羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。
<今週の芸能人>
「かわいがられなくて当然」 四千頭身・後藤拓実
『あちこちオードリー』(9月22日、テレビ東京)
私が海外に住んでいたときに驚いたことの一つが、中国や韓国など、日本以外のアジア人が頻繁にお金の話をすることだった。日常会話の中で本当にごく自然に「いくら稼いでいるの?」「それはいくらしたの?」と聞き出すだけでなく、彼女たちは自分の情報もオープンにする。私は「人前でお金の話をしてはいけない」と親にしつけられたタイプだが、同じような教育を受けた日本人は多いのではないだろうか。
なぜ日本では、人とお金の話をするのがいけないのか。収入に関する話は個人情報でありプライベートなことだから、口外しないという意識もあるだろうが、寄付を「浄財」と呼ぶことでもわかる通り、日本人の多くが「お金は不浄なもの」という感覚を持っているからだと思う。しかしながら、お金がないと生活していけないのもまた事実であり、投資法や金銭的格差を書いた記事はよく読まれると聞いたことがある。
お金のことが好きだからこそ、時にお金を持っている人をねたましく感じる。しかし、それを人前で口にするのは恥ずかしい。これが日本人の平均的な感覚ではないかと推測するが、だからこそ、お金の話は難しいと感じることがある。特に目上の人の前では、その難易度が上がるのではないだろうか。
9月22日放送の『あちこちオードリー』(テレビ東京系)で、ゲストのお笑い芸人、四千頭身・後藤拓実は「先輩芸人との精神的距離を感じて孤独」と明かしていた。先輩にかまってもらえないというわけではなく、話しかけてもらえるものの「心のどこかでは『何だコイツら』(って思われているんじゃないか)」「『シャバ僧がこの野郎』と思われていると思っちゃう」と、先輩の優しさが本物ではないと疑っている様子。番組MCのオードリー・若林正恭は「それだったら、話しかけないでしょ」と答えていて、私もその通りだと思うが、後藤がこう考えてしまうにはワケがあるようだ。
「芸能界で成功した」後藤拓実が間違えたコト
後藤は2020年11月に行われた「ワタナベNオンラインハイスクール」の記者発表会に出席した際、「偏差値37の高校を出て、タワマンからアウディで来ました。夢をつかめばこうなります」と発言。今年7月にはニュースサイト「文春オンライン」の直撃取材を受け、舞台女優・柚木亜里紗と交際中だと明らかにしている。
かつて、ナインティナインの矢部浩之がバラエティー番組で、芸能界に入った理由を「いいクルマ乗って、いいもの食べて、いいオンナを抱く」ためだと話していたことがあるが、車の価格や恋人の職業を自分のステイタスに置き換える人は、どこにでもいる。過去の矢部発言からいうと、高級マンションで女優の彼女と半同棲し、高級車に乗っている現在の後藤は「芸能界で成功した」部類に入るだろう。
後藤はこれらの“業績”を記者の前でアピールした理由について、「若手を活気づけたかった」と明かしたが、その方針は今になって考えると「全部間違ってました」と『あちこちオードリー』で振り返る。「そりゃ、かわいがられなくて当然」「調子乗ってる(と先輩に思われる)しかなくて」と、自身の発言が先輩たちの誤解を招いたと話していた。実際、後藤がどう思われているのかわからないが、本人はこう思い込み、先輩の優しさを疑ってしまっているようだ。
ノブコブ・吉村も「高級車買った」話で失敗してた?
お金の話で失敗した芸人は、後藤だけではない。14年放送の『ざっくりハイタッチ』(テレビ東京系)にゲスト出演した平成ノブシコブシ・吉村崇は、2000万円の高級車・BMW「i8」を注文したと告白。芸能界で売れるとこれほどの高級車が買えるという夢のある話のようだが、実際は吉本興業からの借金で購入した上に、そもそも運転免許を取ったばかりだったという。
この頃の吉村は“破天荒”なイメージで売っていたが、同番組ではタワーマンションに住み、有名女性芸能人と付き合いたいけれど、実際は地上波に出られないタレントのタマゴの子くらいとしか付き合えないとボヤき、さえない一面も見せた。“業績”をアピールしただけの後藤とは違い、吉村は先輩に「かわいがられそう」なエピソードも付け加えたのだ。
しかし、いつもなら後輩の話を広げる出演者の千原ジュニアや小藪千豊が、吉村の話には全然ノってあげなかったと記憶している。小藪は「半年後は仕事があるかわからないのに、そんな借金をするなんて」と浪費をたしなめ、ジュニアは「その2000万円のBMWに、まだ地上波に出たことのないグラビアの女の子を乗せるの?」と、そっけない態度を取ったように私は感じた。
話芸ではなく、高い買い物をすることで笑いを取ろうとした吉村の姿勢が、2人には納得いかなったのかもしれないし、先輩相手にマウントを取るような態度に感じられたのかもしれない。なぜ盛り上がらなかったのか詳細は不明だが、やはり「高いものを買った」という話は、人によって受け止め方が違うので、特に先輩相手にはしないほうが無難なのだろう。
お金の話とは別に気になる、後藤拓実の「雑さ」
お金の話とは別に、後藤が先輩からかわいがられない理由だと思うのは、表現の雑さだ。
『あちこちオードリー』にて、MCを務めるオードリー・春日俊彰に「先輩ともっと話したいの?」と聞かれた後藤は、「話してくれて大丈夫なんです」と答えていた。この言い方だと、先輩に対して上から物を言っているような印象を受けると思う。さらに、先輩が自分に声をかけない理由について、「(先輩が)ビビってるのかもしれないですね」と分析した。
オードリーの2人がこの話をうまく掘り下げたので、「先輩を俯瞰で見ていると思われているから、後藤に話しかけづらいのではないか」「本当は先輩のことを全員面白いと後藤は思っている」といった補足がなされたものの、「ビビっているのかもしれない」という言葉だけを聞くと、後藤が先輩をバカにしていると思う人がいてもおかしくない。こうした雑な発言も気になった。
自分ではそんなつもりがなくても、失礼な態度を取られたと感じたほうは、そのエピソードをそう簡単に忘れないだろう。礼儀がなってないからといって先輩から怒られる時代ではないが、怒られないからといって、それが許されているとは限らない。
ダウンタウン・浜田雅功は、年上ゲストの頭を叩くこともあるが、事前に自ら挨拶に行くなど気配りを欠かさないと、『ダウンタウンDX』(日本テレビ系)で出演者から明かされていた。朴訥とした語り口は後藤の魅力だろうが、お金の使い方もさることながら、見えないところで言葉を惜しまず、誤解を招かないコミュニケーションを取ることが、先輩にかわいがられる近道ではないだろうか。