ヒップホップ系音楽誌の元編集部員、田口るいさんがボーイズグループのラッパーについて考察します。
目次
・INI・池崎理人のラップはStray Kids・Felixに似てる?
・BE:FIRSTのSHUNTO、Number _iの平野紫耀も低音ボイスラップを披露
・「低音ボイスラップ」は個性として飽和状態?
・ゴリゴリのフロウは「なんかかっこいいのかもしれないけど、わかんない」
INI・池崎理人のラップはStray Kids・Felixに似てる?
ボーイズグループに必ずといっていいほど存在する、ラップ担当メンバー。かつては他グループとの差別化などを図るために、無理矢理やらされている感が伝わってくるようなラップ担当メンバーもいたものだが、このところはヒップホップなどのクラブミュージックに造詣が深い“ガチラッパー”も珍しくない。
グローバルボーイズグループ・INIの池崎理人もそのうちの一人である。
ザ・美少年的なルックスとのギャップが感じられる低音ボイスが特徴的で、昨年5月12日に千葉・幕張メッセで開催された世界最大級のKカルチャーフェスティバル『KCON JAPAN 2023』では韓国の8人組ボーイズグループ・Stray Kidsの楽曲「MANIAC」のフィリックスのラップパートを披露した。
以前からファンの間で池崎とフィリックスのビジュアル、そして低音ボイスが似ていると話題になっていたことから、ファン待望のパフォーマンスが実現した形だ。
フィリックスとの共通項が多いといわれる池崎は、インタビューなどで「憧れのアーティスト」はBTSのV(テテ)だと公言している。そんなVはBTSのボーカルラインだが、BTSはファンミーティングなどでボーカルラインがラップパートを担当することも。
そうした場面で披露されているVのラップは力強い低音ボイスが印象的で、フロウや声質が池崎やフィリックスと通じるものがある。世間的にはラッパーというイメージがほぼないVだが、もしラップラインを担当していたとしたら池崎、Felix、Vの3人のスタイルが似ていると言われていたかもしれない。
BE:FIRST・SHUNTO、Number _i・平野紫耀も低音ボイスラップを披露
それにしても、この3人のラップはかなり似ているのではないだろうか。相当コアなファンでない限り、3人のラップを聞き分けるのは難しいかもしれない。
しかも3人とも、近年ボーイズグループのビジュアルのトレンドともいえる、ほんのり中世的な雰囲気のある端正なイケメンだ。初見の場合は区別が難しい可能性がある。
先にも少し触れたが、池崎、Felix、Vのようなキレイな顔立ちのイケメンが低音ボイスでラップするのは確かにギャップが感じられる。とはいえ、Vは普段ボーカルラインなのでまた別ではあるものの、池崎とFelixはイケメン×低音ボイスのラップという点が共通していることで独自性が薄れてしまうのではないか。
加えて、BE:FIRSTのメンバー・SHUNTOやNumber _iの平野紫耀もセクシーな低音ボイスでラップパートを披露することがある。イケメン×低音ボイスのラップは、もはや何も珍しいものではなくなってきているのだ。
「低音ボイスラップ」は個性として飽和状態?
さまざまなボーイズグループが存在している現在、そのグループ自体は知っていてもメンバーまではわからない、またはそれぞれのボーイスグループの違いがわからないという人もいるだろう。
だからこそ、メンバーの際立つ個性が求められる傾向にあるが、取り急ぎ「イケメン×低音ボイスのラップ」枠は飽和状態に近い。それぞれのファンが魅力的だと感じていればいいというのは大前提だが、より高みを目指すのであれば「ファンしか違いがわからない」というのはウィークポイントになり得る。
とはいえ、ボーイズグループのメンバーは、歌もダンスもビジュアルも完璧で、楽曲制作にも携わっているというのがデフォルトになってきており、さらに特別ファンでなくてもわかりやすく認識できるような独自性まで必要となると、相当ハードルが高くなる。
誰とも被らない個性的なキャラを探求・実現するのか、それともほかのボーイズグループのメンバーとキャラ被りしていてもパフォーマンスのレベルで差をつけるのか。いずれにせよ、求められるものが増える一方で同情してしまう。
ゴリゴリのフロウは「なんかかっこいいのかもしれないけど、わかんない」
特にラップ担当メンバーは、己のヒップホップスタイルを追求しすぎると、メインターゲットであるアイドルファンには刺さりにくい傾向にある。
基本的に、ヒップホップについてあまり知らない層からすると、ゴリゴリのフロウは「なんかかっこいいのかもしれないけど、よくわかんない」のだ。
かといってヒップホップフリークはそもそもボーイズグループの楽曲に興味がないパターンも珍しくないので、いくらラップがイケていても、ヒップホップフリークの間では存在が認知されにくい。
こうした現状を打破し、いつか双方にウケるスタイルを体現してくれることを期待したい。