男性歌謡コーラス・グループ「純烈」リーダーである酒井一圭氏のツイートが物議を醸している。
酒井氏は8月15日、自身が出演した特撮テレビドラマ『百獣戦隊ガオレンジャー(以下、「ガオレンジャー」)』(テレビ朝日系)関連のイベントについて、下記のように投稿。なお、酒井氏は2001年から放送されていた「ガオレンジャー」に「ガオブラック」役として出演していた。
<#ガオフェス
#和歌山マリーナシティ
無事に終わりました。ガオレンジャー20周年。ご来場いただいた皆さん、ありがとうございました
#ゼンカイジャー vs #ガオレンジャー は11/3まで続きます。是非ともスペシャルバトルステージをご覧きたいです。応援宜しくお願い致します
#ガオホワイトの尻>
※絵文字は省略しています。
波紋を呼んでいるのは同時に投稿された18秒の動画だ。
動画には、酒井氏が女性の役であるガオホワイトに「あれ何」と気をそらせた隙に、彼女のお尻を触る場面がおさめられていた。他の出演者が「お尻を触るのをやめなさい」とツッコみを入れるが、舞台上からも客席からも笑い声が聞こえた。
このツイートが投稿された当初は、ファンと思われるアカウントから「スカートめくりですか? 酒井さんらしい」「何しちゃってるんですか(笑)」といったリプライが投稿されており、好意的に受け止めている人が多数であった。
しかし、ここ数日の間にファン以外に拡散されたことで、「痴漢は性犯罪です」「ネタで済まされることではない」「特撮という子どもが見るものであり得ない」「ファンの反応にもがっかり」など批判が殺到している。
「触られたくらい」ではない痴漢・セクハラ被害
ショーの中からあえて痴漢の場面を切り取って投稿していることに加え、酒井氏は「#ガオホワイトの尻」とハッシュタグも付けていた。さらに舞台上の出演者、客席からも笑い声が聞こえることから、あの場では「同意なく他者のお尻を触る」ことは笑えるネタとして認識されていたといえる。
しかし、「同意なく他者のお尻を触る」ことは、痴漢やセクハラにあたる行為だ。未だに「それくらいいいじゃん」「単なるネタだし」と茶化す人もいるが、被害を受けた人にとっては、「触られたくらい」などといえるものではない。
痴漢やセクハラの被害は、触られた瞬間に不快な思いをするだけではない。自分の意思とは関係なく体を触られるというのは、尊厳を傷つけられることであり、恐怖心から同じような状況がトラウマになる人もいる。「被害から数十年経過しても当時のことを覚えている」と語る被害者も少なくない。
ここ数年、#MeTooによる風潮の変化や、声をあげる被害者が増えてきたことなどで、徐々に社会の認識は変容しつつある。一方でまだアップデートができてない層がいるのも事実であり、まだまだ「痴漢やセクハラは被害者を深く傷つける」「『お尻を触られたくらい』ではない」ことを広めていく必要があるだろう。
東映が関わった特撮ヒーローショーの現場では、かつて司会をしていた女性に対するセクハラが問題となったことがある。
2019年、東京ドームシティにあるヒーローショーの劇場「シアターGロッソ」で「ショーのお姉さん」として活動していた中山愛理氏が、仕事仲間からのセクハラ・パワハラの告発をした。その内容は以下のとおり。
<入った当初からの度重なる嫌がらせ(基本的に挨拶も無視、握手会中に水を掛けて妨害する、など)と、セクハラ (男性器のあだ名をつけて呼ぶ、すれ違い様にお尻を揉む、避けられない空間での卑猥な質問や直接的に胸を触る、など)に黙って1年耐えていた>
<会社からは、余計なことを言ったらもうお前に仕事を振らないぞ、と強く言われていましたのでこれを発信するということはそういうことです>
<「パワハラ、セクハラはただの冗談だから、そういう業界だから仕方ない」と散々言われてきました>
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このとき、東映と東映エージエンシーは東京ドームからショー制作を受託していた。2019年7月に東映は、聞き取り調査の報告及び謝罪文を掲載。その際、今後の対策として下記のように発表している。
<ヒーローショーに関わるスタッフが事前にハラスメント講習を受講することを必須とし、ハラスメント等が起きないよう継続的な教育プログラムを作成いたします。
あわせて、ヒーローショーに関わる全てのスタッフが匿名で相談可能な外部窓口の設置、第三者による現場における定期的な聞き取り調査等を行うことにより、ヒーローショーを楽しみにしてくださるお客様やスタッフが安心してショーに参加できる環境づくりに努めてまいります>
今回問題となった「ガオフェス」公演の空気感を見る限り、ハラスメントに関する本質が理解されているかは疑問である。「ハラスメントとは何か」「被害者にどういった影響を与えるか」「舞台上で性暴力をネタとすることが何を意味するか」など学ぶ必要があるのではないか。
大人も「プライベートゾーン」から学ぶ必要がある
酒井一圭氏の痴漢行為を通じて筆者が強く感じたのは、性教育の重要性だ。もし酒井氏が性教育の第一歩である「プライベートゾーン」という概念を理解していたら、今回のような事態は防げたのではないか。
「プライベートゾーン」とは水着で隠れるパーツと口のことを指し、「他人が勝手に触ったり見たりしない」「触られてイヤなときは『NO』を示す」場所である。今年から導入されている文部科学省の施策「生命の安全教育」の指導手引きでは、幼児期および小学校においてプライベートゾーンに関する記述が見られる。
性教育本が次々と刊行されるなど、ここ数年、性教育への注目は高まっているが、広まりを見せたのは本当に最近の話だ。筆者自身も数年前まで「プライベートゾーン」について知らず、自身のプライベートゾーンを侵害された出来事において、自分を責めてしまっていた。性教育は他人を傷つけないためにも、自分の身を守るためにも、そして傍観者にならないためにも必要な知識だ。
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