に結婚対象としてみられることはうれしいはず」と思っていることの表れではないだろうか。今の時代にこのような企画を行うと、「女性は男性に選ばれる性なのか」「結婚は個人の自由であり、なぜすべての女性が結婚したがっているという前提なのか」と世間に批判され、炎上する可能性がある。なので、結婚をネタに30代以上の女性がやさぐれる(フリをテレビの前でする)毒舌は、時代に合わないといえるだろう。
オンナ芸人が毒舌役の担当になることもあった。かつての『踊る!さんま御殿』(日本テレビ系)で顕著だったが、女子アナや若いタレントは“モテるチーム”、オンナ芸人やある程度の年齢の女性は“モテないチーム”に入れられる。オンナ芸人らがモテるチームの女性に毒を吐き、司会の明石家さんまが「おまえらのひがみやないかい!」とオチをつけるのが定番。しかし、今や恋愛に興味がないとはっきり言う人が増えているから、モテることがそれほど視聴者の心に響くとは思えないし、容姿や年齢でチームを分けること自体、問題になり得るだろう。
しかし、これまた先週も書いたのだが、テレビ番組に毒舌が全くなかったら、それはそれで盛り上がりに欠けると思う。こんな時代、オンナの毒舌は誰がどんなふうにすればいいのか。そう考えながらテレビを見ていたところ、すごくうまい人を見つけた。NMB48の渋谷凪咲だ。
いかにもアイドルというルックスや、ゆっくりした口調だから、見た目や立ち位置で判断するのなら、誰も渋谷が毒を吐くなんて思わないだろう。しかし、実はゆっくりした口調の中にうまいこと毒を含ませていることがわかる。大声を張り上げて毒を吐くのではなく、よく聞いてみるとひどいことを言っているので、それがこちらを笑わせるのだ。
9月11日放送の『令和の正解リアクション』(TBS系)に出演した渋谷の発言を振り返ってみよう。この番組は、ピンチの時に「令和らしい一言」で切り抜けようというもので、ゲストの解答を令和世代の一般人に評価してもらい、ランキングをつける。
例えば、恋人に「前に行ったあそこの水族館、めちゃくちゃすごかったよね」と話したら、実は前の恋人と出かけた場所で「そんなところ、行ったことがない」と言われてしまった場合、どう答えるかという問題。渋谷はこれに「ごめん、間違えちゃった。怒ってる? 怒ってるよな? めっちゃうれしい。だって嫉妬してくれるってことやろ? ありがとう。めっちゃ好きやで」と、アイドル的というか、ぶりっこ的な返しをして、1位を獲得する。
1位を取ったら、おとなしくいい子にしているのがフツウのアイドルだが、渋谷は違ったう。同番組には、ジャニーズのA.B.C-Z・河合郁人が出演していて、彼は同じ上述した質問問題に「ごめん、現実より、夢の中で君とデートしすぎちゃった」と答えた。これに対し、渋谷は「私はウソつきたくなかった」「変に『夢の中で』とごまかしたりとか」と、河合に向かって毒を吐く。
かつてオンナの毒舌は、オンナ同士で争い、オトコにはその矛先を向けないというのが定番のスタイルだったように思うが、渋谷はそのルールを超えていく。口調が柔らかなので角も立たない。「令和の時代にウソついたら、終わりです」という一言は至言で、彼女の頭のよさがよく出ていると思う。
しかも、渋谷は笑いもイケる。「仕事中に恋人に『愛してるよ』とメッセージを送ったつもりが、実は先輩に送ってしまった」時の咄嗟の一言として、渋谷は先輩に「彼に送るメールなんですけど、誤字がないかチェックお願いします」と真顔で言うそうだ。これに河合は「おもしろい!」と反応し、MCのロンドンブーツ1号2号・田村淳も「真顔で!?」「すごいのよ、渋谷やっぱメンタルが強い」と笑っていた。
「有吉は正論もしくは毒舌1、譲歩2でパワハラにならないような芸を完成させている」と先週書いたが、渋谷もブレンドがうまい。アイドルらしい発言、毒舌、そして笑いが1対1対1。アイドルとしての本分を守りながら、ほかのエッセンスも巧みに混ぜていく。なので、毒舌だけが際立たないのだろう。
渋谷は8月31日放送の『ロンドンハーツ』の企画「格付けしあう女たち」に出演し、一般女性200人が選ぶ「友達になりたくない女」のランキングを予想していたが、先輩にあたる元AKB48・峯岸みなみを「インスタで一般人の悩み相談に乗ってあげている」と丁寧な対応を褒めた後で、「たまに後ろで坊主の影がちらつくっていうか……」と“黒歴史”をいじってみせた。文字で見ると先輩に対する敬意を欠いているように感じるかもしれないが、番組を見てみれば、特に攻撃的でないことに気づくはずだ。
言うことは言うが、必要以上にキツい感じにならずに収めるのが、これからの時代の毒舌なのかもしれない。アイドルというポジションにありながら、毒舌もイケる渋谷は、テレビマンに重宝されるのではないだろうか。彼女が次世代のバラエティークイーンになる日は近いと思う。